組立不要で電子機器をつくる。電子回路を組み込む光造形3Dプリントの研究

電子デバイスの完全自動生産を目指す3Dプリントの研究

3Dプリンターの行き着く先は、どのような形態なのだろうか。おそらく現在行われているさまざまな研究開発から見て取れることは、デジタルデータからの完全な自動生産である。現在3Dプリンターで扱える素材はプラスチックや金属、セラミックといった素材が中心だ。

だが、その目指すところは、単一の素材だけを使って物体を生成することではなく、異なる素材、あるいは機械などの機能性を持つ製品を、ダイレクトに製造することを目指している。DDM、ダイレクトデジタルマニュファクチャリングの行き着くところは、機械すらもボタン一つでプリント生成できるようにすることなのかもしれない。

通常、電気で動く機械と言われるモノは、大別して二つの別々の工程から作られる。

第一が、製品の外側のデザインを形にする工程。筐体と言われる部分だが、現在登場している3Dプリンターで作れるのはこの筐体の部分だけだ。

第二が機械を動かすための回路基板を製造する工程。回路基板はその機械を動かすための中核となる部分で、機械の機能が複雑でハイスペックになればなるほど、電子回路も複雑になる。原則、それぞれの工程は別々のラインで生産され、その後二つをアッセンブルし最終製品になるというわけだ。

しかし、3Dプリンターの開発が進めば、将来的にこの二つの別れた工程は一つになるだろう。実はこの取り組みは既に進んでおり、以前もご紹介したVoxel8などは、FDM製法を使い、プラスチックの筐体に電子回路を埋め込むものとして注目をされている。

だが、このVoxel8で生成することができる電子回路の精度は、複雑さを再現することは難しく、開発と性能向上を待たねばならない。その一方で異なるアプローチを取る研究も進められている。本日ご紹介する先進製造プロセス研究センター(AMRC)の光造形3Dプリンターを使った取り組みだ。

本日は、光造形3Dプリントを使った、アッセンブルすることなく電子機器を生成する研究をご紹介しよう。

SLA光造形の過程で電子回路を挿入、組立時間の排除と品質管理保証

先進製造プロセス研究センター(AMRC)は、イギリスのシェフィールド大学から生まれた研究機関だ。この光造形3Dプリンターを使った電子デバイスの製造方法は、回路基板は別に製造する必要があるが、アッセンブルという工程をなくす新たな製造方法の可能性として注目していい。ちなみに光造形とは、液体状の熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂アクリル樹脂ポリウレタンなどをベースにした紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射し硬化させるという製法のこと。

今回使用された3Dプリンターは3DsystemsのSLA光造形機Projet 6000で、試験で作られたものはUSBデバイスだ。通常の工程では、前述したとおり、筐体を3Dプリンターで作り、その後回路基板をはめ込むという方法が取られる。しかし、この研究では光造形のプリント中に直接電子回路を埋め込むことで、組立を行う工程がいらなくなるというわけだ。

より具体的に説明すれば、USBデバイスであれば、外側を構成する筐体を二つ作り、その二つの間に電子回路を設置し組み立てるという手順になる。この方法では、70層の段階で一旦印刷を一時停止し、そこに電子回路基板を設置。その後90の層から印刷を再開させフラッシュ・ドライブを包み込むという方法が取られた。

これにより、ちょうどフラッシュ・ドライブが収まる間には0.2ミリの隙間が生み出されるわけだ。完全にプリントが終了し硬化下あと、そのUSBドライブは正常に機能しPCでも使用が可能となったとのこと。

一般的な組立のUSBデバイスと、光造形での一体USBデバイス
ユニット全体の半分対における印刷スプリット
生成の画像
正常に機能することを確認

まとめ 電子機器の3Dプリントの品質をどう担保するか

この新たな研究におけるメリットは二つ。第一が組立による作業時間が短縮されるという点。第二は、SLA部品内に電子回路を埋め込む際、埃や塵、液体、衝撃といった、電子機器に不良を起こす要素が極力排除されているという点が挙げられるという。

現在は、電子回路は別に製造し、光造形の生成過程に入れ込むという方法だが、この研究開発が進めば、新たなSLA3Dプリント技術の開発に繋がるかもしれない。この研究の潜在的な用途はかなり大きいと言えるだろう。

特に着目したいのが、第二の不良を引き起こす原因を排除できる部分。あまり知られてはいないが、電化製品や家電など、あらゆる電子機器の不良原因は、ほぼ完全に、回路基板の接合に要因がある。その要因はさまざまで、わずかな塵や埃が原因の場合もあるし、水蒸気や水滴の場合もあれば、電子部品の設計ミスといった問題もある。

ただ一つ共通していることは、電子回路や回路基板をアッセンブルする際には徹底した汚れ、衝撃を排除しなければならないというわけだ。そのレベルは水蒸気の水滴や、酸化物(目に見えない元素)レベルで管理されなければならず、電子部品を構成する半導体の製造現場などでは水蒸気すらも排除される(例えば、電子部品を接合する「はんだ」の世界では酸化物は汚れとみなされる)。

こうした徹底した管理が求められる電子機器の製造現場と同等の生産管理が光造形3Dプリントで可能になれば、電子機器の品質も保たれる可能性がある。冒頭でご紹介したFDMを使ったVoxel8の開発で一点心配な要素が、この電子回路部分の品質管理の部分で、いくら3Dプリントの開発がものづくりの幅を拡大しても、この品質の部分が担保されていなければ何の意味もない。

そうした点からも、エレクトロニクスの3Dプリントは、まだまだ時間がかかりそうだ。

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