最終品の量産を可能にする高速3Dプリンター
IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社が発表している3Dプリント市場によると、2017年から2021年まで、ハイエンド3Dプリンターの市場は順調に成長すると予測されている。
その一つの要因が、3Dプリンターによる最終品の量産使用が拡大することが大きいだろう。今年の3Dプリント展においても、最終品の量産の可能性を感じさせてくれる新たな展示が特長的であった。
中でもその代表的存在が、今回ご紹介するCarbonである。
Carbonは、光造形法を進化させたCLIP製法を開発し、従来の3Dプリンターでは到達できなかったスピード、精度、仕上がりを実現している。
TEDにおいて行われた「3Dプリンターを100倍高速化する技術」というプレゼンテーションで一躍注目を集め、アディダスが自社のシューズ『Futurecraft 4D』の量産にCarbonの3Dプリンターを取り入れ、五千足を販売したことはあまりにも有名だ。
ちなみにアディダスは、2018年度はCarbonの3Dプリンターで数十万足を量産する計画にあるようだ。今回は、Carbonの展示をご紹介しよう。
アディダスの目指す3Dプリント量産を実現するCarbonの力
まずは、一躍注目を集めたアディダスの3DプリントシューズとCarbon 3Dプリンターのもたらす力についてご紹介しよう。
アディダスが3Dプリントシューズの量産を開始するためにCarbonと提携したのは2016年ごろにさかのぼる。
アメリカでは1月に5千足がニューヨークで販売され即完売、更につい先週、今年の2月中旬にLAで新モデルがリリースされている。
更に、アディダスは、この3Dプリントシューズの量産を本格化させる計画で、2018年度には、数十万足を量産する予定だ。
プロトタイプ作製の枠を10倍に
この3DプリントシューズへのCarbon 3Dプリンターの利用だが、最終品の生産を可能にするという点も画期的だが、更に革新的なのは、これまでのシューズ開発の歴史を塗り替えてしまう効果をもたらしているからである。
これまでシューズのソールは、金型によって作られるが、そのためのコストや期間は膨大になり、試作にかけられる期間と費用も限定されるものだった。
実際、Carbonによって開発が行われる前は、製品開発の過程において5回しか作ることが出来なかったプロトタイプが、従来の10倍およそ50回もの試作と検証を可能にしている。
また、今回開発されたミッドソールの形状は、通常の金型では作ることが不可能な形状なのがポイントだ。
Carbonであれば、より高性能で、形状も従来の金型の枠組みにとらわれないデザインをアウトプットすることができる。
更に特長的なのが、このミッドソールの開発過程において新たな樹脂開発も行われているという点にある。
既存のエラストマー材料を進化させ、より低コスト、高性能な機能を発揮できる材料開発を行っている。
後ほど、Carbonの豊富な材料ラインナップについてはご紹介するが、単なる3Dプリンターメーカーではなく、材料開発や設計・デザインなどのノウハウも有するデジタル製造のスペシャリスト企業だということがわかる。
将来的にはマスカスタマイズを視野に。プロ選手ではカスタマイズも
3Dプリントシューズには、試作開発を大きく変えるだけではなく、その特性を活かしてマスカスタマイズを可能にしてくれる。
特にシューズはプロスポーツの分野では、シューフィッターといわれるプロの目利きが、一人ひとりの足のサイズや体形、走り方などにあったシューズを選ぶ“フィッティング”が行われており、将来的にはより手軽なカスタマイズとして、個人に最適化された3Dプリントシューズの製造が期待される。
ちなみにアディダスは既に、先のリオオリンピックの金メダリスト、トリ・ボウイの3Dプリントシューズが、フィジカルデータに合わせて作られている。
多様な高性能樹脂素材をそろえ、最終品生産の幅を拡大
今回の展示ではCarbonの誇る、多様な高性能樹脂素材も多数展示された。
光造形法の一般的な樹脂である6色の硬質樹脂に加え、さまざまな物性を持つ材料が登場し、よりエンドユースパーツの製造が拡大しそうだ。
自動車部品から消費財などの工業パーツに使用できる硬質樹脂RPUをはじめ、優れた表面性と高い耐衝撃性を誇り、繰り返しの応力にも耐えうるFPUや、反発弾性と伸び引裂き強度を持ち、ゴム製品などに最適なエラストマー材料EPUなどがそろう。
更に、231℃もの高温下において強度と剛性を持つCE樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして、エンジンルーム内のパーツや電気部品などに最適な性能を有している。
そしてガラス繊維強化PBTと同等の機械的特性を持ち、高強度、優れた耐摩耗性を持つEPXも高精度が求められる自動車部品や工業製品のパーツに最適だ。そして、このラインナップに加え、昨年11月には人体接触用ソフト材料であるシリコーン樹脂がリリースされた。
クラウドソフトウェアとエンジニアリングサポート
Carbonの優れたところは3Dプリンターと材料だけではない。それをコントロールするクラウドソフトウェアとエンジニアリングのサポートも優れた性能を有している。
クラウドソフトウェアの機能として特長的なのが、高度な自動サポート機能だ。3Dプリントする物体の要素解析を行うことで、使用しての形状や質量などに合わせて、自動的にサポート材を生成するだけではなく、材料の消費を抑え生産性を高めてくれる。
更に表面テクスチャなどもエンジニアが独自開発されたクラウドソフトウェアを活用することで、微妙な質感や通常では表現できないディティールを生成することが可能だ。
例えば、テクスチャやラティス(格子)のデザインデータを付与することが可能で、この設計機能はCarbon独自のもの。
また、Carbonのソフトウェアは、最終品の量産を視野に入れた機能を追加している。それがシリアル番号の追加だ。
この機能はパーツのトラッキングなどの効率化を図るもので、ユーザーが各パーツに固有のシリアル番号をつけることが可能で、部品の履歴を一元管理することができる。
今後、3Dプリンターで生産が実現すれば、品質管理などにも有効利用でき、医療、歯科、自動車、消費者向け製品などに最適といえるだろう。
まとめ 材料ラインナップも拡大し、最終品量産の幅を広げる
Carbonは、今回展示された材料ラインナップのほかに、最終品として使用できる材料ラインナップの拡大に取り組んでいる。
今後は車載用高耐衝撃性材料、耐薬品性エラストマー材料、高反発性エラストマー材料、歯科用材料などの新規リリースが予定されており、こうしたラインナップが広がることによって、更に最終品の量産が広がるだろう。
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