将来のデザインとモノづくりの人材育成を行うダイソン
世界で初めてサイクロン式掃除機を製造し、その後も羽根の無い扇風機を開発するなど、独自のデザインと商品コンセプトで有名なダイソン。
日本でも多くのひとに知られているイギリスのメーカーだが、社内には専属のデザイナーがいないことで有名だ。 彼らの製品企画は、デザイナーが行うのではなく、プロダクトデザイナーとエンジニアの中間ともいえる「デザインエンジニア」という独自の職種を設け行っているという。
このデザインエンジニアの役割がダイソンでは非常に重要視されており、デザインとテクノロジー両方における技術習得が欠かすことができないとしている。
そんなダイソンだが、このデザインエンジニア育成や啓蒙を行うために多くの取組を行っているのをご存じだろうか。 これは2002年に設立されたダイソンの教育事前団体ジェームズ・ダイソン財団が中心となって行っている取組だ。
これまで数多くのデザインアワードを開催したり、日本でも美大や芸大を中心に製品開発のワークショップを行なったりしてきているが、新たに3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル製造の教育に力を入れ始めている。
ダイソンのデザインとエンジニア振興の取組をご紹介。
プロダクトデザイナーやエンジニアを振興するデザインアワード
ダイソンがまず力をいれて行っている取組はジェームズダイソンアワードだろう。
世界18カ国を対象に行うプロダクトデザインやエンジニアを対象にしたデザインアワードで、応募資格は大学などの専門機関で商品化や製品化に類する技術を習得した人しか参加することができない。
作品の提出にあたっては、単なるデザインや機能だけではなく、作品の目的や、発想家庭、なぜその作品を作ったのかという制作過程の記述も求められる。
また、作品のイメージ図や、スケッチ、設計図、3Dデータなどが必要だ。 ちなみにダイソンの創業者でもあり、ジェームズ・ダイソン財団の創始者でもあるジェームズ・ダイソンはイギリスの公立の大学院大学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート、国王立美術大学の学長を務めている。
毎年開催されるデザインアワード
デジタル製造に対応した人材育成を手掛けるダイソン
そんなダイソンが新たに始めている取組がある。それは教育界へのデジタル製造の浸透だ。
これは現在イギリスを中心に進められている取組だが、中等教育を対象に3Dプリンターやレーザーカッターなどを設置し、デザインとエンジニアリング双方の教育レベルを向上させることが目的。
このプログラムが導入されている学校はHayesfield女子校で、ジェームズ・ダイソン財団から125,000ドル、約1250万円の助成金を受け、さらには135万ドル、約1億3500万円相当の助成金を受け、校内にデザインスタジオを設立している。
その設備は本格的な工業用設備や大学・研究機関に等しく、多軸ルーターや、産業用レーザーカッター、6台の3Dプリンター、そして最新のCADソフトウェアが配備されている。
まさに一企業の範疇を超えた取り組みだが、この背景にはどのような考えがあるのだろうか。
Hayesfield女子校で3Dプリンターの授業を受ける学生
イギリスの製造業振興の国策に基づく取組
このような多額の助成金を中学校に支援し、大学や研究機関レベルの設備を設立することの目的はどこにあるのだろうか。そこには製造業を振興させようというイギリスの国策が存在した。
ダイソンはもともとイギリス政府の中における、デザインと技術分野における国家カリキュラム改正を行う委員会の一員で、2013年以降、デザインと技術の振興政策に置いて手動的な立場を示してきている。
今後のイギリス製造業の発展と国際競争力強化には、自国製造業をデジタル化し、価値を与えるパワーを持つデザイン力を強化することが必要であった。 そのためには、その技能を習得した人材育成、すなわち教育が最も必要な分野になる。
その数はざっと200万人近い人材が必要と見積もられており、デザインとエンジニアを習得した人材育成はイギリスの成長にとって急務ととらえられているのだ。
ジェームズ・ダイソンは国王立美術大学の学長をつとめ、政府のデザインと技術分野の振興委員に参加
まとめ –デザインとエンジニアリングが今後の成長戦略の核になる-
ダイソンの取組に見られるように、イギリスは自国の製造業を経済成長の中心に据えることで更なる競争力強化を図ろうとしている。
そしてその製造業発展のカギとなるのが、デザインとエンジニアリングだ。これまでの大量生産、大量消費の時代と違い、今はモノを作れば売れるという時代ではない。
新たに人に価値を与えるモノでなければ売れない時代だ。その価値を与える力を持つのがデザインであり、これからの製造業にとって、デザインの役割はますます重要になってくるに違いない。
また、同時に、3Dプリンターやレーザーカッターなど、単なる試作機として使用されてきた機械が、デジタル技術と融合することで、全く異なる価値を持ち始めている。
このデザインと技術、二つが今後の時代を担う重要なファクターになるのであれば、この二つを習得し、振興していくことこそ適者生存の法則に則った流れなのだろう。
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