低価格3Dプリンターの課題
ここ2年間の間における3Dプリンターの普及は爆発的であった。調査会社のウォーラース・アソシエイツが発表しているところでは、過去3年間の年間平均成長率は32.3%にのぼったと推計している。
さらに、今後5年間における年間成長率はこの数値をさらに上回るとされており、更なる市場拡大が見込まれることになる。
とりわけ3Dプリンターの販売に関する2013年度から2018年度の平均成長率は50.1%になると予測され、これから爆発的に普及すると思われる。
しかし、こうした3Dプリンターの普及には多くの課題が残されており、とりわけ低価格3Dプリンターの普及にはいくつかの課題をクリアすることが必須だ。
現在低価格3Dプリンターを使用されている方ならよくお分かりだと思うが、作られたものはとても、一般家庭で使用されるようなレベルではない。
まだまだプロダクトデザインを確認するためのモックアップの域を出ない状況だ。本日は低価格3Dプリンターが普及するにはクリアしなければならない4つの課題とその状況をご紹介。
価格
現在低価格3Dプリンターの価格はどの程度なのだろうか。
一般的に「低価格」とされているが、この低価格という言葉は、高性能タイプの3Dプリンターと比較した場合の低価格であり、一般消費者からしたら決して安くはないものだ。
最も広く普及しているといわれる低価格3DプリンターはMakerBotのReplicator2だが、価格は1,999ドル、約20万円程度の金額がする。
日本のヤマダ電機で販売されているものでは3DsystemsのCubeが1台160,000円、CubeXでは398,000円だ。
最近キックスターターに登場した超小型3Dプリンター「The Micro」は299ドル、約3万円と現状最安値だがまだ発売には至っていない。
また組み立て式のReprap3Dプリンターは大体5万円から7万円程度。
現状すべての低価格3Dプリンターの平均価格は13万円程度とも言われている。
価格のみで一般家庭への普及を論ずることはできないが、現状の造形クオリティや使い勝手から見ると、10万円程度ではまだまだ一般家庭への普及は望めないだろう。
少なくとも気軽に使用できて、最終品として少なからず使用できるレベルである必要があるのではないだろうか。
それによほど自分のみのオンリーワンにこだわったものが欲しくない限り、3Dプリンターを利用するメリットはそれほど感じられない。わざわざ手間をかけて3Dプリンターを使わなくても、ほとんどのモノが安くネットで購入することができるからだ。
1台20万円ほどのMakerBotのReplicator2

ヤマダ電機で16万円で販売されているCube

キックスターターに登場した超小型3DプリンターMicroは3万円程度

スピード
スピードは3Dプリンターの使用にとっては最も改良する必要があるポイントだ。特に一般家庭での使用を考えるのであれば、速くて正確なプリントは必須条件となるだろう。
ちなみに現在の低価格3Dプリンターの造形スピードはどの程度なのだろうか。
一倍いい例がMakerBotが販売しているデータで見ることができる。MakerBotは3Dプリンターを販売するだけではなく、自社のプリンターでミスプリントしない3Dデータの販売を行っているが、そこに正確なプリント時間を提示している。
例えば、MakeBotデジタルストアで販売されている文房具用トレイはプリント時間は25時間を要するとされている。
また、ティラノサウルスの標本も24時間ほど。母の日用の造花は約10時間だ。
3Dプリントに要する時間は物体のサイズや形状に影響を受けるため一概には言えないが、非常に長時間のプリントを要する。また現状の低価格3Dプリンターはミスプリントも多いため、長時間プリントしてみたらミスプリントだったということはいくらでもある。
そのため「速くて正確」なプリントは一般家庭向けでは絶対に必要だ。現在各社がこのプリントスピードの向上については取り組んでいる課題なのでこちらは精度がどんどん向上していくだろう。
MakerBotが販売する文具ケース、プリント時間は25時間ほど

同じくティラノサウルスの模型、こちらも24時間、ほぼ丸1日プリントが必要

花は10時間

MakerBotデジタルストアのミスプリントしないデータ販売の記事はこちら
- MakerBotが文房具の3Dプリントデータ販売をMakerBotデジタルストアで開始
- MakerBotデジタルストアはティラノサウルスの3Dプリント骨格標本をリリース
- MakerBotが母の日向けに花の3Dプリンター用データを販売開始
低価格3Dプリンターのスピード向上の記事はこちら
クオリティ
一般家庭向けの3Dプリンターにとって、もっとも重要なのはクオリティだろう。
現在流通している低価格3Dプリンターのクオリティははっきり言って試作品や模型レベルだ。元来がプロダクトデザインを量産前に確認するモックアップを作る目的で作られた製造機器であるため当たり前のことだが、一般家庭を対象とするとなると話は異なる。
極端な話、プリントされてすぐに使用できるレベルでなければわざわざ3Dプリンターを設置してまで使おうとは思わないのではないだろうか。
こうした低価格3Dプリンターのクオリティはレイヤーの層、いわば解像度で示されるが、一般的な低価格3Dプリンターはこの層の厚さが肉眼で視認できるレベルであるため、作られた物は段々の層が表面に現れてしまう。
これではいくらオリジナリティを出せるのが最大の特長とは言っても、市販の安い製品の方がクオリティもよく、使い勝手もいいと考えられる。
ましてや機械だけによって作られた、人の手が介入しない物は質感や雰囲気が無く、それだけでは使う気にもならないだろう。
こうしたクオリティの課題については、各社が解像度を高めるとともに、ソフトウェア上で質感を上げようという試みもある。
また、扱える素材やフルカラー対応という表現力のクオリティも必要だ。現在、低価格3Dプリンターでフルカラープリントを可能にする機器やマルチプリントを開発する動きがあるが、こうした表現の幅を拡大することも必要だ。
現状の低価格3Dプリンターの精度、積層が粗い

低価格3Dプリンターのクオリティを向上させる取組はこちら
- 低価格3Dプリンターの品質を飛躍的に高めるソフトウェア「Topolabs」
- 5倍の高解像度を実現したフルカラーマルチ素材の低価格3Dプリンター「AMAKER」
- MakerBot低価格3Dプリンターで異なる素材を複合プリントする技術を開発
操作性と汎用性
一般家庭で使用してもらうためには操作性の良さも重要になってくる。極端な話、二次元プリンターと同じように印刷ボタンを押せば、それで物が生成されるぐらいのレベルでなければならない。
また、ソフトウェアの汎用性も重要になる。現在の3Dプリンターは3Dデータに依存していることから、使用するには3DCADやそれに付随する専用ソフトウェアの知識も必要となる。
最近になって多くの無料3Dソフトが登場してきているが、それでも一般家庭での使用を考えたら簡単に扱える汎用性の高いソフトウェアが必要になるだろう。
まとめ
非常に大まかであるが、低価格3Dプリンターが広く普及するには上記の4つの課題をクリアする必要があるだろう。
かつてコンピューターがマッキントッシュやウィンドウズの開発で市民権を得たように、遅かれ早かれ3Dプリント技術も一部の専門企業や専門家のものから幅広い用途で使用が開始されるようになる。
しかしそのためには、徐々にではあるが、価格、スピード、品質、操作性という部分を向上させる必要がある。
もちろんこれ以外に、故障しないとか、保証対応とか、データの取り扱いなど、クリアにしなければならない課題は多いが、まずは品質向上と知識として広く普及させるということが必要なのだと考えられる。
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