HPのMulti Jet Fusion 記者発表。 最終品の生産を実現する3Dプリンター

ものづくりに革命を起こすHPのMulti Jet Fusionが日本上陸

2014年にMulti Jet Fusionテクノロジーによる3Dプリンタ―を発表し、昨年、「HP Jet Fusion 3D 3200」と「HP Jet Fusion 3D 4200」の2モデルを発売していたヒューレット・パッカードが、とうとう日本での本格展開に動き始めた。

前回の記事「3Dプリンターを大量生産マシーンに完成させたHPの新Multi Jet Fusion」でもご紹介したが、HPの3Dプリンターは従来のプロトタイプ製造が中心であった3Dプリンターではなく、最終製品をデジタルデータからダイレクトに作ることができる新たな機種である。

しかもFDM(熱溶解積層法)や光造形レーザー燒結法などに比べてはるかに高速にパーツ製造を行うことができるのが特長だ。また、Voxel(ボクセル:ピクセルとボックスを融合した概念)による新たなデジタル設計の手法を用い、将来的にはフルカラーや表面テクスチャの多様化、また導電性や柔軟性など様々な物体としての特性を付与することができるのが特長である。

本日は、そんなものづくりの分野に革命を起こすHPのMulti Jet Fusionの記者発表の模様をご紹介しよう。

ついに日本に登場したHPのMulti Jet Fusion。多数の造形モデルが展示された。

最終品をデジタル量産できる3Dプリンター

今回のHPの記者発表では、最終品をデータから直接製造するダイレクト・マニュファクチャリングにフォーカスした発表が行われた。

3Dプリンティングビジネス担当でありプレジデントのステファン・ナイグロ氏によると、3Dプリント市場は現在の60億ドルから、2021年には180億ドルの市場に成長するとのことだ。その背景には、3Dプリンターの役割がここ数年で大きく変わることを意味している。

それは、従来のプロトタイプ製造を中心とした役割から、最終品をダイレクトに製造するという役割への進化である。また、将来的には12兆ドル以上と言われる製造業の市場に3Dプリンターが大きく食い込んでいくことが予測されるという。

しかし、現在の3Dプリンターは生産性、品質、コスト、3つの点からいまだプロトタイプ製造の域を出ていない。例えば最終品を作るということを目的にした場合、多くの3Dプリンターが、金型量産に比べて、この3つの点で劣っているのが現状である。

Multi Jet Fusion 3Dプリンターは、この生産性とクオリティ、材料コストの部分で革新的な発展を遂げているのである。

3Dプリンティングビジネス担当でありプレジデントのステファン・ナイグロ氏
3Dプリンター市場は2021年に飛躍的に成長する。その背景は最終品の製造。

既に50万点のパーツが生産。デジタル量産を可能にする機能とは

驚くべきことに、既にMulti Jet Fusionによって生産されたパーツ数は50万点にも及ぶ。
ここでは、デジタル量産に必要なポイントとMulti Jet Fusionの機能と特長についてご紹介しよう。

生産性。FDMの50倍、SLSの10倍の高速生産

Multi Jet Fusion 3Dプリンターの最大の特長の一つがその生産性である。現在の3Dプリント技術の中心であるFDM(熱溶解積層法)や光造形、レーザー焼結法などと比べた場合においても圧倒的に早い。

ちなみに3Dプリント技術は、アプローチの方法はさまざまではあるが、基本的に物体を“積層”することで形にしていく技術。FDMでは糸状の細長い熱可塑性樹脂を加熱して溶かして積み上げ、データ通りの形状にしていく。

レーザー燒結法であればパウダー状の素材にレーザービームを照射し、一層一層“焼結”して物体にしていく、また光造形法では液体状の紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射し一層ずつ硬化していく技術だ。

一方で、Multi Jet Fusionは、パウダー状の熱可塑性樹脂を噴霧し、そこにFusing Agentといわれる溶解促進剤とDetailing Agentという表面を装飾する装飾剤を噴霧し、加熱し物体にする。また、素材レイヤー上の数百カ所で温度を調整し、レイヤーごとの造形コントロールを実現している。

このMutli Jet Fusion技術には、5000以上の特許が使用され、これまで30年間構築されてきたHPの知的財産や素材に関する専門知識が活かされている。この独自技術によって圧倒的な高速造形が可能となる。

そのスピードはFDM(熱溶解積層法)の50倍、SLS(レーザー焼結法)の10倍を誇るほどだ(HP調べ:10万ドルから30マンドルのFDM 3Dプリンター、SLS 3Dプリンターのパーツコストの平均と比較)。

材料コストの低価格化を実現。オープンマテリアルの材料開発とは

Multi Jet Fusionのもう一つの特長が、材料の低価格化である。現在、3Dプリンターで最終品を作る場合のもう一つのネックとなっている部分が材料コストの高さである。

生産数量が異なるため、比較することはできないが金型量産のような低コストで3Dプリンターを利用することはできない。しかし、Multi Jet Fusionでは、パーツあたりのコストをおよそ50%も削減することに成功し、3Dプリンターによる“生産”の実現を可能にしつつある(HP調べ:10万ドルから30マンドルのFDM 3Dプリンター、SLS 3Dプリンターのパーツコストの平均と比較)。

現在使用できる材料はナイロン12だが、幅広い材料に対応し、より生産用途としての利用を拡大するため、オープンマテリアルという材料開発のプラットフォームを設けている。

これにより、世界最大の総合化学メーカーであるBASFや、Henkelなど多くの材料メーカーが参加し、新たな材料開発が行われている。

ちなみに今日の発表によるとナイロン以外にポリプロピレンポリウレタンなどの研究が行われている。この材料の多角化と低価格化により、将来的には100万パーツ以上をこの3Dプリンターで生産できるように計画している。

材料の低コスト化を実現し、3Dプリンターでの生産を目指す。

高クオリティな造形。射出成型やCNCなど従来の製法と同レベル

最後に最終品を作るためのポイントとして、高クオリティな造形があげられる。Multi Jet Fusionは、この品質の面でも、従来から使用されている製造技術、金型量産の王様ともいえる射出成型や、CNC加工機に劣らないクオリティが再現される。

Mulit Jet Fusionは21ミクロンの解像度で、1秒間に3600万滴も噴霧することができるが、この高密度な造形により優れた強度と表面仕上げを実現している。ちなみにナイロン12そのものが優れた靭性と強度、耐衝撃性に優れる素材だが、2年前に公開されたMulti Jet Fusionで造形されたフックで自動車を釣り上げることもできる。

この従来の量産加工と同等の機械的性能が実現できるという点も最終品のダイレクト製造には必須の機能だ。

高クオリティな様々なパーツが並ぶ。
Multi Jet Fusionの高品質な仕上がり。
ナイロンパウダーを使い高密度な造形が可能。
自動車から航空宇宙産業、一般消費財と幅広い用途に使用できる。

ボクセル(Voxel)の真価。回路パターン内臓でIOTコンポーネントの3Dプリントも

最後に、HPのMulti Jet Fusionが他の3Dプリント技術と絶対的に異なる特長がボクセル(Voxel)によるさまざまな表面特性の再現だ。現在登場している2機種ではまだ対応してはいないが、今回のプレス発表会では、Voxelの進化をかいま見れる展示がなされている。

例えば、Voxelでは導電性の回路パターンなども造形物に組み込むことが可能だが、今回展示されたチェーンでは、Voxelレベルで回路パターンが内部に組み込まれている。これにより、チェーンのひずみ曲線を電子回路で見ることができ、チェーンのひずみ具合をクラウド上でチェックすることができる。

こうした特性は、現在次なる産業革命として期待されているIOTテクノロジーをコンポーネントレベルまで掘り下げたものだと言えよう。

この回路パターンの組み込みは、近い将来、センシング技術などと融合することで、あらゆるモノがリアルタイムでモニタリングでき、ビッグデータとして収集されAIによる自動カイゼンにつなげることが可能だ。

また、Voxelのもう一つの利用方法として、カラーバリエーションが存在するが、今回のサンプル展示では、ラックギアでその有効利用が示されている。このラックギアは上の部分が黒い色でプリントされ、その下のレイヤーが黄色、更にその下のレイヤーでは赤と、レイヤーごとに物体のカラーが異なる。

これはギアをつかって摩耗してくると、黄色から赤になり、ギアの摩耗レベルをチェックすることができるというもの。こうした表現もVoxelならではの技術と言えよう。

ボクセルによるカラー表現も将来的に実現できる。
ボクセルなら柔軟性があるウレタン系の特性も出せる。
こちらのチェーンは、内部に電子回路パターンが組み込まれ、チェーンのひずみをデータとして収集可能。IOTプロダクトへの利用が期待される。
ラックギアのレイヤーごとのカラーを変え、摩耗具合を識別できる。

まとめ 最終品からIOT製品の生産まで

今回HPの発表では、これまでの3Dプリント技術とは違い、完全に最終品の生産、すなわちダイレクトマニュファクチャリングでの利用を想定している。

先にも述べた通り、既に全世界で50万にも上るパーツが生産され、実際にものづくりの現場で使用され始めている。そこにはBMWやナイキ、ジョンソン&ジョンソンのようなグローバルメーカーなど、自動車メーカーや航空宇宙産業、一般消費財まであらゆる業界に及ぶ。

更にはprotolabsやshapewaysなどの3Dプリントサービスなど、さまざまな業界に普及しつつある。

「日本のGDPのうち20%が製造業。その数は40万社に上る。これまでは大量生産でいかにコストを落とし競争力をつけるかという時代でしたが、これからは一つ一つの製品に付加価値を付けたものづくりが必要となる。どう製造業が強くなっていくかが日本の強さにつながっていく。ITと融合したスマートものづくりで、日本の製造業を支援していく」と日本HPの代表取締役 社長執行役員岡隆史氏は語っている。

日本での販売は、武藤工業株式会社とリコージャパン株式会社と共に展開していく。価格は「Hp Jet Fusion 3D 4200プリンティングソリューション」が3,800万円で8月から、「Hp Jet Fusion 3D 3200プリンティングソリューション」は11月からで価格は未定。

Multi Jet Fusionについての詳しい情報はこちらもご参照ください。

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。