自動車デザインのオープンソース化
アメリカやヨーロッパではオープンソースとユーザー参加型の開発が進んでいる。
もともとオープンソースはソフトウェア開発の分野で使用されていた言葉だが、最近では製品設計の分野でも盛んにその概念が言われるようになっている。
こうした製品設計いわば製品開発におけるオープンソース化の動きを引き起こしている原因は3Dプリント技術だ。
3Dプリント技術は3DCADデータをもとに物体を生成する技術であるため、データのオープンソースという方法が可能になる。
ある製品の3DCADデータがオープンにされれば、コミュニティに参加している他の誰かがそのデータをもとに、新たな改良を行い、オープンにする。
そしてまた別の誰かがオープンにされたデータをもとに改良し、再びオープンにする。
オープンソースの最大のメリットはそうしたコミュニティに参加する無数のユーザーによって改良が可能な点にある。
インターネットを介してやり取りされるため、世界中どこにいてもコミュニティに参加が可能だ。こうしたオープンソース化とコミュニティ開発の流れは自動車の設計分野においても動きが出始めている。
自動車と自動車部品の設計においてコミュニティの力によりイノベーションを起こそうという考えを持っている企業がローカル・モーターズだ。
ローカル・モーターズは2007年に設立された企業で、自動車と自動車部品のオープンコミュニティで、コミュニティに参加した多くのデザイナーやエンジニアなどが設計プロセスに参加することでより良い自動車や、より良い部品を作ることを目的としている。
ローカル・モーターズの仕組み
ローカル・モーターズは単純なオープンソースのコミュニティではなく、その名の通り、ローカル、地域ごとの開発プロジェクトを行っている。
登録しているエンジニアやデザイナーたちが自分たちの地域に住む自動車開発に関わるプロジェクトに参加することができる。
現在このローカル・モーターズのコミュニティに参加しているデザイナー、エンジニア、加工業者などは3,660名おり、421個のプロジェクトが存在する。421個のプロジェクトには1200個のアイデアと4900個の様々なデザインがオープンにされ、開発された製品はショップで販売もされている。
421の開発プロジェクト
4900のデザイン
開発された製品はShopで販売される
投稿された数々のデザイン
開発プロジェクトはアイデアを投げかけたメンバーに対して、それに参加するデザイナーやエンジニアたちが協力し、製品化につなげていくという仕組みだ。
まさに自動車版のQuirkyと言える。Quirkyでは一般家庭用のコンシュマー向け製品のアイデアを投稿し、投票に従ってデザイン、マーケティング、量産という各フェーズに進み、一定数の予約がとれ採算をとることが可能であれば生産されるという仕組みだ。
Quirkyはこの仕組みを利用し、家電メーカーであるGEや家庭用品を手掛けるP&Gと共同で製品開発を行なったりしている。このローカル・モーターズもオープンコミュニティの特性を生かし、新たにオークリッジ国立研究所と共同研究開発契約を締結した。
コミュニティによるクリーン車両の共同開発
ローカル・モーターズと新たに共同研究開発を締結したオークリッジ国立研究所とはどのような機関なのであろうか。
オークリッジ国立研究所はアメリカで70年の歴史をもつ国の研究機関で、エネルギー、ライフサイエンス、中性子科学、先端材料の研究開発を行っているハイテク機関で、4000名以上の客員研究員が所属する科学技術のエキスパート機関だ。
今回の共同研究の目的は、エネルギー消費・温室効果ガス排出力を削減するクリーンな車両を開発する技術研究が目的である。
今回のパートナーシップ契約において、ローカル・モーターズのオープンな開発プラットフォームを利用することが可能になり、コミュニティに参加する3,660名のデザイナーやエンジニア、加工業者たちのアイデアとフィードバックを得ることが可能だ。
また同時にローカル・モーターズの特性を生かし、より地域に密着した小規模ニーズに合わせた製品開発の調整が可能になる。
こうした大多数が参加するオープンコミュニティを利用することの最大のメリットはどのような点にあるのだろうか。第一は製品開発のスピードを圧倒的に早くすることができる点にあるという。
これはすべてのアイデアや技術がオープンにされているということから、可能、不可能、取捨、選択が非常にスピーディに行われるからだ。
また不可能であったとしても、それを可能にするアイデアや技術が無数のユーザーの参加により克服される可能性が高い。こうした点は第二のメリットである高度な開発性を引き起こす。
常にオープンにされたアイデアが改良の上書きを連続して行われるため開発が飛躍的に高まることを意味している。
第三は実現性の高さである。
単独の研究機関や単独の企業が行う製品開発では想像もできない予算で実現できてしまう可能性もある。予算範囲内で製造可能にするアイデアと技術もコミュニティに求めるという方法だ。
まとめ
こうしたオープンコミュニティの動きはアメリカを中心に巻き起こっているが、政府もインターネットのオープン性と参加型という特長を大いに認め、自国産業の開発に利用している点が面白い。
通常、政府は野放図なインターネットの解放を規制する立場に回るのが通常だが、あえてインターネットのオープン性と参加型という特長を取り入れている。
これは規制するよりもはるかにメリットとして得るものが大きいことを示しているのではないだろうか。
一方で、こうした取り組みを日本に置き換えてみた場合、インターネットを使ったコミュニティ参加型のものづくりは日本では根付くのだろうかという疑問がわく。
少なくとも日本人の相手との人間関係を大切にしたビジネススタイルとは相反する部分があるように思え、こうしたヴァーチャルな展開が日本の製造業にあっているかどうか、または取り入れた場合、本当に機能するのだろうかという感じがしてならない。
一方欧米の日本人の感覚を飛び越えた製品開発におけるインターネットの利用方法には、競争力という観点から言うと、後れをとるのではないだろうかという危惧もわく。こうした海外のオープンコミュニティの事例も注視し、日本に適合した形で取り入れるのも必要かもしれない。
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