Adafruitから見るエレクトロニクス製品のオープンソース化がもたらすもの

3DプリントとエレクトロニクスDIYの広がり

3Dプリンターの商用利用は現段階ではエンドユーザー向けの最終品を作る部分までに至っていない。エンドユーザーが使用し価値を感じるモノに仕上げるためには、3Dプリンターで作ったあとも、塗装や研磨などの後加工が必要になる。そうした後加工にはそれ相応の設備と技術力が必要であることから、誰もが手軽に利用できるものではない。

このように見てみると、現段階での3Dプリントの利用範囲は、従来どおりのプロトタイプの製造が主流だと言えるだろう。しかし、プロトタイプの製造ですら、これまで多くの起業家や製品開発者は膨大な時間とコストを費やしてきたことを思い合わせれば画期的とも言える。

またこうしたプロトタイプの開発における3Dプリンターの利用は、DIY、電子工作などの分野に目を向けると新たな広がりを見せている。たとえば、これまでの電子工作などは、電子回路などのマザーボードがむき出しの状態でしか完成させることができなかったが、3Dプリンターを使用することでその外側をおおう筐体を手軽に作ることができる。

これは従来の金型などを用いて作るのに比べて圧倒的な低コストで作ることが可能だ。本日はこうした電子工作やエレクトロニクスと3Dプリントをつかった新たな取組を行う企業Adafruitをご紹介しよう。2005年にMITのエンジニアLimor “Ladyadaによって設立されたこの企業では3Dプリントとエレクトロニクスをつかったさまざまなプロダクトが登場している。

パーツや3Dデータ、設計図、ソフトウェアが全てオープンソース

Adafruitは、今ではニューヨークに15000平方フィートと50人以上の従業員を抱える程の企業に成長している。また創業したLimorはWIREDで初の女性エンジニアとして表紙を飾った。Adafruitでは、ラズベリーパイやアルドゥイーノといった最新のハードウェアや、各種センサーなどの電子部品、またそれをつかって組み立てるDIYキット、はんだごてなど、エレクトロニクス関連のさまざまな製品の販売を行っている。

またそれと同時に、注目すべきなのが、多くのエンジニアたちが開発したさまざまなプロダクトが投稿されている点だ。全てのプロダクトが必要なパーツや材料、作り方などが全てオープンに公開されている。Adafruitの参加者はそのオープンにされた設計図を元に、自由にパーツを購入し、あるいは筐体の3Dデータをダウンロードし組み立てたり改良したりすることができる。

一言で言うならば、オープンソースのエレクトロニクス製品の巨大コミュニティだといえよう。それでは具体的にAdafruitに投稿されているエレクトロニクス製品をご紹介しよう。

アップルウォッチのワイヤレス充電器

アップルウォッチが登場し、新たなるウェアラブルデバイスとして登場しているが、早くもAdafruitにはアップルウォッチのためのワイヤレス充電器が登場している。投稿したのはルイス・ブラザーズという兄弟。PowerBoost 1000Cというバッテリー充電回路を使用し、外側の筐体は3Dプリントして作るというものだ。

PowerBoost 1000Cやそのほかのパーツは全て、Adafruitで購入することができる。また筐体の3DデータはMakerBotの無料3DデータダウンロードサイトThingiverseで入手することができる。このアップルウォッチのワイヤレス充電器が欲しい人は、必要な機械と組み立てるスキルさえあれば全て自分で作ることができるというわけだ。

また組み立て方などのチュートリアルはYoutubeで無料で見ることができる。サイト訪問者は全て作り方を無料で知ることができる。

ワイヤレスバッテリーの組み立てYoutubeのチュートリアルビデオ

アップルウォッチのワイヤレス充電器
部品や組み立て方は全てオープン

ラズベリーパイとはんだ付けで作るポータブルゲーム機PiGRRL

もう一つ、同じようなエレクトロニクス製品をご紹介すると、ラズベリーパイをつかったポーターブルゲーム機PiGRRLなどがある。かつての任天堂ゲームボーイを彷彿とさせるゲーム機だが、このPiGRRLも3Dプリンターとラズベリーパイを使うことで自作することが可能だ。

使用するラズベリーパイはラズベリーパイA +で、PiTFTタッチディスプレイ、ボタン、スピーカー、Powerboost 1000Cなどのパーツを使用して組み立てる。もちろん筐体の3Dデータは、前述のアップルウォッチ充電器と同様、Thingiverseで無料ダウンロード可能だ。また、このPiGRRLの場合はソフトウェアやゲームのアプリケーションなども全て無料で入手することができる。

一点、こちらのPiGRRLを組み立てる場合には、糸はんだはんだ付けをする必要があり、そのへんのスキルが多少求められる。

PiGRRLのYoutube組み立てチュートリアルビデオ

ポータブルゲーム機
回路図もオープン
もちろんパーツも

まとめ エレクトロニクス製品のオープンソース化がもたらすもの

このAdafruitに投稿されているエレクトロニクス製品は全てオープンソースだ。筐体の3Dデータ、ハードウェアの設計図、ソフトウェアアプリケーション、組み立て方、何から何までオープンに公開されている。作りたい人は必要な道具を揃え、パーツをAdafruitから購入すればチュートリアルに従って全て自作することが可能だ。

また応用技術に精通すればそれを独自に改良することができる。製品の機能を発揮する電子回路やソフトウェアアプリケーション、そして製品の形状をかたちづくり筐体など、電子機器を構成するためのあらゆる要素が全てデジタル化されることは、必然的にインターネットを介してオープンになることを意味する。

これによって製品開発のスピードが飛躍的に高まるし、オープンになることによってインターネットコミュニティに参加するさまざまな人の意見が反映される事になる。しかし、このエレクトロニクス製品に代表されるようものづくりのオープンソース化はどのようなことをもたらすのだろうか。

材料やパーツなどは簡単に手に入り、外側の筐体は3Dデータで簡単に出力することができる。これによってこれまで当たり前のように製造販売されていた製品は、極端な表現を使えば一気に価値が低下するということが言えるだろう。一概に全ての製品に言えるわけではないが、ものづくりがデジタル化されることによって、ある部分では、これまでどおりの一企業の部署間による連携、トップダウン形式のものづくりは立ち行かなくなるに違いない。

そのような手順を踏んで行う製品開発よりも、全てオープンに公開されコミュニティのちからによって進化する製品開発のほうがはるかにスピードが早く、多角的な展開ができる。また、同時にコミュニティが柔軟に改良し即座にアウトプットできるスタイルは、嗜好が多角化するエンドユーザーの細かい要望にも応えることが可能だ。これまでのように、一定量の販売量を見込んだ製品開発と生産体制は時代にそぐわなくなるに違いない。

製品を作るコストがこれまでよりも格段に安くなれば、その分だけ簡単にものが生み出されるが、すぐ別の新たなモノにとって変わられる可能性が高くなる。そのような想像もできないスピードのサイクルで製品開発が回った場合、一定量を見込んで製品開発の計画を練ったとしても、ユーザーや時代の変化が早すぎれば、販売した時には既に別の新たな製品が主流になっているという危険性もある。

何が言いたいかというと、何を作るかということも大切だが、ものづくりのやり方を、時代にあった方法に適応させないと全てがうまくいかなくなる可能性があるということなのだ。全て時代の変化において消えていったものや事業は、「やり方」をその時代に合致できなかったものにほかならない。このAdafruitで起きていることを見ると、ものづくりのやり方の変化の重要性が読み取れる気がする。

電子機器のクオリティを左右する、はんだの重要性についてはこちらをどうぞ

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。