射出成形に変わる液体セラミック樹脂の光造形は高度な精密鋳造を効率化

仏像からジェットエンジンの翼まで利用される鋳造

鋳造は世界で最も古い製造技術の一つだ。最初にその使用が確認されたのは紀元前5000年ごろだと言われている。

古代エジプトの墓から銅製の武器などが発見され、このころから使用されていたと考えられている。我が国日本で鋳造が開始されたのは紀元前100年ごろ、弥生時代と言われており、同じく刀剣や装飾具などの製造に使用されていた。

鋳造で作られた最も代表的なものは仏像だ。当時から基本的な製造方法は変わっておらず、まずはじめに模型を作り、その周りを砂で固めて、金属を溶かして入れる。模型はロウを使って作られるため、型である砂を焼き固める際、溶けてなくなり空洞になるという仕組み。

鋳造にはさまざまな方法があるが、このワックスで模型を作り溶かした金属を流し込む製法は現代でも使われている高度な技術だ。

最も身近なモノでは指輪などのシルバーアクセサリーの鋳造で使われているが、実はガスタービンやジェットエンジンの翼にも使用されている。その特長は複雑な形状を作ることができる点だが、ジェットエンジンやガスタービンの翼づくりにはさらに高品質なレベルと高度な機能が求められる。

ジェットエンジンの翼の製造にも古代からの鋳造が使われている

ジェットエンジンの翼は超高度な精密鋳造で作られる

例えば最近のガスタービンやジェットエンジンの翼には、それ自体に高度な機能が備えられており、複雑な中空構造によって翼自身が冷却できる能力が搭載されている。この冷却機能を発揮するため、通常の鋳造よりはさらに複雑で手間のかかる製造プロセスが必要だ。

例えば、はじめに中空構造の内部を構成するための高度なセラミックコアを作る必要がある。このセラミックコアはタービン翼の複雑な内部構造を表現するために金型による射出成形で作られなければならない。

射出成形はプラスチック成形の王様と言われるほど様々な製品の製造に使用されるが、その特長は複雑で精度の高いパーツが製造できる代わりに、金型の設計と構造に多額の費用が掛かる。ちなみにこのタービン翼のセラミックコアに使用する材料はセラミック樹脂。

その後セラミックコアのまわりをワックス、すなわちロウ型で覆い、そのワックスの上から何層にもわたってアウター層を重ねるという方法をとる。アウター層を熱で固めて内部のワックスが溶け出す方法は、仏像を作る方法となんら変わらない。

ただし仏像と異なる点は、タービン翼の内部構造に求められる精度がマイクロスケールレベルだということだ。実はなぜこのように長々とジェットエンジンやガスタービンの翼の製法について述べてきたかというと、高度な精度を要求される翼の内部構造のもとになるセラミックコアを最新の3Dプリンターで作る開発が発表されたためだ。

鋳造で作られるジェットエンジンのタービンブレード

鋳造の中空用パーツは高価な射出成形で製造

上記で述べた通り、マイクロスケールレベルの構造が要求されるセラミックコアは、射出成形によって作られるが、射出成形にかかる費用は膨大だ。射出成形は、簡単に説明すると溶かした樹脂を巨大な注射器のようなポンプで、金型の中に流し込み、冷却して樹脂を固めるという製法。

この射出成形、なぜ費用が膨大かというと、金型の設計と製造にかなりのコストがかかるためだ。実は巨大な注射器から金型に樹脂が押し込まれるときの圧力が非常に大きく、1平方センチメートルあたり200キロから500キロほどの高圧力がかかる。

この圧力は物体の大きさに比例してかかるため、例えば自動車のバンパーなどは3000トンもの圧力がかかるためだ。DVDなどの小型なものでもその圧力は数十トンに達する。

この圧力に耐えうるだけの強固な構造体を作るにはかなりの費用がかかり、同時にプラスチックの温度変化に対応した高度な設計が必要だ。しかし、今この複雑なセラミックコアを3Dプリンターで高度に作り上げる開発が登場し、一躍注目を集めている。

タービンブレードの内部構造用のパーツは高価な射出成形で作られる

射出成形に変わる液体セラミック樹脂の光造形

新たにこの高度な精密さが要求されるセラミックコアを3Dプリンターで作る取組を発表したのはアメリカのDDM SYSTEMSという最先端企業だ。DDM SYSTEMSはダイレクトデジタル·マニュファクチャリングの略で、もともとはアメリカ国防総省の資金で作られた研究機関だ。

もとはダイレクトマニュファクチャリング研究所とジョージア工科大学の研究チームから構成されている。彼らが開発した新たな3Dプリント技術はLAMP(大面積マスクレス光重光)という技術で、簡単に言うと大容量にわたって、液体のセラミック樹脂を高解像度で光造形する技術。下記がそのモデルとなる動画だ。ちなみに一般的な光造形は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂アクリル樹脂ポリウレタンなどをベースとする紫外線硬化性樹脂を使用する。

DDM SYSTEMSのLAMP技術(液体セラミック樹脂の光造形動画

製造プロセスはセラミック樹脂の薄い層を何層にもわたって光造形で固めていく技術。この液体セラミック樹脂の光造形技術の特長は高速でミクロンレベルの精密部品を作ることが可能で、時間、コスト、材料、エネルギーを大幅に節約することが可能だ。

3Dデータからダイレクトで複数のパーツを同時生産できる。このLAMP3Dプリンターはニッケル合金によるタービン用パーツの製造に最適で来年利用が開始されるとのことだ。

LAMP 大面積マスクレス光重光3Dプリンター

複雑で精密なパーツを高解像度で作れる

液体セラミック樹脂の光造形

複数のパーツを同時に高解像度で生産できる

まとめ

DDM SYSTEMSのLAMP3Dプリンターが来年から本格稼働したらジェットエンジンのタービンブレードの生産は従来とは比べ物にならないぐらい早く、そして低コストでできるようになる。また、この技術のもう一つの利点は、製品開発のスピードが一気に進むことだ。

例えば、タービンブレードのように射出成形と精密鋳造を組み合わせて作る場合、圧倒的にコストがかかるのが強固な金型が必要な射出成形だ。しかし、LAMP3Dプリンターのように、データからダイレクトに精密な機能性が要求される内部構造を作ることができれば、コストをかけずに製品開発を行なうことが可能になる。

そのコスト削減効果と、スピード向上は驚異的で、極端な言い方をすれば、タービンブレードの種類ごとに膨大なコストがかかる射出成形用の金型を作る必要がなくなるというわけだ。これにより古代から続く精密鋳造の技術が更に高度化されることとなる。

光造形の原理と仕組み、種類についてはこちらをどうぞ

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