挙国一致で3Dプリント技術向上に取り組むアメリカ
アメリカは3Dプリント市場において世界最大の市場規模を誇っている。
国家規模で3Dプリント技術に投資するだけではなく、政府、3Dプリンターメーカー、研究機関、製造業が一体となって自国製造業の勃興に躍起になっている感がある。
昨年アメリカは3Dプリント製造を研究する専門研究所、国立アディティブマニュファクチャリングイノベーション研究所、通称NAMIIを作り、製造業における3Dプリント技術の導入と向上を図っている模様だ。
このNAMIIはアメリカの主力企業ともいえるボーイング、GE、をはじめ2大3Dプリンターである3Dsystemsとストラタシス、NASA、などアメリカの経済力を牽引する主要産業が参画している。
昨年以降、NAMIIに参画する企業と研究機関が様々な3Dプリント技術の研究開発をおこなってきたが、その中から今回新たに15のプロジェクトの受賞が発表された。受賞された15プロジェクトには累計で1930万ドルの資金が投資することになる。
3Dプリント研究で投資される15プロジェクト
今回投資が決定した15のプロジェクトを推進するにあたり31社のアメリカの製造業が参画している。
この31社はプロジェクトの内容によって3つのメンバーに分類されており、プレミアムメンバーが4社、ゴールドメンバーが15社、シルバーメンバーが12社という形になる。
プレミアムメンバーはリーダー的存在の企業で、ゴールドメンバーがフルでプロジェクトを推進する企業、シルバーメンバーはサポート的な役割を果たすという。
投資される1930万ドルの資金は1030万ドルはこうしたメンバーたちを連携させマッチングさせるための資金として、残り900万ドルはプロジェクト自体の研究・運営コストとして使用される内容だ。下記がアメリカが注力する15プロジェクト。
1. 航空宇宙部品のレーザー粉末床生産のための品質保証(IPQA)
- リーダー:GEアビエーション
- 協力企業:ロケットダイン社、B6シグマ社、Burke E. Porter Machinery社、Honeywell Aerospace社、モンタナ大学、TechSolve社
- 内容:現在の産業技術では不可能な、航空機部品の大量な3Dプリント製造を可能にする研究。そのために複数の3Dプリンターと複数の超合金を取り入れる必要がある
2. 3Dプリントによる細胞構造の設計を可能にする形態最適化ツールの開発
- リーダー:ピッツバーグ大学
- 協力企業:Acutec Precision Machining 社、Alcoa社、 ANSYS社、ExOne社
- 内容:3Dプリント構造に最適なソフトウェアの開発を行う。有限要素解析(FEA)中の細胞構造の効果的な挙動を捕捉するためのマイクロメカニクスモデルの利用。このプロジェクトの結果は、複数の商業部門に影響を与え、軽量かつ丈夫な部品の設計と製造が可能になる
3. 医療用生体吸収性金属合金から生物医学装置を3Dプリントする研究
- リーダー:ピッツバーグ大学 再生医療のためのMcGowan協会
- 協力企業:ExOne社、 Magnesium Elektron Powders社
- 内容:骨プレート、気管ステント、足場材料といった製造にマグネシウム及び鉄系合金を導入する3Dプリント研究開発。生体適合性、生体再吸収、および機械的試験を実施
4. 非破壊検査(NDI)を向上させる、3Dプリント材料の微細化微細構造の研究
- リーダー:EWI
- 協力企業:ロッキード・マーチン、Sciaky社
- 内容:高性能航空宇宙のアプリケーション用のチタン合金部品の超音波検査の能力向上
5. 3D金属粉末プリントのゆがみ予測と補正方法の研究
- リーダー:GEグローバル·リサーチ
- 協力企業:3DSim社、CDI社、ハネウェルエアロスペース、パンティングLLC、ペンシルベニア州立大学、ユナイテッド·テクノロジーズリサーチセンター、ルイビル大学
- 内容:3D金属粉末プリンターヘッドの物理ベースの熱変形予測と軽減ツールの研究開発。これにより金属粉末を利用した3Dプリントのミスを削減する
6. 低コストレンズ®Engineの開発
- リーダー:Optomec
- 協力企業:ロッキードマーチンミサイル&ファイアーコントロール、MachMotion、TechSolve社、米軍ベネット研究所
- 内容:費用対効果の高いレンズの開発。事実上すべての現代の工作機械にインストールすることができる金属レーザー蒸着用
7. チタン合金Ti-6AL-4VとIN718超合金の沈着パラメータのナレッジベースの開発
- リーダー:Optomec
- 協力企業:Optimization社
- 内容:欠陥のない堆積を行うためのプロセスパラメータを定義する効率的で再利用可能なソリューションを提供
8. 3D金属プリントの許容誤差と表面仕上げの自動終了の研究
- リーダー:ノースカロライナ州立大学
- 協力企業:CalRAM社;·サーマル·プロト社、アイオワ州立大学、FineLine Prototyping社
- 内容:3Dプリントで最終的な幾何学的な仕様に機械的な製品を生産できるようにするシステムを作成すること
9. チタン合金Ti-6AL-4Vの電子ビーム溶融デモンストレーションと開発
- リーダー:ノースロップ·グラマン社
- 協力企業:CalRAM社、Concurrent Technologies 社、GE、Robert C. Byrd研究所
- 内容: Ti-6AL-4Vチタン合金部品のフルスケール電子ビーム溶融デモンストレーション
10. 航空宇宙用途のための3Dプリント多機能化
- リーダー:テキサス大学-エルパソ
- 協力企業:ロッキード·マーチン、ストラタシス、ノースロップ·グラマン社、rp+m社、ニューメキシコ大学、ヤングズタウン州立大学
- 内容: 熱可塑性プラスチック/金属の多種多様な押し出し、2)マイクロマシニング、3)レーザーアブレーションなど、消費者ウェアラブルエレクトロニクス、バイオメディカルデバイス、および防衛、宇宙、エネルギーシステムのような多機能製品を提供するための研究
11. 金属の合金およびラピッドプロトタイピングのための新しい超低コスト3D溶接印刷プラットフォームの生産
- リーダー:ミシガン工科大学
- 協力企業:アレフオブジェクト、ASMインターナショナル、ミラー/ ITW社、ThermoAnalytics社、ティムケン社
- 内容:超低コストの3D金属プリンターを商品化し、そのために新しい3Dプリント可能な合金を開発すること
12. アメリカの鋳物産業における3Dプリントテクノロジーの加速
- リーダー:Youngstown Business Incubator (YBI)Led
- 協力企業:アメリカの鋳造協会、ExOne、Humtown、ジャニー·キャピタル·マーケッツ、ノーザン·アイオワ大学、ヤングスタウン州立大学
- 内容:増加バインダージェット機の使用へのアクセスおよび設計ガイドラインとプロセス仕様の開発
13. 金属3Dプリントのための結果を処理するためにパウダーのプロパティの関連付けデータベース
- リーダー:カーネギーメロン大学
- 協力企業:CalRAM社、カーペンター·パウダー·プロダクツ、サーマル·プロトタイピング社、AMETEKスペシャルティ金属製品、など
- 内容:粉末のび、焼結する粉末の能力、溶融物プールの形状、微細構造を処理といった金属粉末の特性のデータベース
14. レーザー熱線法を用いた高機能ハイスループット材料の堆積
- リーダー:ケースウエスタンリザーブ大学
- 協力企業:Aquilexコーポレート·テクノロジー·センター、リンカーン·エレクトリック·カンパニー、RP + m社、RTIインターナショナル金属
- 内容:ハイスループット機能材料堆積アプリケーションのための評価
15. 産業アディティブマニュファクチャリングのための並列連結方式の最適化
- リーダー:ストーニークリークラボ
- 協力企業:ミシガン州経済開発公社、MSC、オークランド大学、レイセオンミサイルシステム
- 内容:多くの点で粉末を統合する並列連結方式の最適化の研究
まとめ
かなり専門的な分野で概要だけではよくわからない部分も多いが、医療、バイオ、航空宇宙、と多岐にわたっていることがわかる。
また同時に新たな3Dプリントの製造方法や従来にはない材料研究、金属粉末の更なる利用拡大と、総合的に3Dプリント技術の向上を目的としたプロジェクトだ。
アメリカは二大3Dプリンターメーカーをはじめ、GE、フォードといった主力産業が3Dプリント技術の研究と利用で20年近い歴史を持っている。
さらにここにきて、政府、研究機関等が一致団結して新たな技術開発になりだした感がある。特に欧米や中国、アジアの新興国では必要とあればダイレクトに資金を投資するという方法をとっており、企業が単独で研究開発を行うよりもはるかに早く、効率的に開発が進むケースが多い。
官民一体の取組は欧米では当たり前の動きであり、政府はその場合、資金提供という一番重要な役割を果たしている。
こうした動きで海外諸国が自国産業の構造を変革し、競争力を高めようとしている中、今後の政府の役割も従来とは違う役割を求められているのかもしれない。
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