多層化を実現したデスクトップの電子回路3DプリンターSquink

ハードウェアのダイレクト製造を目指す3Dプリンターたち

3Dプリンターの進化は、徐々にさまざまな分野に及びつつある。プラスチック素材にはじまり金属、セラミックと、素材を超えて全てのモノがデジタルデータからダイレクトに製造できるようになりつつある。こうしたダイレクト製造の流れはハードウェアの領域にも徐々に踏み込みつつある状況だ。

既に、電子回路基板をオンデマンドで製造しようという動きは登場してきており、つい先日ナスダックに上場したNANO DIMENSIONの多層プリント基板の3Dプリンタードラゴンフライ2020や、プラスチックパーツに電子回路を組み込むことができる3DプリンターVoxel8、5軸で電子回路も物体に組み込める3DプリンターAerosol Jetなど、ハードウェアのダイレクト製造を加速させる試みが行われている。

こうしたマシーンはどちらかというと、ハイエンドなデバイスに分類され、メイカーズと言われるスタートアップやベンチャー企業が手軽に導入できるものでもない。このような状況の中、より手軽にパソコンの隣において多層プリント基板をプリントすることができるデスクトップタイプの電子回路3Dプリンターが注目を集めているようだ。

本日ご紹介するBotFactoryの3DプリンターSquinkは、デスクトップの電子回路工場ということができる。2014年度にキックスターターキャンペーンを成功させ、製品化したが、新たにマルチレイヤー機能を加えて新たな機能を搭載した。より手頃な価格で電子回路の高速プロトタイピングが可能で、ハードウェアのものづくりに挑戦できる3Dプリンターだ。

わずか30分で電子回路の試作が可能。3DプリンターSquinkの機能とは

BotFactoryは、2014年にキックスターターで10万ドルの資金調達に成功したニューヨーク発のスタートアップ企業だ。彼らが開発した3DプリンターSquinkは、パソコンの隣においてスピーディにプロトタイプを製造することができるデスクトップタイプの電子回路3Dプリンターである。

Squinkが画期的な点は、2014年以降のリリース以来、機能を大幅にアップグレードさせ、小型でコンパクトながらも電子部品とはんだ付けを自動設定で配置し多層化を実現しているということが挙げられる。通常、現代のハードウェアの電子回路は機能の多様化から複雑さが増しており、多層化がすすんでいる。

多層化とは、簡単に説明すると、一枚のボードに電子回路や部品が収まらない場合、その上に別の回路と電子部品が描かれた層を重ねて1枚の基板にする方法のこと。BotFactoryのSquinkはデスクトップタイプでありながら、2層まで多層化できる機能を実現している。

デスクトップの電子回路3DプリンターSquinkの動画

2層までの多層プリント基板の試作が作れる。

はんだペーストや電子部品の配置もアルゴリズムで自動化

今回の多層化をご紹介する前に、従来からのSquinkの基本的な機能をご紹介すると、柔軟なボードの上に低抵抗導電性インクを用いて電子回路をプリント、はんだペーストと導電性接着剤を敷設し、その後トランジスタや抵抗器といった細かい電子部品を自動で配置するというものであった。貼り付けに必要とされるはんだペーストの量は、Squinkのアルゴリズムによって自動算出され最適な量が塗布される。ちなみに電子回路基板の組立や製造において最も重要な部分がこのはんだ付けの部分であり、電子回路と電子部品を接合する際に最も注意が必要になる。

導電性インクを描き、半田ペーストを自動で付け、電子部品を自動設置

専用絶縁性インクで多層化を実現、2層からそれ以上も

今回は、このベーシックな電子回路製造の機能に加えて、更にその上にエポキシ樹脂ベースの絶縁インクを使い、もう一つの電子回路を描く機能が追加されている。多層化する場合に使用する場合には、上記の専用絶縁性インクを塗布したあと、硬化ランプで硬化させ、更にその上にもう一層の電子回路を新たにプリントするという仕組みだ。この絶縁性インクは既存の導電性インクとも互換性があり、更にその上に上部の層を構築することが可能になる。BotFactoryは、基本的にこの機能によって2層まで多層化することが可能としているが、更にその上に追加の層を構築することも考えており、近い将来公式サポートを行う予定だ。

Squinkで作られたフレキシブル多層プリント基板

電子回路3DプリンターSquinkスペック

  • 最大回路基板:6 “×6”
  • 最小加工寸法:0.254mm×0.508mm
  • 最小行間隔:0.254mm×0.508mm
  • 最小パッケージサイズ:0603 2端子パッケージ(抵抗、コンデンサ等)
  • プリンターサイズ:450mm×450mm×380mm
  • プリンター重量:13.6kg
  • 総プリント時間:約30分
  • 1個あたりの製造コスト:5ドル以下
  • 標準インク:抵抗率50 mOhms/sq
  • サポート材料:写真用紙およびコーティングされたOHPフィルム
  • 高度なインク(積層用):抵抗率40 mOhms/sq
  • サポート材料:FR-4およびカプトン
  • 価格:2999ドル(フルパッケージ)

強力なオンボードソフトウェアも搭載。確実で精度の高い設計を可能に

Squinkの強みは多層化だけではない。強力で使いやすいオンボードソフトウェアを搭載している点も魅力の一つだ。もともとBotFactoryのメンバーはPCB、多層プリント基板業界で数十年の経験と知識を持つスタッフが揃っており、電子回路設計をより使いやすく円滑にするためのプロセスもこだわっている。

この専用ソフトウェアはわざわざソフトウェアをインストールする必要もなく、ネット経由で開くことが可能で、導電性部分のトレース部分の設計から、全ての電子部品の配置、はんだペーストの分量の自動算出、回転誤差の補正機能など、より精度が高く確実性の高い電子回路の設計を可能にする。

オンラインの専用ソフトウェアでスピーディに設計が可能に。

まとめ 電子回路設計の試作がより手頃になる

現在ハードウェアのプロトタイプをつくることを考えると、その試作にかかる費用はどんなに安くても数万円以上はかかる。これは単層のシンプルで複雑ではない電子回路の場合であることから、より複雑で多層化されたプリント基板であれば、それ以上の金額は当たり前で、数十万円以上の金額が発生することは当たり前だ。

しかし、今回ご紹介したようにSquinkのようなデスクトップタイプの電子回路3Dプリンターを使用すれば1枚あたりの試作コストは5ドル以下で済む。またSquink本体でもフルセットで3,000ドル以下の金額であることから、ハードウェアの開発を行う企業にとっては試作を外注するよりもはるかに低コストで抑えることが可能だ。

プラスチックの3Dプリンターが登場することで金型をつかった試作が減少するように、電子回路の試作ももっと手軽に行うことができるようになるだろう。これによってものづくりの民主化は更に進むことになり、イノベーションを起こす新たなモノが生み出される可能性がより高まるだろう。

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