プラスチックの物性からくる不良、収縮による形状変化
3Dプリンターに限ったことではないが、プラスチックの加工には不良品がつきものだ。
それはプラスチックが本来持つ収縮性という特性によるもの。3Dプリンターの一般的な製法であるFDM製法、熱溶解積層法をわかりやすく言うと、フィラメントと呼ばれる棒線状の樹脂を溶かして積みあげ、冷やして固めるという仕組みだが、冷却して固める過程において、プラスチックの収縮という現象がみられる。
この収縮時における形状変化で、様々な不良が発生することになる。FDMタイプの3Dプリンターの不良で一般的なのが「反り」だろう。「反り」とは呼んで字のごとくプラスチックが反り返る不良のこと。これは金型を使った成形方法でも同様の現象がみられる。
ちなみに金型の場合は、上記で挙げた「反り」以外に、肉厚部分でへこむ「ヒケ」や、溶けた樹脂が流れた時に発生する「ブローマーク」、製品が欠ける「ショートショート」など、さまざまな不良が発生する。
上記は余談だが、金型の場合は、樹脂の特性や、温度のコントロール、複雑な金型設計によって、プラスチック成形の不良をなくし、さまざまな質感を表現することができるが、3Dプリンターはそうはいかない。なぜならば3Dプリンターは機械自身が持つ固有の特性と使用する材料の物性に依存しているため、金型などのような熱と製法をコントロールするということが不可能だ。
これは金型と3Dプリンターの本質的な製法の違いだが、3Dプリンターの場合は、機種の機械的性能が向上するか、材料特性を向上させるしか方法がない。
本日ご紹介するBiome3Dはそのうちの材料の方の改良事例だ。とりわけFDMタイプの3Dプリンターで見られる一般的な不良、「反り」や収縮による形状変化を防ぐ、環境にやさしい新たな3Dプリントフィラメントだ。
低価格なFDMタイプの3Dプリンターでよくみられる不良
FDM 3Dプリンターの性能を向上させるフィラメント
FDMタイプの3Dプリンターの材料ともいえるフィラメントでは最近様々な種類が登場してきているが、最も一般的な素材がABS樹脂とPLA樹脂だ。
中でもABSフィラメントは3Dプリンターに限らず金型でも使用される最もポピュラーなプラスチック材料だろう。粘りがあり加工もしやすく、また塗装も用意にできるという特性からさまざまな製品に使用されている。
しかし性能があまりよくない低価格のFDMタイプの3Dプリンターでは、上記で述べたような「反り」や収縮による形状変化が頻繁に起こる。さらには、石油由来の樹脂素材であることから、加工時に独特のにおいを発生することも昨今の環境貢献意識とは逆の素材と言えよう。
今回新たに発表されたBiome3Dフィラメントはある意味、そんなABS樹脂の課題をすべて克服した新素材だと言える。開発したのは3DOMフィラメントという3Dプリンターフィラメントの開発を行なう企業と、イギリスの代表的なプラスチックメーカーバイオームバイオプラスチック社だ。植物のデンプンから作られたこの材料はまさに次世代型3Dプリントフィラメントともいえる優れた特性を持つ材料だ。
Biome3Dフィラメント
仕上げを遥かに高品質に、3Dプリント速度を向上
それでは新たに開発されたこの3Dプリントフィラメント、Biome3Dについてご紹介しよう。材料は上記で述べた通り植物由来のデンプンから作られているが、現在市場に流通している多くの植物由来のプラスチックとはどのように異なるのだろうか。
植物由来の3DプリントフィラメントとしてはPLA樹脂が既に存在するが、その問題点として固くて加工しにくく、熱に弱いという弱点がある。
Biome3Dはいうなれば、PLAのような植物由来のプラスチックが持つ弱点を克服し、滑らかな表面仕上げと柔軟性を併せ持つことに成功した新素材だ。また、同時にABS樹脂などの温度変化による収縮を最小限に抑えることに成功し、「反り」や「形状変化」の不具合がより少なくなっている。
下記はBiome3Dを使って、Makerbotのレプリケーターでプリントしている動画だが、これまでのフィラメント素材に比べて滑らかで美しい仕上がりを表現している。Biome3Dの開発にあたっては、400回以上もFDMタイプの3Dプリンターでテストを繰り返し最高の性能を発揮することに成功している。
最大の特長は大きな範囲のプリントでも、細かいディテールと幾何学的模様なども精度高く再現可能であり、同時にプリントスピードも従来のABSやPLAのフィラメントよりもはるかに向上させることが成功している。
Biome3Dを使ったMakerbotのレプリケーターの3Dプリント
低価格なFDMタイプでも滑らかで高速な3Dプリントが可能
Biome3Dフィラメントの特長
- 大きな範囲で、優れたディテールと幾何学的形状の再現が可能
- 高速3Dプリントを可能にする
- 無臭
- プラスチックの収縮を最小限で抑える
- 割れや、反りなどの不良を防ぐ
- シルキーな感触
- 優れた表面仕上げ
- 優れた印刷品質
- 植物ベースで再生可能
- 柔軟性の向上
Biome3Dフィラメントスペック
- 直径:1.75mm(±3%)、3mm (±3%)
- 長さ:175mmが340メートル、3mmが114メートル
- カラー:14色に対応
- 最適ノズル温度:180℃~225℃(235℃以上を超えない)
- プリントスピード:80mm~100mm/秒
まとめ
3Dプリント用のフィラメントの開発は、3Dプリンター本体の開発と同じくらいこの技術の使用に影響を及ぼす。冒頭で述べた通り、3Dプリンターは金型と違い、人間の力によって機械の性能や素材の物性をコントロールすることが不可能なためだ。
そのためクオリティの高いものを作ろうと思えば、機械本体の性能や材料の性能が向上するのを待たなければならない。しかし、ここ数年の3Dプリント技術の進歩と発展は目覚ましいものがあり、続々と新たな機器や素材が登場している。
さらに面白いのが材料の開発が3Dプリンターの性能や使用拡大に影響を与え始めていることがあげられるだろう。本日ご紹介したBiome3Dのように従来からあるフィラメントの弱点を克服するだけではなく、3Dプリンター本体の性能まで向上させる開発は、まさに次世代の3Dプリントフィラメントを担うにふさわしいものだと言える。
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