クラウドコミュニティが主導するアフター・インターネット時代の製品開発

これまでの製品開発の方法とは

インターネットの普及とモノのデジタル化は製品開発のプロセスを大きく変更しようとしている。これまでの製品開発は、段階的にトップダウンに行われるのが当たり前であった。たとえば、一定の販売量を見込んだ上で市場調査を行い、市場の大半を占める声にあった形で製品のコンセプトを作る。

そのコンセプトのもと、製品のデザインや機能性に落とし込み、具体的な形にするという方法だ。その後はプロトタイプを試作し試行錯誤を経たうえ、最終品が確定すれば生産に入る。こうした一連の流れは通常、製品企画部やマーケティング部などの部署が旗を振り、そこから開発部門や技術部門、生産部門に落とし込みがされる。

この方法の特徴は一見すると多数の人間が参加しているように思えるが、製品開発の主要な部分、「その製品が誰のどんなためのモノで、どんな価値を提供することができるか」という部分はほんのひと握りの人間が行うことになる。ここで述べているのはあくまでも一典型に過ぎないが、大量生産体制を取るこれまでのメーカーでは、ほぼこのような流れが当てはまる。

このようにトップダウンで行われる製品開発は、基本的に各部門間は縦割りで、円滑なコミュニケーションがあるかどうかは疑わしい。いわばピラミッド体制ということができる。

天才がいないと機能しないピラミッド型製品開発

このピラミッド型の製品開発のいい点は、製品開発の核となる部分、いわばコンセプトづくりやブランディングという部分に優れた人間が登場すれば大きな力を発揮することになる。アップルやダイソンなどがその代表的企業だといえる。このピラミッド型の製品開発を完全に機能させるためには、本当に人が価値を感じる製品コンセプトの確立と、そこに機能性やデザイン、エンジニアリングを強引なまでに合わせる豪腕さが求められる。

たとえば、「このコンセプトのもと、今回の製品はこのデザインや機能が必要だ」と決定したとしても、技術部門や生産部門からはさまざまな理由で「できない」「不可能」という返答が返ってくるケースが多い。「技術的にこういう理由でできません」そこにはいかにも尤もらしい意見が添えられて返ってくるが、このピラミッド型の製品開発の最もダメな部分がこの点だ。

スティーブジョブズは、iPadの薄さを技術部に求めた際、自分が求める薄さよりも分厚い試作が上がってきた瞬間、そのプロトタイプを水槽に放り投げ「お前が出来ないと決めるな」と言い放ったという。そこには技術部からの技術的に不可能という返答を全く受け付けない、豪腕さが伺える。ピラミッド型の製品開発が正しく機能するには、すなわち多くの人々に「売れる」製品を作るためにはこうした才能が求められる。結局技術部はジョブズが求める薄さにすることができたわけなのだから。

衆愚政治に陥りやすいピラミッド型製品開発

一方、こうした才能がない、少数の製品企画チームがiPadの開発を行ったとしたらどうなるだろうか。おそらく各部門から来るさまざまな理由(技術的、生産の現場、営業の意見、対人関係、協力企業との関係など)で完成する製品は大きく異なるだろう。しかし考えてみて欲しい、本来、製品開発は顧客となるエンドユーザーが本当に欲しがるものを作るべきなのに、ユーザーに何ら関係がない社内や社外の意見によって製品が左右されるわけだ。

これがピラミッド型の製品開発の最大の悪癖で、現在、多くの日本の家電メーカーが、市場で主体的な地位を占められず、ユーザーが本当に価値を感じられる製品が作られない理由は、ほぼ100パーセントこの悪癖に起因するだろう。本来崇高であるべきはずの製品開発を馴れ合いや単なる日常の「仕事」として行っている最悪の事例だ。

アフター・インターネット時代に対応できない日本メーカー

かつてインターネットがここまで普及せず、一つの製品の種類も限定的であった時代であれば、ひと握りの天才がいなくても衆愚制による製品開発でも弊害は見られなかった。しかし、AI(アフター・インターネット)の今の時代においては、もはやこれまでの製品開発で市場の動きを捉えることは不可能だ。

海外製の多くの製品が入り込み、国内からだけではなく、ネットで海外から直接製品を購入できる。また安価なプライベートブランドが登場し、右も左も同じような製品ばかりであれば人は安いものを購入するのが当然だ。このような状況になってしまっては、市場のマーケティング調査などは全く意味を成さず、一定の不特定多数を想定したこれまでどおりの製品開発では対応することは不可能に近い。

他社よりも解像度が高い、液晶が綺麗、そんな技術的な一部分を競ってもなんの差別性もない。こうした状況の中、海外の企業では全く異なる製品開発のアプローチを初めて来ている。それはひと握りの天才を必要としない、インターネットとデジタル技術にベースを置いた新たなコミュニティの製品開発だ。

デジタルとインターネットをベースにした新たな製品開発とは

以前もご紹介したが、ゼネラルエレクトロニクス、通称GEが自社で製造するジェットエンジンのブラケットの技術データを、3DエンジニアリングのオンラインコミュニティGrabCADに公開した。GrabCADは度々ご紹介したが、全世界からエンジニアやデザイナーが参加するオンラインコミュニティ。

今ではその登録者数は200万人を超える。このGEの取組では、結局全世界56カ国から700以上ものデザイン案が投稿され、審査の結果インドネシアのエンジニアのデザイン案が採用されることとなった。この改良の方法のメリットはさまざまな部分があるが、第一に最も優れたアイデアを採用しやすくなる。単純に10人の技術部からアイデアを生み出すよりも、700以上ものアイデアから生み出すほうが、優れたものの確率が高くなる。

第二に改良するスピードが圧倒的に早くなる。これも数の原理でいえることだが、一定条件のもと、不特定多数の世界中の優れた技術者が同時並行で考えたほうが圧倒的に早い。第三にコストが従来の方法に比べ圧倒的に安くなる。全て3次元のデジタルデータをベースに行われるため、選定された優秀なデザインを3Dプリンターで製造し作り上げるという工程で済むからだ。

巨大なオンラインコミュニティの登場

この手法は、デジタルデータから作り出すことができる製品ではあらゆるモノに対応することができるだろう。GrabCADは3Dプリンターのグローバルリーダー、ストラタシスに買収されたが、コミュニティの会員は50万人も増加、今では200万人を抱える巨大コミュニティに成長している。

そして、この巨大コミュニティを背景にした製品開発や製品改良が既に他の分野でも開始されているのだ。たとえば今や世界中の企業や研究機関、大学が注力する小型人工衛星CubeSat(キューブサット)の開発にGrabCADのコミュニティが利用されている。

CubeSatは、従来の巨大な人口衛星とは異なり、圧倒的に費用が安く1999年にスタンフォード大学が開発したもの。大きさは数種類あり、1Uのものでわずか10×10×10 cmサイズ(重量1.33kg以下)と超小型。2003年の打ち上げ以来、各国で開発に力が注がれている。今回ストラタシスとGrabCADに開発を依頼しているのはAmerica MakesとNASA。このデザインチャレンジで入賞したデザイナーには賞金とMakerBotの3Dプリンターなどが受賞される。

小型の人口衛星CubeSat
オンラインコミュニティGrabCADのデザインチャレンジ

デジタルに基盤をおくクラウドコミュニティの製品開発が続々登場

オンラインコミュニティによる製品開発の動きは前述のGrabCADだけではない。たとえば3Dデザインソフトの最大手オートデスクが提供するフュージョン360は3Dソフトウェアの範疇を超える展開を見せ始めている。フュージョン360はクラウド上で3Dデザインが行えるクラウドサービスだが、設計データをオンライン上で共有するだけではなく、オンラインコミュニティまでも設けられはじめている。

このクラウドベースのモデリングソフトでは、これまでのようにデータをメールで送る必要もなく、クラウド上で共有しながら改良することができる。

一方、度々ご紹介しているが、ローカルモーターズなどのように自動車に特化した3Dデザインコミュニティもこのようなインターネットとデジタルに基盤をおいて製品開発を行う新たなメーカーといってもいいだろう。各地域に独自開発をした巨大プリンターでコミュニティが作り出す電気自動車を生産する準備を行っている。

また、先日ご紹介したエレクトロニクス製品をオープンソースに投稿するコミュニティAdafruitも同じようにデジタルに基盤をおいて拡大を続けている。

多様性とスピード

これまで述べてきたように、続々とインターネットを通じてその分野に精通する人材を集め、グローバルワイドに展開するコミュニティの製品開発はどのような効果を生むのだろうか。彼らに共通するのは、どのコミュニティも製品開発のスピードが極端に早く、さまざまなタイプの製品が存在するということが挙げられる。

これはコミュニティがインターネットを通じて国境を越えてつながるため、さまざまな国や文化など多様なバックグランドをもつ人材が集まることに起因する。そのため、あらゆる視点が製品開発に反映され、優れた製品が生まれる環境が醸成されていると言えるだろう。こうした多様性が多角化するエンドユーザーの嗜好に対応することができ、同時にユーザーの変化のスピードにも対応することに繋がるのだと思われる。

まとめ 時代との適合性とブランドの重要さ

オンラインコミュニティによる製品開発は、まさにインターネットとデジタルが中心となる時代の申し子だといえよう。これまでどおりの大量生産大量消費を想定した製品開発の方法や組織体制、運営方法では、多様化するエンドユーザーの嗜好にマッチさせることが難しいだろう。

しかし、その一方で、オンラインコミュニティが行う製品開発にも弱点が存在する。確かに、さまざまな多様性を併せ持ち、同時に凄まじいスピードで改良していく機能を持っているが、ひとりのカリスマが生み出す巨大な「ブランド力」を持つ製品を作ることはできない。

圧倒的なカリスマと、強引なまでの実行力で組織を支配し、人間の欲求を熟知し、そこを最大限刺激することができる「印象」作りは、ひとりの独裁的な人間から生み出されるものだ。決してオープンのコミュニティから「ブランド」は生み出されることがないだろう。

時代にあった形に製品開発の方法を適合させることも必要だが、同時に人々の意識を刺激し、いかに製品を「印象」づけるかというブランドはどの時代にも変わることがない重要な課題だと言える。

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