アップルのiPhone、iPad用3Dスキャンカメラの開発

スマートフォンやタブレットのカメラは3Dスキャン機能搭載の方向へ

3Dプリンターが一般エンドユーザーに当たり前のように普及するためには、ソフトウェアアプリケーションのより簡単なインターフェースが求められる。極端な表現を使えば、ボタン一つで、簡単に3Dデータをカスタマイズでき、3Dスキャニングしたデータをその場でタッチパネルなどで編集、3Dプリンターに反映できるといった機能が望ましい。

高度なエンジニアリングが求められるジェットエンジンなどとは異なり、多くの消費者向けプロダクトはベースとなる部分は残しつつも、ユーザーの個別の要求に応じる高度なカスタマイズ性が求められる。

より多角化し、複雑化するエンドユーザーの要求に応えるためには、カスタマイズを実現するための技術的進歩が必要だ。とりわけ挙げられるのが直感的な3Dデザインソフトの開発や、より簡単で使いやすい3Dスキャナーの開発だ。こうした3Dデータの民主化を押し上げる動きとして、3Dカメラの汎用搭載である。

例えばインテルが開発する3Dカメラはスマートフォンやタブレット端末に汎用で搭載できることを想定したものだ。既に一部のノートパソコンには搭載し、タブレット用の試作も完成している。そうした中、新たにアップルが3Dスキャン機能搭載のカメラを開発する動きが登場している。

インテルのスマートフォン・タブレット専用の3Dスキャンカメラの記事はこちらです

iPhone、iPadのカメラが正確に3Dスキャンできるカメラに

ご存知のとおりアップルは創業者であるスティーブ・ジョブズの考えから、ソフトウェアとハードウェアが一体でなければならないとするメーカーだ。マイクロソフトやGoogleアンドロイドが、ソフトウェアの開発のみを行い、器となるハードウェアは多くのメーカーが存在するのとは対照的に常にアップルの製品には専用のOSとソフトウェアが搭載されてきた。

こうしたアップルのメーカーとしての徹底したこだわりといった部分を考えると、iPhoneやiPadなどのスマートフォンやタブレット端末に搭載される3Dカメラや3Dデザインアプリは、アップルが自ら開発するものになる可能性が高い。

既に前述したとおり、インテルがインサイドビジネスの元、自社で新たに開発する3Dスキャンカメラを多くのスマートフォンやタブレット端末のメーカーに導入を計画する中、アップルも自ら開発する動きを開始し始めているようだ。

アップルが進めるiPhone、iPad専用3Dスキャニングカメラ

正確に物体のサイズを測定、3Dモデリング化するカメラLINXを買収

実はアップルは3D技術に関する企業買収を既に2年前に行っている。アップルは2013年、イスラエルの3Dセンサー技術を開発する企業プライムセンスを買収した。買収金額は3億4500万ドルで、プライムセンスは独自の深度センサーを開発している。

プライムセンスの技術を知る上で代表的なのがマイクロソフトが開発するXbox360向けのゲームKinect(キネクト)だ。キネクトではコントローラーが不要で、声やジェスチャーでゲームを体感することができる。この買収ではアップルTVに搭載される双方向テレビ用のセンサー利用が示唆されたが、同時に今回の新たな買収によってiPhone、iPad用の3Dスキャン、顔認識機能がより確実なものとなった。

今回アップルが買収したのはLINXイメージングというこれまたイスラエルのハイテク企業。LINXはカメラを粒子状に配列した三次元映像をつくるアレイカメラのメーカーで、深度を計測して物体の正確な寸法を換算。リアルタイムに3Dモデリングに置き換えることができる技術を持つ。

LINXのカメラで撮影した物体は正確に3Dモデル化されるというわけだ。また、その正確性を担保するために、革新的な画像処理技術、光学技術、マルチアバーチャイメージング技術を搭載。画質の面でも、低照度性能、HDR、リフォーカス、色忠実度、シャッターラグといった高画質を実現するためのさまざまなパラメーターを持ち、高いレベルで物体そのものを忠実に3Dモデルとして再現する機能をもっている。

画質のクオリティにも高精度。左がiPhone5のカメラ、右がLINXのカメラ。色彩精度が違う
左がiPhon5、右がギャラクシー、中央がLINX。最も物体を正確に表現できる
暗闇における精度も高い。左がiPhon5、右がLINX
3Dスキャニング機能では物体の距離、深度を正確に測定。
前方が赤く、奥が水色
高精細な色と正確なサイズを再現

アップルTV、アップルウォッチ、マックなどと連携の可能性も

上記で述べたとおり、このLINXのカメラは物体の深度、サイズ、形状、色、光の明暗の調節、など野外や屋内問わず正確に再現する機能をもっている。このカメラ技術と、既に二年前に買収したプライムセンスの3Dセンサー技術によって、より忠実な3Dモデル化が可能になるというわけだ。

このアップルが進める3Dスキャニング技術は多くの分野で利用が期待される。iPhoneやiPadにこのカメラが搭載されれば、撮影した物体を正確に3Dモデリング化することができるし、同時にアップルテレビや、マック、アップルウォッチなどで3Dデータを開けば、ジェスチャーコントロールで3Dモデルを操作・編集することが可能になるかもしれない。気になるデザインや物体をすぐさまスキャニングし、その場でシームレスに編集、3Dプリントすることももはや夢では無い。

まとめ クリエイティブな製品が生まれる環境を促進

アップルの製品はそれ自体がクリエイティブなものであったが、同時にそれを使用する人々にさまざまなクリエイティブな力を与えるものであった。iMacはデザイナーにとって必須のパソコンだし、iPhoneやiPadは多くのアプリケーションを生み、写真や動画はインターネットを介して新たな価値を生み出してきた。

このクリエイティブを促進するアップルの製品は、今回ご紹介した3Dスキャニングカメラでますます創造的な物を生み出す環境を提供するだろう。正確にリアルな物体をデジタル化し、それを元にアイデアが付加されたものが、再度別のモノとして作り上げられる。

このカメラがiPhoneやiPadに正式に搭載されることで、そんな行動が当たり前のようになるだろう。それは多くのアイデアをカタチにする動きを促進し、人に価値を与える製品を世の中に生み出す環境を整えるといっても過言ではない。もちろん、簡単に世の中にある製品がスキャン、複製されることで、同じようなモノやゴミのようなモノが蔓延する可能性があるかも知れない。

しかし同時に、真に時代にあった、多くの人々のニーズを満たす製品を生み出す可能性を高めてくれることにもなるだろう。

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