熱溶解積層法(FDM)の進化の系譜
ストラタシスは熱溶解積層法(FDM)という3Dプリント技術を開発したメーカーとして、この業界における先駆的存在だ。彼らが開発する3Dプリンターは、航空宇宙産業や自動車産業など、あらゆる業界で使用されている。
また、現在デスクトップ3Dプリンターとして、広く世に流通しているものの多くが、ストラタシスが開発した熱溶解積層法(FDM)を元に開発されている。熱溶解積層法の特許は2009年に満了し、以降、その特許を利用した安価なデスクトップモデルの開発が一気に進んでいる。
この熱溶解積層法は、英語でいうとfused deposition modeling、略して”FDM”といわれ、ストラタシスが保有する登録商標となっているが、特許満了における爆発的普及で、FDMという言葉そのものが普遍性を帯びている。ちなみに、FFF(Fused filament fabricationの略)という呼ばれ方もするが、これはオープンソースのRepRapが、法的拘束力を持たない呼び方として始めた言い方で、原理はFDMと同じ。
この熱溶解積層法(FDM)の最大の特長は、従来、
今回はストラタシスが 開発する二つの新たな3Dプリント技術、「Infinite-Build 3D Demonstrator」と「Robotic Composite 3D Demonstrator」をご紹介しよう。
デジタルデータからの“生産”を可能にする2つの3Dプリント技術とは
今回ご紹介するのは、 ストラタシスが掲げる製造分野のビジョン「SHAPING WHAT’S NEXT™ビジョン」の一環の技術だ。今年の8月にリリースされ新たな生産マシーンとして注目される2種類の造形技術「Infinite-Build 3D Demonstrator」と「Robotic Composite 3D Demonstrator」である。
この二つのテクノロジーは、FDM、熱溶解積層法の次世代マシーンともいえる3Dプリントシステムで、これまで不可能であった高性能パーツの造形を可能にする。
また、8月にリリースされて以降、先月9月中旬に開催されたIMST2016では、「Robotic Composite 3D Demonstrator」の様子が公開された。その姿は、これまでのFDMの概念を覆すもので、巨大なロボットアームが8軸に自在に動き、高精度な巨大パーツを高速で生産していくというものである。
今回登場した二種類の技術は、まさに最終品を生産するために作られた“DDMの権化”(DDM=ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)といえる存在といえるだろう。
3Dデモンストレーター動画
IMST2016動画
次世代テクノロジー①:大型パーツを高速、高品質で生産するための”垂直”3Dプリントシステム
今回登場した二つの技術は、大型のパーツを高速、高品質で生産するための新たな3Dプリントシステムである。「Infinite-Build 3D Demonstrator」は、これまでのFDM 3Dプリンタの大きさの制限であったZ方向のプリントを、横に造形していくことでプリントサイズを無限にすることに成功した画期的な技術だ。
既にストラタシスは、航空宇宙産業におけるパーツのダイレクト・マニュファクチャリングで主体的な役割を果たしてきている。つい先日もエアバスの旅客機用パーツに同社が提供する素材「ULTEM(TM) 9085」が標準化されるなど、デジタルデータからのダイレクト製造を着々と推し進めている。
今回の新たな3Dプリントシステムは、この生産性を大きく向上させるために開発されたものだと言えよう。現在、ボーイングでは、ストラタシスのハイエンドモデルFortus900mcを使いパーツ生産を行っているが、今回開発された「Infinite-Build 3D Demonstrator」では、Fortusの10倍のスピードで造形することが可能。航空機内装用パネルやツーリングといった大型部品をデータから直接生産することを目標としている。
プリント手法も従来のFDMとは異なるメソッドを採用しており、2方向すなわち、Y-Z方向、X方向へ造形していく新たな手法を開発している。最大の特長が、従来のFDMでは実現できなかった90度、垂直方向での造形アプローチだ。この新たなテクノロジーにより、パーツのサイズや方向に関する制約を事実上解消したに等しい。
更に新型のスクリュー押出機を搭載しており、これまでの押出に比べて約10倍の速度でプリントすることが可能だ。
まさに、その名前に付けられているInfinite(インフィニティ)無限という意味にふさわしく、従来の手法では実現することができなかった無限の3Dプリントを実現している。
ちなみにボーイングでは、低容量、軽量部品の生産を行うためにこのシステムを使っており、フォードでは、自動車の設計と製造を変革する車載グレードのパーツ製造に用いようとしている。
次世代テクノロジー②:脅威の8軸モーションシステムを実現したロボットアームの3Dプリント
お次にご紹介するのが、まさにロボットアームの3Dプリンターといっても過言ではない、、「Robotic Composite 3D Demonstrator」だ。こちらの技術は、8軸のモーションシステムを実現している、新たなテクノロジーである。
この8軸モーションシステムとは、FDMの押出方向を8方向から可能にする新たなテクノロジーで、ロボットアームの6軸の動きと、回転位置決めテーブルの2軸の動きによってあらゆる方向からの積層を可能にする。
ちなみに簡単に熱溶解積層法(FDM)の原理をご説明すると、一般的なFDM 3Dプリンターは、フィラメントと呼ばれる糸状の樹脂を押出ノズルに通すことで加熱し、溶かし、細い糸状にして積み上げて固めていく手法をとる。基本的にはボックス状の箱の中で積層し、押出ノズルが左右に動きつつ、プレートが上下に動きながら積層していく。
つまり、通常のFDM 3Dプリンターでは、プリントサイズが、ボックスの大きさやプレートの大きさに限定されることになるが、この、「Robotic Composite 3D Demonstrator」は、はオープン環境での造形が可能であることから、造形物の範囲が上下左右という立方体の箱に限定されない。更にこちらの、「Robotic Composite 3D Demonstrator」も押出ノズルを、新型のスクリュー押出機を搭載しており、これまでの押出に比べて約10倍の速度でプリントすることが可能。
この画期的な造形を可能にしているのが、ストラタシスの独自の押出技術と、シーメンスのモーションコントロールハードウェアおよびPLMソフトウェアとの組み合わせだ。
例えば、一般的な熱溶解積層法(FDM)の3Dプリンターは、実質的にX軸とY軸よりもZ軸が弱いという特性(異方性:物質の特性が方向によって異なる)を持つが、この新たなシステムでは、正確な方向性を考慮した素材配置により強度を高めながら、必要に応じて任意の方向にプリントしてくれ、弱い部分を判断し強化してくれる機能を持つ。
また、連続的なツールパスでの造形が可能なため、将来的にCarbon繊維など射出成型でも実現できなかったコンポジット材料と造形方法による強度の向上が実現できる。
こちらの「Robotic Composite 3D Demonstrator」はいわばリアルタイムで強度を補強してくれてサポート材いらずなため、高品質なパーツを迅速に生産できる。こちらも、DDMを実現するための次世代型3Dプリンターなのだ。
ものづくりのプロセスを変える力を秘めている
この2つの新たな3Dプリントプロセス「Infinite-Build 3D Demonstrator」と「Robotic Composite 3D Demonstrator」の登場によって、ものづくりのプロセスやワークフローがまた一つ大きく変わることになる。プリント方向の限定が取り払われたことや、炭素繊維配合の強化樹脂などの採用により、デジタルデータからカタチにするための設計概念を大きく変えることになる。
伝統的な製法だけではなく、これまでの3Dプリント技術では不可能であった形状や機能を持つパーツを作ることができるかもしれない。それによって、よりユーザーが使いやすく、豊かになるものづくりが生み出されることになる。
例えば、既にストラタシスではこれまでのFDMシステムを使って、従来の切削加工では不可能であった形状の治具などを作り出し、ものづくりの現場に大きな変革をもたらしているが、この新たなロボットアームの3Dプリンターと複合材料、垂直高品質な造形アプローチであれば、さらに強く、さらに軽量で扱いやすい形状のモノを作り出すことができるだろう。
また、現在は航空宇宙産業や、自動車業界といったハードな生産現場が主力だが、さらに3Dプリンターの進化や素材のバリエーションが広がれば、さまざまな業界の生産マシーンとして力を発揮することになるかもしれない。
その理由は、われわれの身の回りにあるプラスチック素材が、ほぼFDM、熱溶解積層法で使用することができる熱可塑性樹脂であるということからも、容易に想像がつく。
現代のものづくりで最も多用される熱可塑性樹脂に適用される可能性
熱可塑性樹脂とは、加熱すると柔らかくなり、冷却すると固まる性質を持つプラスチック素材のことだ。非常に多様な種類を持ち、さまざまな特性を持つ。
テレビやパソコンの筐体、コップ、洗濯バサミ、などなど、生活に関わるあらゆるプラスチック製品は、さまざまな熱可塑性樹脂でつくられている。例えば無印良品やIKEAのプラスチック製品のコーナーに行ってみると、ほぼすべての製品がPP、ポリプロピレンといった熱可塑性樹脂で作られているのがわかる。
黒いピアノのような鏡面仕上げのテレビの筐体などはABS樹脂という熱可塑性樹脂を使い、特殊な射出成型で作り出されたものだ。このように現代のプラスチックの工業製品のほぼすべてが熱可塑性樹脂で作られているといっても過言ではない。
もちろん、上記の生活用品で使用される量産品は従来通り金型での大量生産で作られるだろが、新たな製品や、よりカスタマイズ性が求められる製品では、3Dプリンターで生産されるようになるだろう。今回の「Infinite-Build 3D Demonstrator」と「Robotic Composite 3D Demonstrator」の登場は、その実現性をより高めてくれる発表である。
まとめ 開発の場だけではなく“生産”の役割も果たすようになる
現在、プラスチックの製品はすべて金型による大量生産で作り出されているのが現状である。金型は、巨大な金属の塊である型を作りだし、そこにドロドロに溶かした熱可塑性樹脂を高圧力で押し込み冷却して作る。これが現在の製品化するときのスタンダードなやり方だ。
しかし、この従来の金型を作るためには、多額の費用がかかり、一定数量の販売量が見込めない場合には、製品開発に取り掛かることができない。この現状は、もはや現代の流通事情とは大きく、乖離しているといえるのではないだろうか。上記で述べたような消費が激しい生活用品などはこれまで通り金型で量産されるが、より価値の高いプロダクトなどの開発では、3Dプリンターの存在が欠かすことができない。
そして、それは今回の「Infinite-Build 3D Demonstrator」と「Robotic Composite 3D Demonstrator」の登場によって、開発レベルだけではなく、生産レベルにおいても当たり前になる。まさに、ものづくりのやり方を時代に合わせ、イノベーションが生まれる環境を作りだす、大きな可能性を秘めているテクノロジーだといえるだろう。本格的なデジタル生産の時代が始まろうとしている。
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