特許切れによる3Dプリンター乱立の状況
昨今、次々と登場する3Dプリンター。大手のストラタシスや3Dsystemsは代表的な企業だが、新規で参入するベンチャー企業が後を絶たない。連日キックスターターなどのクラウドファンディングで名乗りを上げ、さまざまな機能を持つ新機種が次から次へと生まれてくる。こうした新規参入の背景には特許の期限切れが大きい。
ここ数年で、光造形、FDM(熱溶解積層法)、レーザー焼結と、主要な3Dプリンターの製法の特許がたて続けに開放されたためだ。これによって誰でも技術を利用することが可能になり、安価な低価格モデルや、そこに付加価値を加えた新製品を開発することができるようになった。
一見ややもすると3Dプリンターが多くの人々に開放され、技術の勃興期がはじまっているかのように見える。しかし本当にその通りなのだろうか。ここに興味深いデータがある。イギリスの知的財産庁(IPO)が発表した特許に関するデータだが、各企業別に3Dプリンターに関する特許件数と、取得年をプロットしたデータがある。
このデータはイギリス政府が急速に拡大する3Dプリント市場にむけて、本格的に特許、著作権関連に動くことを示した50ページにも上る文書だが、興味深い傾向がみられるのでご紹介する。
3Dプリント技術の最大の特許取得数は日本の富士通
下記の図は、各企業別の、年代別の特許件数の取得を円の大きさでプロットしたものである。イギリス知的財産庁によると、2013年までの全世界の3Dプリンターの特許件数は合計で9145件となり、何と、その最大の特許権者は日本の富士通になるとのこと。また、ひときわ目につくのが日本企業の多さだ。上記の富士通だけではなく、松下電器(現パナソニック)、NECと、日本の名だたるエレクトロニクス企業が続く。
しかし、その年代を見るとほとんどが80年代から90年代初頭にかけてであり、ほぼ特許切れになっている。ちなみに、上から順に、3Dsystems、ボーイング、Zコーポレーション(3Dsystemsにより買収)、富士通、LGフィリップス、松下電気、NEC、Objet(ストラタシスと合併)、サムスン電子、ストラタシスと続いているが、2000年以降、特許を取得しているのは、3Dsystems(ZCORP含む)、ストラタシス(Objet含む)、サムスン、LGの4強で、実は現在幅広く利用されている製法特許以外にまだ期限切れを迎えていない物が多数存在する。
具体的な内容は不明だが、とりわけ2000年から後半、2010年以降にかけての新規の特許取得が見られる。それに比べ、日本企業は90年代のピーク以降、申請回数がめだって少ないのが特徴的。とりわけ目立つのがストラタシスの申請数で、2012年には最大数の特許を取得しているようだ。
2012年は特許申請数最多、一歩先を行くグローバルリーダーたち
このことは、当たり前の話だが、3Dプリンター業界でTOPを走る企業たちは、さらに進んだ研究開発を行なっていることを示している。世界最大の3Dプリンターメーカー2社はともかく、韓国勢の躍進も目覚しい。
特許切れによる、有象無象のベンチャー企業の登場の陰に隠れ、既存のグローバルリーダーたちは、さらにその先の革新を興す研究開発を行なっているのに違いない。ある意味、今のメイカームーブメントはいい目くらましのようなものだろう。多くの低価格モデルが普及しつくした後で、更なる進化を遂げたモデルを市場に投下してくるだろう。
ちなみにイギリスの特許庁によると、2012年の3Dプリンターの特許申請数は700近くにも上り、過去最大の申請数を記録した。一つ一つの内容は不明だが、上記でご紹介したプロット図と、この申請数の推移をみれば、日本企業が3Dプリンター開発をやめた2000年以降、彼らは盛んにこの技術の開発に注力を続けてきたと言える。そしてその開発はさらに盛んになり、より圧倒的な地位を取得しようとしているのだ。
まとめ 日本は再びトップになれるか
今世界各国がこの新たな技術開発に国を挙げて打ち込んでいる。その動きは、もはや一企業レベルで行えるものではない、政府や研究機関、教育機関など、さまざまな立場の組織や人が一体となって技術革新を行っていると言えるだろう。例えばアメリカでは、国策として、政府肝いりの3Dプリント研究機関を設立している。上記でご紹介したストラタシスや3Dsystemsは当然のことながらこのメンバーだ。
またこのデータを公開したイギリスでは、財務省が中心となり一大3Dプリントセンターを建設中だ。中国も動きは見えないが、このあらたな技術開発に当然後れをとっているわけではない。シンガポールは自国の地政学的立地条件と組立工業という特質から、サプライチェーンに甚大な影響を与えるこの技術に必死に注力している。
こうした動きがある中、一方ではクラウド上における企業間プラットフォームにより、ハード・ソフト両方の改良を狙うオートデスクのような動きも登場している状況だ。
このように世界各国、あるいは国の枠組みにとらわれない開発競争が巻き起こっている中、我が国日本も当然のことながら独自の開発を行なうことを発表している。現在大手企業27社が集まり、2019年に販売を目指して進む金属製3Dプリンターの状況はどのような状況にあるのだろうか。
少なくとも上記のイギリス特許庁のデータを見る限りだと、1990年以前は、日本企業以外に、この技術の特許を取得している国は存在していなかったのも事実。過去20年にわたり失われていたこの分野の研究開発を、どこまで飛躍できるか、今後の動きに大いに期待したいものである。
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