高性能3Dプリンターと3Dスキャン搭載PCの発表
HP(ヒューレット・パッカード)がついに自社で開発する3Dプリンター「Multi Jet Fusion」を発表した。同社は昨年10月に3Dプリンター市場へ参入することを発表してから1年、ようやく待望の市場参入を果たすことになった。
HPが今回発表した製品は2種類。独自のサーマルインクジェット技術による高性能3Dプリンター「Multi Jet Fusion」と、高解像度カメラと3Dスキャナー、タッチスクリーンを搭載したデスクトップコンピューター「Sprout」。本日はHPが発表する新たな3Dプリンターと3Dスキャナー搭載パソコンをご紹介。
HP’(ヒューレット・パッカード)が発表した新技術搭載3Dプリンター
独自製法サーマルインクジェット技術とは 10倍高速で超高精度
今回HPが発表した新たな3Dプリンター「Multi Jet Fusion」は完全な工業用のハイエンドモデルだ。解像度、プリントスピード、材料、カラーすべてみても他社のメーカーに比べ遜色ない性能を誇っている。
この「Multi Jet Fusion」3Dプリンターは、多くの部分でこれまでの3Dプリンターとは異なる、画期的な特性を備えている。簡単にその特長をまとめてみると、「既存の3Dプリンターと比べ10倍高速で、なおかつ低価格、高品質な機能性パーツの製造が可能」とのことだ。
そこには長年2次元プリンターの分野でトップを走るHPならではの独自インクジェット3Dプリント技術が使用されている。その製法はサーマルインクジェット技術と言われるもので、材料パウダーの薄い層を何層も積み重ねる方式。材料と材料の間は定着剤を吹き付けることによって接合し、積層して物体にする。
しかしながら高いクオリティの物体を作るためには、接合部分が適切に融合されていなければならない。HPはこの接合部分をより滑らかに、より適切な形で融合するために、熱を加えることで可能にしている。
下記がHPのサーマルインクジェット技術のステップを図式化したもの。素材をしき、その上に溶融材を塗布し、さらにその上に定着剤を塗布する、熱を加えて結合というステップだ。
HPの独自3Dプリント技術 サーマルインクジェット技術
驚くべき点は、このサーマルインクジェット技術の精度と速度で、レーザー焼結法やFDM熱溶融積層法と比較した場合、高密度ではるかに高い生産スピードを誇っている。
下記は歯車を生産した場合の生産時間の比較図だが、FDM熱溶融積層法では83時間、レーザー焼結法では38時間、このサーマルインクジェット方式だとわずか3時間でつくることが可能だ。また、その精度も20ミクロンの高精度で、1インチ当たり、毎秒3億滴以上もの噴射をすることが可能だ。
下記の動画はHPの3Dプリンター「Multi Jet Fusion」で作られたフックの実験動画だが、従来の4分の1の重さに軽量化できた上、1万ポンド、約4500kgの重さを持ち上げることができる。
HP 「Multi Jet Fusion」の動画
パウダーを積層し、定着剤と溶融材を熱で当てて接合する
サンプルで作られたフック4分の1の重さに軽量化
実験で1万ポンド、4500KGの重さを持ち上げる強度を持つ
FDM、レーザー焼結との成形スピードの比較
数百万色のフルカラーとマルチ素材対応
この「Multi Jet Fusion」3Dプリンターの第二の特長は、フルカラーでマルチ素材に対応していることがあげられる。フルカラーにあたっては、二次元プリンターのインクジェット技術がフルで生かされているといっていい。
上記でこのサーマルインクジェット技術についてご紹介したが、パウダーとパウダーを接着し定着させるために定着剤を塗布しているが、この定着剤にCMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)の4色の着色剤を混ぜ合わせることで4色フルカラー印刷を可能にしている。
いわばCMYKの掛け合わせで色を再現することが可能なため、その表現力は無限大で数百万色が可能。例えば、下記の図のようなフルカラーな物体は、このサーマルインクジェット製法ならではだと言えよう。このようなフルカラーの色で表現されたプラスチック製品を射出成形で作ろうとすると、非常な手間とコストがかかる。
フルカラーのプラスチック成形が可能
射出成形では不可能なフルカラーと精密な仕上がり
次に対応している素材だが、この「Multi Jet Fusion」は、熱可塑性樹脂以外にも最終的にはセラミック、金属なども使用できるようになる。現在はプラスチックでのサンプル公開となっているが、実際に発売される2015年、一般提供の2016年までにはマルチ素材を可能にするという。また、全く詳細は明かされていないが、電子デバイスを印刷することができる機能も搭載されるようになるとの発表だ。
3Dスキャンと3Dデザインに特化したデスクトップパソコン
HPは「Multi Jet Fusion」3Dプリンター以外にも、新たに3Dスキャンと3Dデザインに特化したデスクトップコンピューター「Sprout」も発表した。
この「Sprout」は、3Dスキャナーと高解像度3Dカメラ、タッチスクリーンを搭載したパソコンで、キーボードの代わりに、スキャニング用ボードが搭載されている。ボード上に物体を置きスキャンするとそれがモニターに表示され3Dデザインとしてリアルタイムに即編集できるというもの。
スクリーンはタッチパネルになっており、スマートフォンやタブレット端末同様、手やスタイラスペンを用いて3Dデータを編集可能だ。HPはこの「Sprout」を入口にオンラインプラットフォームも開設するとのことで、データの共有やユーザー同士のリアルタイムのやり取りが可能になる。この「Sprout」は11月9日から発売される。
3Dスキャンを搭載したタッチパネルパソコンSprout
まとめ
HPの3Dプリンター市場への参入により、工業用ハイエンドモデルの競争も一段と激化しそうだ。低価格モデルの市場は完全なレッドオーシャンだが、ハイエンドモデルはある意味数社の独占状態と言える。
プラスチックの3Dプリンターではストラタシスと3Dsystemsの完全独占状態にあり、金属ではEOSはじめドイツ企業が世界シェアの70%以上を占める。
こうした完全占有市場にHPの製品がどこまで食い込めるか、今後の展開に期待したい。同社のサーマルインクジェット技術の発表を総括すると、プラスチック、セラミック、金属などがフルカラーで高性能を保ちつつ高速で低価格で製造できるということになる。
ターゲットは完全に企業やデザイン事務所などの企業だが、より専門性に特化し、素材ごとの使用方法や特性、効果的な使い方に精通する既存のグローバルリーダーにどこまで対抗できるか見ものである。
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