Form3で機能性のある造形を3Dプリントするとどのような仕上がりになるのか?
造形の機能性はどこまで表現されるのか?
今回の機能編は、「クリップ」です。
クリップの中でも、フードクリップと言われる食材やお菓子を保存する時に使用するクリップです。袋を挟んで湿気や乾燥を防いでくれる便利グッズです。今回は、くの字型の形状のクリップに注目して、3Dプリント検証していきます。表面の仕上がりのディティール以外にもクリップの機能性についても見ていきたいと思います。
プリントする形状とサイズ
3Dプリントするクリップの3Dデータになります。
3Dデータは、Blenderという3Dソフトを使用して作製しています。
このサイズで3Dプリントしていきます。
サイズ : 60.8mm(縦)×38.4mm(横)×10mm(高さ)
使用する光造形3Dプリンターと材料
今回使用する光造形3Dプリンターは、Form3です。
Form3は、高精細、滑らかな仕上がりが特徴の反転方式の光造形3Dプリンターです。
ソフトは、Form3の専用ソフトウェア PreFormを使用します。
PreFormでは、プリントするデータ、プリント方向、サポートの付け方を設定することができます。
光造形3Dプリンター用の材料は、Form3専用スタンダードレジンのグレイレジンを使用します。
3Dプリンター用 硬質スタンダードレジン
硬質スタンダードレジンは、光造形3Dプリンターにおいて最も一般的に使用されるレジンです。多様な用途に対応できる汎用性が高く、プロトタイピングから模型、フィギュアまで幅広い分野で活用されています。このタイプのレジンは、適度な強度と耐久性を持っており、扱いやすさとコスト面でも手頃な価格であるため、初心者から熟練者まで幅広く利用されています。
3Dプリントで検証したい内容とプリント設定
【検証1】クリップの持つ機能性
クリップの持つ機能性について3Dプリントで検証したい内容があります。
1.クリアランスの影響
〈クリアランスとは〉
クリアランスとは、部品や物体間に確保すべき距離(間隔、隙間)のことです。
クリアランスが無いと、動く機能のある造形をプリント後に動かすことができません。事前にクリアランスを考えて3Dデータを作成しなければいけません。また、3Dソフトで作成した3Dデータをプリントした場合に、データ上と実際に3Dプリントした造形に若干の誤差が生じる可能性があります。
造形の動作を考慮してクリアランスを取る必要があります。
今回3Dプリントするクリップが、2本の棒を繋げるパーツ部分を動かすことによってクリップが開く構造になっています。クリップを止める側の棒と挟む側の棒の2つのパーツが3Dデータ上では一体型になっています。クリアランスを考えて、クリップが動くように3Dデータを作成していきます。
こちらが、PreFormでの3Dデータになります。2つの棒の接続部分にあるパーツにクリアランスを取っています。今回プリントする3Dデータでは、0.2mmクリアランスを取っています。
このクリアランス部分を3Dプリントをした場合に、どのように機能するのかを検証してみたいと思います。
2.挟む機能
二つ目は、クリップの機能である物を挟むという点です。クリップで物を挟んだ時に、支えとなってとまってくれるストッパーの部分の機能について検証していきます。
【検証2】表面ディティールの仕上がり
検証二つ目の内容は、機能性のある造形を3Dプリントした場合の表面ディティールの仕上がりです。
3Dデータの造形がどこまで表現できているのかを検証していきます。
PreFormでのプリント設定
サポート設定は、直付プリント(サポート設定なし)
積層ピッチは、50ミクロン
でプリントしていきます。
※直付表面に検証1のクリアランス部分が触れています。このままプリントをして影響を確認してみます。
こちらがPreFormでのプリント画面になります。
この内容で3Dプリントをしていきます。
プリント時間 | レイヤー数 | ボリューム | Total材料コスト | 1個あたりのl材料コスト |
8h30m | 1257層 | 31.28ml | 3個=588円 | 1個=196円 |
3Dプリント結果
【検証1】クリップの持つ機能性 結果
1.クリアランスの影響
[プリント結果]
●クリアランス部分の動かすパーツ部分の一部ががくっついてプリントされてしまった。
●硬く動きにくく、広げた時に造形が折れてしまった。
[プリントが失敗した原因と考えられる改善点]
●クリアランスが足りず、造形が積層される段階で隙間が埋まってしまいました。
●改善点として、クリアランス部分にもう少し余裕を持たせます。
3Dデータのクリアランス部分の修正をして再度プリントしていきたいと思います。
[クリアランスの変更]
3Dデータで、クリアランスを0.2mmから0.5mmに修正していきます。
こちらが3Dソフト上でのクリアランス部分の修正データです。分かりにくいですが、クリアランス部分の幅が少し広くなりました。こちらの内容で再度同じ設定でプリントしていきます。
[2回目のプリント結果]
●隙間ができて、パーツ部分がスムーズに動きクリップの開閉がし易くなりました。
●クリアランスのパーツ部分に余裕のある造形に仕上がりました。
今回は、クリアランスの機能に問題なくプリントできました。実際の仕上がりを見ていきましょう。
※プリント1回目もクリアランスのパーツ部分以外は、2回目のプリントと同じく高精細な造形に仕上がりました。
2.挟む機能
クリップの本来の機能である物を挟んで検証してみましょう。
物を挟んだ時に、支えとなってとまってくれるストッパーの部分の機能についても検証していきます。
[検証結果]
●袋を挟んでみましたが、外れる事なく止めることができました。
●ストッパー部分も問題無く機能しています。
●ストッパーの一部造形が欠けてしまいました。
※今回使用したグレイレジンは、プロトタイプ用としての使用に向いている材料になります。繰り返し使用していると欠けたり折れる可能性があります。
【検証2】表面ディティールの仕上がり 結果
●3Dデータ通りに滑らかにプリントできています。
●クリアランス部分も高精細な仕上がり。
●角の精度も良くできています。
●直付表面部分も滑らか。クリアランス部分も隙間ができています。
●クリップの内側部分の凹凸もきれいに出ています。
[寸法結果]
3Dデータサイズ :60.8mm(縦)×38.4mm(横)×10mm(高さ)
3Dプリント後のサイズ
縦 : −0.1mm
横 : 寸法通り
高さ : 寸法通り
縦にほんの少し縮みましたが、ほとんど寸法通りにプリントできました。
機能編クリップ 3Dプリントまとめ
●機能性に関して
動く機能のあるパーツを3Dプリントする場合、クリアランスがしっかり取れていないとプリントの段階で隙間が埋まってしまい、うまく動作しない可能性があることが分かりました。
※3Dデータ上では問題無くても、3Dプリントをしてみるとクリアランスが不足している場合もあるのでプリント前に必ず確認が必要。
クリアランスを改善して2回目にプリントしたものは、スムーズに開け閉めができてクリップとしても問題無く使用できました。
3Dデータ上で2個のパーツが一体型になっている造形を3Dプリントしてみましたが、今回の検証ではパーツの動作も問題無く3Dプリントをすることができた。
●表面のディティールの仕上がり
全体的に3Dデータ通りにとても高精細で滑らかな造形に仕上がりました。内側の凹凸もきれいに造形ができていました。
今回の3Dプリントの結果は、グレイレジンの持つ滑らかで美しい表面と、高精細なディティール表現が良く出ている結果になりました。機能性に関しても、クリアランスのプリントへの影響が出ている検証結果になりました。造形動作の機能の違いによってもクリアランスの影響は変わってくるのかもしれません。
またForm3は、スタンダード樹脂以外にABSの強度を再現したTough 2000 Resinやポリプロピレンの靭性を再現したTough 1500、その中間で適度な曲げ強度があるデュラブルなど、曲がりにくく硬くて頑丈な部品の3Dプリントに最適な材料もあります。プロトタイプ用としての使用に向いている材料であるスタンダード樹脂との機能性や強度の比較検証もしていけたらと思います。
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