デジタルファブリケーションのファブ3Dコンテスト2016が開催
3Dプリンターの進化によってもたらされるデジタルファブリケーションの波は、新しいものづくりの形を通して、われわれの社会を大きく変革しようとしている。データからダイレクトにモノを生み出すことができるこの技術は、“ものづくりのプロセス”を変えるだけではなく、“ものづくりの在り方”そのものも変えつつある。
これまでのような大量生産大量消費時代のものづくりは、一部の専門家による一方向からのものづくりであったが、デジタルファブリケーションが普及した時代では、よりエンドユーザー(モノを実際に使う側)の価値に最適化されたやり方でなければならない。
このデジタルファブリケーション時代のものづくりの形は、現在様々な取り組みにより着々と日本にも普及しつつある。例えば、MITメディアラボから発祥したファブラボは、急速に世界に拡大し、日本においても現在150カ所以上にまで拡大している。
また2016年8月には、日本で初となるデジタルファブリケーション教育の拠点、MakerBotイノベーションセンターが慶應義塾大学SFCに開設された。そして今回、このデジタルファブリケーション時代の到来をさらに体現する一大企画ファブ3Dコンテスト2016が開催されている。
このファブ3Dコンテスト2016は、慶應義塾大学SFCの田中浩也教授が代表をつとめるファブ地球社会コンソーシアムが企画運営を行うコンテストで、「新しい広がりを持った3Dプリンタの利活用法と、それを担う人材を発掘するための、コンテスト」だ。今回はファブ3Dコンテストのうちのセミプロ/プロの部「3Dプリントエッグパッケージ」の実践大会をご紹介しよう。
慶應義塾大学SFC田中浩也教授のインタビューとイノベーションセンターについてはこちらをどうぞ
- デジタルファブリケーションの現状と未来 -慶應義塾大学SFC田中浩也教授とストラタシス・ジャパン片山浩晶氏インタビュー-
- 日本初MakerBotイノベーションセンターが始動。慶應義塾大学SFCのファブキャンパスの力
3Dプリンターならではのエッグドロップコンテスト
今回ファブ3Dコンテスト2016のセミプロ/プロの部として行われた「3Dプリントエッグパッケージ」とは、卵のパッケージを3Dプリンターで製作し、落としても壊れないものが勝ちという高さを競うコンテスト。もともとエッグドロップコンテストは、1990年代にアメリカの大学で開催が始まり、全世界に広まっている馴染み深いコンテスト。
従来は紙やビニールなどでパッケージを作るのが定番であったが、今回はデジタルファブリケーションということで、3Dプリンターでパッケージを作ることが前提となっている。
技術だけではなくデジタルファブリケーションの楽しさを味わえる
これにより、3Dプリンターでパッケージを作ることで、物体の機能と構造に関する技術が試されると同時に、デジタルファブリケーションの楽しさが味わえるコンテストとなっている。
基本的なルールは3Dプリンターで作られているということが前提条件であり、後処理は不可。高さを競って最優秀賞と優秀賞が与えられるが、デザイン性、コスト、新規性、実用性、使い勝手、ストーリー性も加味され、特に3Dプリンターならではの形状のパッケージのものが評価される。
審査と運営に当たっては、「アナログとデジタルの融合で世界を変える」をミッションに掲げる、3Dデジタル技術のプロ集団、株式会社ケイズデザインラボの原雄司氏と、デザイン・製品開発・3DCGのプロ集団id.artsの米谷芳彦氏を中心に行われた。
ものづくりレシピの共有サイトFabbleで応募
応募に当たっては、慶應義塾大学が運用しているものづくりレシピの共有サイトFabbleにアップロードする仕組みがとられた。このFabbleは、ものづくりのレシピだけではなく、3Dプリンターに関する様々なメモも共有できる。ちなみに慶應義塾大学SFCが運用しているが、参加は自由で、大学でも宮城大学、九州大学、神奈川大学などの学生も利用している。
全18案の3Dプリントパッケージが集結
今回の実践大会は11月13日(日)に鎌倉学園で開催された。応募されたエッグパッケージは全部で18案、鎌倉学園の校舎裏の非常階段が落下大会の会場だ。落下に関しては参加者が自分で挑戦する高さを決めて自ら落下させた。
最高13メートルをクリア。衝突エネルギーを緩衝に利用するパッケージ
優秀賞に選ばれたのは、サービスエンジニアの譜久原尚樹さんが制作した「Reacushion(リアクッション)」。筒の二重構造によって地面に衝突する際のエネルギーを緩衝システムに利用する斬新なアイデアがパッケージに生かされている。
また、側面からの衝撃を避けるために装置上端をショックアブソーバで囲むことで、落下時に側面が直接当たらない配慮もされている。この構造によって初回は9メートルの高さをクリア。第二回は9.5メートル、最後はなんと13メートルもの高さから落下させても内部の卵は割れずにそのままの形を保っていた。
この13メートルという高さは、会場である鎌倉学園で実施できる最も高い高さであったため、この高さが最高記録となった。
審査委員長を務めるケイズデザインラボの原雄司氏も
「記録もさることながら、『地面に衝突するエネルギーを緩衝システムに利用できないか。 単純なピストン形状で一端を卵が蓋をする構造を考えた』という発想から設計されたパッケージは大変ユニークで、かつ、紙などを使った他のエッグドロップでは困難な3Dプリンターの特性を活かしたデザインでこの点でも高評価だった。」
と、記録だけではなく、アイデアから設計に落とし込む高い技術力を評価している。
特別賞はコンピューターを活用したデザイン手法を評価
特別賞に選ばれたのは、プロダクトデザイナーの是枝靖久さんの「voronoi egg shell」が選定された。このエッグパッケージの記録は6メートルと3位であったが、3Dプリンターと3Dデザインならではのパッケージという点が評価され、特別賞に入賞している。
こちらの作品についても審査委員長の原雄司氏は、
「コンピューターを活用したデザイン手法である『コンピューティショナルデザイン』が近年話題になっているが(中略)、、デザインの美しさ、生卵を封入する際の簡便さ、全体的に少ない材料でも造形できるカタチなどから、まさに3Dプリンターと3Dツールを存分に活用した作品として、審査委員の満場一致で同作品を特別賞として選出した。」
と高い評価をくだした。
受賞した作品は上記の2作品であったが、これ以外の16の作品も独創的な形状のエッグパッケージが多く、3Dプリンターならではの作品も数多く見られた。
まとめ 「創造のパートナー」を体感できるコンテスト
冒頭でもご紹介した通り、今回行われた「3Dプリントエッグパッケージ」のコンテストは、慶應義塾大学SFCが企画運営するファブ3Dコンテストの一環として行われたものである。3Dプリンターは安価になってきているとはいえ、まだまだ身近な存在にはなってはいない。
しかし、今回のエッグドロップコンテストように楽しみながら試行錯誤してモノを作る取り組みが広がれば、より3Dプリンターが身近に感じられるようになるだろう。何よりも、田中教授がいわれる3Dプリンター本来の持つ価値『創造のパートナー』を体感できる有意義なコンテストだ。今後さらに普及するデジタルファブリケーションの発展にとって、価値ある取り組みといえるだろう。
i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1、Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。