世界的に普及する個人のものづくりという概念
3Dプリンターがもたらす影響はコスト削減や、効率化といった直接的なものだけではない。
個人のものづくりという言葉に象徴されるように、これまで「製造」や「ものづくり」「商品開発」という分野に多くの人々を参加させるといった潮流を作り出している。
これは3Dデータからモノが作れるという3Dプリンターの特性が非常にわかりやすく、多くの人に理解されやすいからだろう。誤解を恐れずに言うならば、拳銃が3Dプリンターで作られたニュースほど、3Dプリンターの特性をわかりやすく伝え、3Dプリント技術の影響力を高めたものはない。
もちろん、実際の「ものづくり」や商品開発は3Dプリンターがあったからといって簡単にできるものではないし、いまだほとんどの商品では、金型による量産品の方が表現できる幅も広く、出来上がった商品のクオリティは高い。しかしアイデアをカタチにしたい起業家やデザイナー、ものづくりに挑戦してみたい個人にとっては、チャンスをものにできる機会が多い環境にあることは間違いないだろう。
そんな個人のものづくりに最適な機械はなにも3Dプリンターだけではない。3Dスキャナーだってあるし、平面に削り出すフライス盤などもある。こうしたデバイスは以前に比べて驚くほど低価格で利用することができるが、全ての試作機をそろえるとなると大変だ。
しかし今、なんと全ての機能を搭載した個人のものづくりに最適なハイブリッドマシーンが登場している。
世界初となる個人のものづくり専用ハイブリッド3Dプリンター
本日ご紹介するハイブリッドマシーンFABtotumはひとことで言うと、3Dプリンターから3Dスキャン、フライス盤、ミリング加工が一体となった世界初の低価格デスクトップパーソナルファブリケーションデバイス。
クラウドファンディングのindiegogoで目標金額の10倍以上の資金調達に成功している。当初目標金額は5万ドルであったが、実際に集まった金額は58万9千ドル、およそ5,900万円だ。
このハイブリッド機を手掛けるFABtotumはイタリアのミラノ工科大学におけるビジネスインキュベータ地区にある大学のスピンオフ企業。それでは具体的にどのような機能を搭載しているのかご紹介しよう。
1台で3Dプリンターから3Dスキャン、フライス加工、ミリング加工まで可能

FABtotumの動画ではすべての性能が見れる
3Dプリンターの性能
FABtotumの3Dプリンターとしての機能だが、一般的なFFF技術(溶融フィラメント技術)を採用している。この3Dプリント技術一つだけ見ても、試作を行なうにはかなりの高性能を発揮できる。使用できるフィラメントはABS樹脂とPLA樹脂の2種類だが、プリントスピードが速いのが特徴。秒速300㎜の速度でプリントすることが可能で、解像度は50ミクロンと100ミクロンから選択可能だ。100ミクロンは一般的なデスクトップタイプの3Dプリンターと同等。ちなみにサイズは214mm×236mm×242mm。
3Dプリンターで作られた試作品

300mm/秒の高速積層が可能

3Dプリントモードスペック
- プリントサイズ: 214×236×242mm
- Z層サイズ: 50ミクロン、100ミクロン
- Z層単位: 0.47μm
- 対応フィラメント: 1.75ミリメートルPLA、ABSフィラメント
- 最大温度:ノズル230℃、ベッド100℃
- ノズル: 0.35mmヘッド
- 印刷速度: 300mm/秒~500mm/秒(高速バージョン)
- ウォームアップスピード: 1分
- 冷却:ファン/タービンツイン冷却システム
- 温水ベッド:ガラス温水ベッド(ダブルフェイスプラットフォーム)
フライス加工
フライス加工バージョンでは木材やアルミニウム、黄銅合金など幅広い材料に対応しており、切削加工以外に基板用のミリング加工も可能になる。デュアルモードで動作させれば3軸、4軸の立体加工もできる。ちなみにフライス盤の稼働範囲は214mm×236mm。
フライス加工の加工品

ミリング加工された回路基板

平面の削り出し

三次元の立体加工

回路基板の試作

サブトラクティブ•モード(フライス加工、ミリング)スペック
- フライス容量: 214×236mm
- フライスモーター: 200Wブラシレスモーター、自動回転数補正
- ファン冷却:ツインファン冷却システム
- 作業平面:構造アルミプレート、備品(ダブルフェイスプラットフォーム)
- 4軸加工: 4軸チャック:0.0017度/ステップ分解能
- イルミネーション: LEDワーキングエリア、アンビエント
- 粉塵対策:真空管ホルダーつき
3Dスキャン
FABtotumが備えている3Dスキャニングは2種類のモードを使用できる。中品質のクイックレーザースキャンと、高品質で非常に時間がかかる高性能スキャンモードだ。このスキャニング機能の最大の特長はコインなどの小さい物体のスキャニングや、複雑な形状のスキャニングも可能な点にある。スキャンは5メガピクセル、2592×1944ラズベリーカメラを使用して作成されている。
3Dスキャニング

3Dデータを補正

3Dプリントして複製

3Dスキャニングモードスペック
- モード:回転レーザ•スキャン、スイープレーザスキャン、Z-プローブデジタイザ
- スキャンボリューム: 3Dプリントボリュームと同様
- カメラ: 5MP、2592×1944ラズベリーカメラ
オープンソースで低価格
このFABtotumのもう一つの特徴は、完全なオープンソースであるということだ。これは完全に個人のものづくりを対象としており、可能な限りものづくりに参加したい人々に多くの機会を与えたいためだ。そのため価格も1台1299ドルから購入可能で、買った人はFABtotumを自由に改良することも可能。
設計にあたって回路図や設計図はオンラインで入手可能で、ソフトウェアもオープンソースで、スマートフォンやタブレット端末でも稼働させることができる。また組み立てて第三者に自由に販売もできる。まさにアイデアをカタチにしたい起業家やデザイナー、個人でDIYを楽しみたい人には最適なプロダクトだ。
スマホやタブレットでも操作可能

FABtotumスペック
- 機能:ハイブリッド製造複合機
- 稼働: 4軸(利用可能な第5軸ポート)
- 接続: USBホスト、無線LAN
- コントロール:スタンドアローンで可動
- サイズ: 366×366×366mm
- 重量:12kg
- カラー:レッド、ブラック、ホワイト(マット加工)
- 価格:1299USD
ソフトウェア、ファームウェア
- ライセンス:オープンソース(CC BY-NC-SA 3.0)
- インターフェース: FAB UI、オープンソースのWebパネル
- FAB UI互換性: PC、タブレット、スマートフォン
- 改造とプラグイン:プラグインインストーラとアップデータツールを内蔵
- アップデート:インターネット接続による自動アップデート
梱包品
- ハイブリッドヘッドv1.0
- イーサネットケーブル
- 電源コード
- クイックセットアップシート
- ウェルカムキット
- PLAテストフィラメント(5m)
まとめ
デジタル製造がもたらすものは世界的なパーソナルファブリケーションの潮流を巻き起こしている状況だ。FABtotumはそんな個人のものづくりを象徴し、そしてその流れをより多くの人々に普及させようという狙いがある。この1台があれば試作品の製造の幅が一気に拡大できることは間違いない。
3Dスキャニングでリバースエンジニアリングし、電子基板をミリング加工で作り、商品のデザインを3Dプリントする。ある程度の知識と経験があればこれ1台で動くプロトタイプを作ることは可能だ。これによりますます多くの人々がものづくりに参加できる環境が整ってきている。
3Dプリンターやフライス加工に象徴されるようにパーソナルファブリケーションはDIYと同じように巨大な市場を築く日が来るかもしれない。
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