高品質パーツの造形にひたすら特化するMarkForged
昨年度、400%の成長率を見せたデスクトップ3DプリンターMarkForged。ナイロン(ポリアミド)素材をベースに、炭素繊維やガラス繊維、ケブラーといった繊維素材を配合し、デスクトップタイプのFDM(熱溶解積層法)3Dプリンターでも高強度、エンジニアリングレベルのパーツ製造が可能だ。
このMarkForgedは、高強度素材に特化することで、デジタルデータから、ダイレクトな実用的パーツの製造を可能にし、数多くの廉価版のFDM(熱溶解積層法)3Dプリンターとの圧倒的な差別化を実現している。
すでにリリースされたMarkForgedのMark Twoは、GEやエアバス、NASAといった航空宇宙産業から、日産などの自動車メーカー、PHILIPSなどの家電メーカー、GoogleやアマゾンといったIT企業まで多くのメーカーに導入を果たしている。
基本的な仕組みは二つの押出ノズルをつかった独自コンポジット技術がベースとなっており、物体のベースとなるものをナイロン(ポリアミド)素材の押出ノズルで積層し、炭素繊維やガラス繊維、ケブラーを混合、補強するという仕組みだ。これによりアルミニウムよりも高い強度を持つパーツが造形できる。
そんなMarkForgedだが、デスクトップのMark Twoをさらに進化させたハイエンドモデルを発表した。今回発表されたMark Xは、従来のMark Twoが持つコンポジット技術に加え、レーザースキャン技術によりCADデータとの1ミクロンのずれも許さない超高性能パーツの製造を可能にする。
また大型造形が可能で、50ミクロンの精度を誇るいうなれば射出成型の造形精度にも勝るとも劣らない性能を実現している。
マイクロレーザースキャニングで、CADデータとの寸法公差を極小に
今回発表されたMark Xは、初号機となるMark One、高性能パーツの造形を実現したMark Twoの流れを組む、高強度3Dプリントパーツの造形機だ。従来のモデルに加え、新たに大型化、超高解像を実現している。
大型造形や高解像を謳った3Dプリンターはこれまでも数多く登場してきているが、Mark Xは超高解像を実現するために独自のレーザー技術を搭載している。
その機能では、±1ミクロンレベルの部品交差の精度を実現することが可能で、言うなれば、射出成型などの金型造形と遜色がない高性能パーツを作ることが出来る。この技術はプリントヘッドに内蔵されたマイクロレーザーが造形中の物体をスキャニングし、Z軸では1ミクロン、XY軸では50ミクロンの分解能でスキャニングできる。
クラウドソフトウェアで寸法公差をモニタリング。自動停止機能も搭載
MarkForgedも近年3Dプリンターの造形では主流になりつつあるクラウドソフトウェアを搭載しており、マイクロレーザーによるスキャンデータは、彼らが提供するクラウドソフトウェアEigerによってリアルタイムで確認が可能。また実際にプリントが開始する前に、このクラウドソフトウェアではプロセスなども確認可能でワークフローを大幅に改善できる。手順としては以下の通りだ。
- ユーザーはスキャニングするレイヤーを決定できる。スキャニングのレベルは部品サイズとスキャン解像度に合わせて変化する。Z軸は最大1ミクロン、XY軸は25ミクロンから50ミクロンの精度だ。
- レイヤーがスキャニングされた後は、詳細データにアクセス可能。実際のプリントされる部分との距離によって色分けされる。
- ユーザーはさらに寸法チェックツールとして円ツール、距離ツール、長方形ツールなどを使用して計測することも可能。
- 寸法の誤差などに不満がある場合はキャンセル可能。
例えば下記の写真はMarkForgedのクラウドソフトウェアEigerの画面にあるスキャニングデータ。ブレーキレバーのCADデータと実際に3Dプリントされる部分の違いを色わけすることで示している。
緑色の部分が実際に3Dプリントされる部分、青色の部分が10ミクロン以上の誤差、赤色の部分が10ミクロン以下の誤差である。また、このクラウドスキャニング機能は、現在さらに進化を計画しており、実際のプリントが設定された測定データの許容範囲を超えた場合には3Dプリントが自動的に停止され、オペレーターに通知する機能もリリースされる予定だ。
これはループ検査機能と呼ばれるもので、マシーンの欠陥を調整し、印刷プロセスを劇的に向上させることが出来る機能だ。
アッセンブルパーツや複雑な形状も誤差なく正確に3Dプリント
このマイクロレーザーによるスキャニングとクラウドソフトウェアによるモニタリングが実現すれば、デジタルからリアルへ、ビットからアトムへアウトプットされる精度が飛躍的に向上し、これまで以上に速く、低コストで、実用的な部品が確実に製造することが出来るようになる。
とりわけアッセンブルパーツの3Dプリントでは、各パーツの3Dプリント時における寸法公差の解決は非常に重要な課題で、設計データとほぼ遜色がない公差が実現できれば、これまでのような測定チェック、検品チェックといった工程も大幅に改善されるに違いない。
少なくとも、デジタルデータからダイレクトに精密パーツを作る幅が大きく開けることになる。ちなみに下記は、Mark Xで3Dプリントしたタービンハウジングの軸受けフィット部分。非常に厳しい寸法公差が求められる部品だが、Mark Oneを使えば見事にアウトプットが可能になる。
Mark Xスペック
- 造形サイズ:250mm×200mm×330mm
- フットプリント: 575 mm x 467 mm x 928 mm、575 mm x 467 mm x 424 mm(キャビネットなし)
- プラスチック材料:ナイロン、オニキス
- 繊維材料:炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー、高強度・高温ガラス繊維
- 検査パラメータ:直径50ミクロン、Z軸分解能1ミクロン
- Z軸レイヤー解像度:50ミクロン
- ソフトウェア機能:シングルサインオン、Two-Factor認証、組織管理者ポータル
- の新機能への早期アクセス
- ソフトウェア配信:SaaSストレージ、ローカルストレージ
- 付属品:Eigerクラウドソフトウェアへのアクセス権、800ccナイロンスプール、800ccオニキススプール 、150cc炭素繊維、150ccガラス繊維、150ccケブラー、150ccHSHTガラス繊維、Oneエキストラ印刷ベッド(2合計)、エキストラノズル
- Markforgedエンジニア用トレーニングサイトへのアクセス権
ナイロンの靭性と繊維の剛性を実現。マイクロカーボン強化ナイロンフィラメント
Mark Xが、寸法精度を実現するために採用しているのはレーザースキャニングとクラウドモニタリングシステムだけではない。フィラメントの部分でも新たな新開発を行っている。
それが今回登場したオニキスと名付けられたフィラメントだ。もともとMark Twoではナイロンフィラメントをベースに炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維を配合する手法を採用していたが、オニキスはフィラメントそのものを炭素繊維で強化するというもの。マイクロカーボン強化ナイロンといわれるもので、優れた剛性と少ない反りを実現している。
いうなればナイロンの靭性と繊維の剛性を併せ持つ素材で、ABS樹脂を超える耐摩耗性を有している。その証拠に、このオニキスを使った造形は、バルブで有名なディクソンバルブにも採用されており、ロボットグリッパーなどに使用されている。
このオニキスを使用すれば、高強度のパーツ製造が出来るだけではなく、ビルドプレートによる剥離を最小化し、3Dプリントの高い寸法精度を保証される。もちろんこれまでのMark Oneや、Mark Twoなどと同様、炭素繊維やガラス繊維、ケブラーなどで補強することも可能だ。
まとめ デスクトップのクラウド製造マシーンへの道
FDM(熱溶解積層法)の製法特許が失効したことにより、様々な廉価版が登場してきている。その多くが、“大型造形”や“高解像”を謳ってきた。この二つの機能は、いわば3Dプリンターが最終品の生産マシーンになるうえで欠かすことが出来ない要素だが、もうひとつ重要な機能がある。それが“品質”である。
いくら高解像で造形することが出来ても、安定したプリント品質が保つことが出来なければ、モックアップの域を出ることはない。また、3Dデータによる設計が普及したとしても、アウトプットする正確さが低ければ、デジタル設計の良さは活かされることはない。
MarkForgedほど、3Dプリンターの本質を理解し、徹底して造形物の品質を高めることに特化したデスクトップ3Dプリンターはほかにはいない。
まるでハイエンドモデルのようなクオリティを文言だけではなく着実に実現しつつある。今回ご紹介したマイクロレーザースキャニングとクラウドソフトの連動は、クラウド製造をより確実にするものだし、オニキスフィラメントの採用は、確実な造形を可能にしてくれる。今後のさらなる開発に注目したい。
ちなみに前回のMark Twoは5499ドルという驚異的な低価格であったが、今回登場したMark Xの価格はよりハイエンドであることから、それよりも高くなる可能性がある。
i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1、Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。