進む3Dプリンターの役割の変化
3Dプリンターは、金型とは全く正反対のテクノロジーとして考えられている。
金型=量産、3Dプリンター=単品生産という概念が一般的な考えだろう。しかしこの概念を壊す研究開発が着々と進行しているようだ。
それは3Dプリンターで一度に大量の商品、パーツを生産しようという開発。
その既成概念を壊す取組を行う企業は3Dプリンターのリーディングカンパニーとして有名な3Dsystemsだ。
以前もご紹介したが、3DsystemsはGoogleと組むことで1個1個カスタマイズされたベルトコンベア式の量産機器を生産中の状況。
しかし、今回発表された開発に関する報告では、新たに手掛けるベルトコンベア式ではなく、従来からあるSLA光造形方式による3Dプリンターでの発表だ。
本日は3Dsystemsの射出成型による量産よりも3Dプリント生産が速いという実例と発表をご紹介します。
巨人3Dsystems
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射出成型と3Dプリンターの比較 ‐コストと時間‐
射出成型はプラスチック製品の量産に使用される最も一般的な製法だろう。
非常に簡単に言うと、二つの金型の間に熱で溶かした樹脂を流し込みパーツを成形する方法だ。その最大の特長はやはり大量生産に向いているということがあげられる。
金型を製作するコストはかかるが、一度金型を作ってしまえば大量に生産すればするほど1個あたりの単価が安く抑えられることが特長。この金型を使った射出成型と3Dプリンターは、製造コストとして常に真逆にとらえられるのが一般的だ。
下記は単価と数量による射出成型と3Dプリンターの比較表。
射出成型と3Dプリンターの製造コスト比較表
上記のグラフからもわかるとおり、数量によって、射出成型と3Dプリンターどちらで生産するか最適かがわかる。
生産数が多いほど金型による射出成型が適しているが、3Dプリンターは1個当たりのコストは変化がない。また生産コスト以外に、製造にかかる時間、リードタイムという側面がある。
3Dプリンターは1個当たりの物体を作るのにもこれまでの生成スピードはかなりの時間がかかっていた。そのため機種にもよるが1台の3Dプリンターで何個も製造するには相当数の時間がかかると考えられている。
1台で2400個のパーツを20時間で生産
まさに現代の大量生産体制の象徴ともいえる射出成型方式だが、今回3Dsystemsが発表した開発中のSLA方式の3Dプリンターはこの概念を崩すものだ。
一言でいうと3Dプリンターで複数個のパーツを量産しようという試みになる。
この開発で3Dsystemsが実例として公開しているのが、小型ランプシェードの生産。下記の動画では、1個の光造形の3Dプリンターで2400個の小型ランプシェードを作れることを公開している興味深い動画だ。
この2400個の生産に要する時間は20時間で、1個当たりの生産時間に換算すると30秒で作られる。
ちなみに3Dプリンターであることから、射出成型用の金型を製作する必要はないし、まさにカスタマイズされたパーツの高速大量生産を可能にする開発だ。
因みに、光造形はもともと3Dsystemsの創業者であるチャック・ハル氏が開発し特許を取得した技術。熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂やアクリル樹脂をベースにした紫外線硬化性樹脂を使い、紫外線を照射することで固める技術。最近では開発が進み、ポリウレタンなどのゴムライクの材料も登場してきている。
今回量産された2400個の小型ランプシェード
3Dsystemsはリードタイムも射出成型を3Dプリンターが上回るとしている
まとめ 3Dプリンターの製造業における役割の変化
3Dsystemsの開発に見られるとおり、3Dプリンターの製造業における役割が変化してきている。
はじめは試作品製造のための工作機器、2014年に入ってからは、最終品の単品カスタマイズ生産に使用される機器、そして2014年以降は、カスタマイズ性と量産性を併せ持った新たな大量生産用マシーンとしての役割だ。
今回の開発に際して3DsystemsのCMOキャシー・ルイス氏は下記のように語っている。
「私たちのゆるぎないコミットメントは、これまで、3Dプリンターができなかった射出成型の生産性という神話を破ることに成功しました。これは始まりにすぎません。
私たちは、お客様の製品開発のアイデアが、数時間で製品におとしこめる方法を確立するアプリケーションに取り組んでいます。これは伝統的な(金型による)製造上の制約を超えたものです。これは本当の意味で未来の製造です」(筆者意訳)
3Dプリンターの生産スピードの研究開発は、世界中で取り組まれている研究課題だ。
今年登場した多くの機種が過去の造形スピードを大幅に上回っている。3Dsystemsのこの研究開発を皮切りに、多くの3Dプリント技術が発展すれば、商品開発やデザインの現場が更に幅が広がり、大きな役割を担うことになる。
製造に関する技術的な変化は製造業の中におけるさまざまな分野に影響を与えそうだ。
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