デスクトップモデルで扱えるプロ用フィラメントの開発
FDM(熱溶解積層法)の材料である3Dプリンター用フィラメントが密かな進化を遂げつつある。現在FDM用の3Dプリンター用フィラメントは、これまで定番であったABS樹脂やPLA樹脂に加え、さまざまな新素材が登場してきている。
ポリエステルや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)など、従来の金型で使用可能であったさまざまな熱可塑性樹脂が対応しつつある。
また、炭素繊維やガラス繊維など強化素材を配合したコンポジット素材の開発や、金属や木材、竹など異なる質感を再現した素材など、バリエーションの拡大は目覚しいものがある。そのため最近のフィラメント開発の中心は、素材バリエーションの多角化が中心であったが、全く異なるアプローチから3Dプリンター用フィラメントを開発しようという動きが登場している。
本日ご紹介するプロフェッショナル用3DプリンターフィラメントPRO1は、その名前のとおり、安価なデスクトップモデルで、プロフェッショナルレベルの造形が可能になる3Dプリンター用フィラメントだ。
これまでのABS樹脂やPLA樹脂のフィラメントよりもはるかに堅牢で、耐久性がある造形が可能な他、30パーセントから最大80パーセントまでプリント時間を短縮することが出来る。本日は、3Dプリントフィラメント開発で25年の経験を持つオランダのメーカーInnofil3Dとプロ用フィラメント素材PRO1をご紹介しよう。

PRO1が目指すスタンダード。デスクトップモデルで高性能パーツを
今回この革新的な3Dプリンター用フィラメントを開発したのは、オランダでポリマー開発とフィラメント開発の分野で25年の歴史を持つInnofil3Dである。Innofil3Dは自社で研究開発と生産を行っており、プラスチックの国際規格であるISO178(プラスチックの曲げ特性)、ISO179(プラスチックの耐衝撃性)、ISO527(プラスチックの引張特性)も取得している。
既にABS樹脂、PLA樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)に加えて、ゴム状のフレックス素材(熱可塑性コポリエステルエラストマーTPCベース)であるInnoflexシリーズや、リサイクルシリーズのフィラメントも発売している。
今回新たに登場したPRO1は、そんな3Dプリンター用フィラメント開発で長年の実績と経験を持つInnofil3Dの新たな挑戦だといえよう。実際、特許失効によって普及が加速したFDM(熱溶解積層法)のデスクトップ3Dプリンターだが、従来からのハイエンドなFDM(熱溶解積層法)に比べて、造形精度、プリントスピード、どの部分をとってみても、ハイエンドモデルに勝ることはない。
ある意味、このInnofil3DのPRO1は、デスクトップタイプの性能を、フィラメント材料の面から、FDM(熱溶解積層法)のスタンダードレベルにしようというものである。例えば、ストラタシスの高性能なFDM 3Dプリンターなどでは、最終品レベルで実際に使用することが出来る性能を誇るが、安価なデスクトップレベルのFDMでは、最終品レベルの造形は不可能である。
Innofil3Dは、PRO1によって、このハイエンドモデルの造形性能をデスクトップ3Dプリンターのスタンダードにすることを狙っている。
PRO1 3Dプリンター用フィラメント動画


プリント速度を30~80%高速化。高強度パーツの造形が可能に
それではPRO1の特長についてご紹介しよう。PRO1は上記で述べたとおり、デスクトップタイプの3Dプリンターで高品質、高速なプリントを可能にする性能を誇っているが、その最大の特長は高速性を実現したことにある。
取り扱うプリンターの種類や生成するオブジェクトの形状によって異なるが、これまでのABS樹脂やPLA樹脂のフィラメントに比べて、PRO1は30パーセントから最大80パーセントまでプリント時間を短縮することが出来る。また、耐久性や耐熱性に優れるABS樹脂を超える機械的特性を有し、高い強度と耐衝撃性を備えた素材となっている。
下記はPRO1のプリント性能を比較した図だが、プリント速度は毎秒120mmから150mmとなっており、高解像モードでも毎秒70mmの速度を誇る。また、引張り強度、曲げ強度においても同社のABS、PLA、PETの性能を凌ぎ(耐衝撃性についてはABSに劣る)高強度なパーツの造形がデスクトップレベルでも可能となる。




PRO1スペック
- カラー:ブラック、ナチュラル、シルバー
- フィラメント径:1.75mm、2.85mm
- 重さ:750g
- プリントスピード:120-150mm/秒(高速モード)、40-70mm/秒(通常モード)
- プリント温度:220℃±10℃(高性能モードは210℃±10℃)
- 強度:ABS樹脂を超える高強度
- 汎用性:優れた表面仕上げ
まとめ 今後さらに進む材料開発からのアプローチ
FDM(熱溶解積層法)の3Dプリンター用フィラメントの開発は、二つの方向性で発展を遂げつつある。第一が素材バリエーションによる多角化であり、第二がデスクトップ3Dプリンターの品質向上である。しかしその中でも第二の開発である高品質な造形という部分は、これからのFDM 3Dプリンターの価値と、ものづくりにとって大きな影響を与えるのではないだろうか。
もともとFDM(熱溶解積層法)の素材は、これまで多くの工業製品の材料のうち主流を占めていた熱可塑性樹脂をベースにしていることから、比較的バリエーションの展開はスムーズに進んできた。
しかし、根本的な課題として、造形レベルそのものが向上しない限り、3Dプリンターの役割は、従来からのモックアップ製造マシーンと何ら変わらず、ものづくりや製品開発に与えるインパクトも少ないのが実情である。しかし、デバイスそのものの性能向上はもちろんだが、同時に汎用材料そのもののクオリティが向上することは、大きな意味を持つ。
既にFDM(熱溶解積層法)の特許が2009年に切れて、7年ほどの年月が流れているが、多くのデスクトップモデルが世に登場しつつある。開発競争はますます進み、自社専用の材料だけではなく、こうした汎用材料に対応した安価な高性能モデルが登場するかもしれない。多様なバリエーションを誇るFDMの汎用フィラメントの開発は、さらに重要度をましそうだ。
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