あらゆるスマホと千差万別の顔に対応可能。マテリアライズとHOYAの3Dプリントヘッドマウントディスプレイ

3Dプリンターの力を本当に活かすカスタマイズとは

ビジネスにおいて最も求められる能力は、変化に対応する能力だ。時代の流れや顧客のさまざまな要望に対応する。変化に柔軟に対応する能力こそが、成長の源泉となり事業を成長させていく。こうした観点から見ると、3Dプリンターで最終品を作るという行為は、まさに顧客の変化を知り、時代の流れに自社の事業を適合させていく最大の行為だといえよう。

しかし、3Dプリンターのカスタマイズ性が、ものづくりにおいて本当に発揮される機会は現状の利用方法を見てみるとあまり多くはない。現在登場する多くの3Dプリントサービスを見てみると、機能にはほぼ影響がない、形状のみをカスタマイズする「デコレーション」と、形状と製品の機能が一体となった「デザイン」のカスタマイズがごっちゃになっている状況である。

例えば、カスタムイヤホンのメーカーであるNormalは、最終品レベルの造形が可能なストラタシスのFDM 3Dプリンターを使い、個人個人の耳の形に最適なイヤホンを製造している。この使い方は形状の変化がそのまま製品の機能(ジャストフィットするという)に直結する「デザイン」のカスタマイズに分類されるだろう。

一方、スマートフォンケースや、照明器具などの3Dプリントは作った人の個人的な感性に左右される「デコレーション」のカスタマイズ。「デコレーション」は作る側の主観や趣向、感性が色濃く反映され、作る人と似た感性の人にしか響かない。一方で「デザイン」は使う人に最適な形状にしてくれることから、利用される範囲は非常に幅広くなる。

ここではこの二種類の使い方に関する賛否を論じるつもりはないが、3Dプリンターの本当の力を引き出す使い方は、圧倒的に「デザイン」のカスタマイズなのである。本日はそんな事例が少ない3Dプリンターの「デザイン」のカスタマイズについてマテリアライズとHOYAの取り組みをご紹介しよう。

※画像提供:マテリアライズ

アイケア業界を変える3Dプリントバーチャルリアリティマシーン

マテリアライズは過去にもたびたびご紹介してきたが、3Dプリントの分野において25年以上もの経験を持つスペシャリスト企業だ。ベルギーに本拠を構え、日本を始め世界中に3Dプリントサービスの事業を展開している。まさにこの業界における「隠れたチャンピオン企業」という存在。過去にご紹介した事例では、アディダスの3Dプリントカスタムシューズや、光学レンズの超高性能3Dプリントサービスを手がけるLUXeXceLなど、高品質なものづくりを行う企業の裏側に、マテリアライズの高度な3Dプリント技術が存在している。

今回ご紹介するHOYAとの新たな取り組みでも、高品質な3Dプリント技術によってこれまで不可能であった製品作りを可能にしているのだ。一方HOYAは世界150カ国グローバルに展開する企業で、ハイテク医療機器、眼内レンズ、光学レンズなどのメーカーだ。今回、マテリアライズとの提携によって新たに、3Dプリンター製のバーチャルリアリティ装置と高精細視力検査機器を作り出すことに成功した。

この二つの新製品は主にメガネ専門店や眼科といったアイケア業界に対して提供されるもので、メガネ業界に大きな革新を与えることが期待される。また、変化のスピードが尋常ではない今日のデジタル製品のものづくりにおいて、マテリアライズの3Dプリント技術をこの製品の設計と製造に利用することで、千差万別の顧客ニーズに迅速に対応することを可能にしている。

バーチャルリアリティ装置
高精細視力検査機器

購入前に新しいメガネの視界を体感できる「HOYA ビジョン・シミュレーター」

今回中心となってご紹介するプロダクトは、3Dプリントバーチャルリアリティ装置である、「HOYAビジョン・シュミレーター」と呼ばれるもので、メガネ店などの店頭に設置され、メガネを購入する前に、そのレンズで見ることができる視界を、3Dの世界で体験できるというもの。通常メガネを購入する前に見ることができるのは、視力検査でよく使われるC型のランドルト環と言われるものぐらい。またその時のメガネも分厚い検査用レンズのメガネに留まるものだ。この「HOYAビジョン・シュミレーター」では、レンズの強さに合わせて、リアルな世界を店頭でヴァーチャル体験できるようになる。

購入前にバーチャルリアリティの世界で新たな視界を体験できる。

あらゆるスマホ。千差万の顔に合う3Dプリントヘッドマウントディスプレイ

バーチャルリアリティ専用のヘッドマウント・ディスプレイで重宝するのがスマートフォンの高画質な機能だ。「HOYAビジョン・シュミレーター」は、スマートフォンの高画質と、自社の主力技術であるハイテク光学レンズを組み合わせることで、真のバーチャルリアリティ体験を実現することに成功している。

しかしその一方で、スマートフォンを挿入するタイプのヘッドマウント・ディスプレイで課題となるのが、スマートフォンの種類の多さにどう対応するかということ。また、スマートフォンは種類の多さだけではなく、バージョンアップなどの新製品開発が非常に早いサイクルで行われている。こうした市場の変化の速さに、いかに迅速に対応してヘッドマウント・ディスプレイの機能を高品質に保ち続けるかが設計の鍵となるのである。この課題をマテリアライズは3Dプリント技術の利点を最大限利用し克服している。

さまざまな顔の形状に合わせて装着できるデザインにする。

あらゆるスマホ、顔形、レンズの種類に対応させる設計

この「HOYAビジョン・シュミレーター」の設計において、課題となったのが、三点ある。第一は、どのようなスマートフォンの機種にも完璧にフィットさせるという点。第二は、人によって異なる輪郭や眼の位置などにぴったりとフィットするケースを設計しなければならないという点。そして第三は、どのようなレンズを挿入したとしても最高の視覚効果を実現するため、さまざまな光学レンズに対応しなければならない点である。

この3つの課題を克服することで、変化に対応し、どのような視力、顔の人にも最適なバーチャルリアリティの空間を提供できるようになる。マテリアライズは、まずスマートフォンの種類に関して、装着するスロットを個別にカスタマイズ可能の状態に設計し、スマートフォンごとにヘッドマウント・ディスプレイに装着することが可能にしている。また、個人個人の顔の形状に対応するためには、眼とレンズの間を調整可能なダイヤルを装備。

これにより千差万別の顔の形状に合わせて、ディズプレイを調節できる。レンズに関しても、さまざまな種類のレンズを挿入できるような形状に最適化されてある。これは必要とあればアイケアの専門家が選んだ光学レンズも挿入することが可能だ。

あらゆるレンズの形状、顔の形、スマートフォンの形状に対応する設計。

内部パーツをレーザー焼結で迅速に交換可能。筐体は真空注型法で量産

マテリアライズは、上記で述べたヘッドマウント・ディズプレイの3点の課題を、二つの製法に切り分けることで克服している。製品そのものの設計もそうだが、製造の方法を分けることで、量産性と迅速な適合性を実現しているのだ。外部の筐体の製造は真空中型法と言われる製法で作られており、内部の交換が求められるスマートフォンスロットはレーザー焼結で作られ、どのようなスマートフォンが登場しても迅速に対応可能になる。

例えば、iPhoneの新型が登場した場合でも、わずか5営業日で新型iPhoneに対応したスロットが使用可能になるというわけだ。これによってHOYAが得られるメリットは非常に大きく、「驚異的な早さの市場投入が可能」「アップグレードするコストも最小限」に抑えることが可能とのこと。現代のデジタルデバイスの進化のスピードに対応するためにはマテリアライズの持つ3Dプリント技術は最適な力を発揮する。

内部のスマートフォン専用スロットをレーザー焼結で、外側の筐体を真空注型法で量産。迅速なカスタマイズに対応する。

まとめ 厳しい品質基準の3Dプリントが事業を時代に対応させる

今回HOYAはマテリアライズと提携することでもう一つの検査機器も開発している。それが3Dプリント高精細視力検査機器は「HOYA アイ・ジーニス」、と呼ばれる検査機器で、屈折検査や両眼視機能検査、視覚機能検査といった、メガネを作る際に必要な検査をすることができる。検査の種類は60種類まで対応しており、個人個人のさまざまな視力のズレを矯正するプリズム処方を行ってくれる機械。こちらもバーチャルリアリティを可能にする「HOYAビジョン・シュミレーター」とともに、マテリアライズの3Dプリント技術がいかんなく発揮されている。
冒頭で、3Dプリンターの最大の特長が高い「変化に対応させる」ということにあるということを述べたが、このマテリアライズの高い3Dプリント技術は、まさに「急速に変わるデジタルデバイスの進化」と、一人として同じではない「千差万別の人間の顔」にプロダクトを最適化する使い方だと言えるだろう。また、その最適化する力は、マテリアライズが持つ厳しい品質基準に裏打ちされて初めて実用化されるのである。

一般的に現状の3Dプリンターの持つ課題として、最終品として造形された場合の「品質」が心配されるが、マテリアライズの場合は、各業界の厳しい品質基準を満たす3Dプリントを可能にしている。その分野は多岐にわたり、医療、自動車、航空宇宙、アート、デザイン、消費者製品などあらゆる業界において、3Dプリント技術を最大限活かす使い方を提供している。こうした品質と高い3Dプリント技術は、ひとえに「変化にいかに対応するか」ということにフォーカスされており、この能力はまさに柔軟な適応力を求められる現代のものづくりには必須の技術と言えるのではないだろうか。マテリアライズとHOYAの取り組みはまさに「適者生存」の典型とも言えるだろう。

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