マッキンゼーが予測する3Dプリント技術が引き起こす5大インパクトとは

2025年に55兆円の経済的影響を及ぼす

2013年に世界中で注目された3Dプリント技術。

様々な金融機関やコンサルティング会社が市場予測を行ったが、各社共通して、今後10年間ですさまじいスピードで成長していくと予測している。

2014年に入り、昨年度登場していた3Dプリンターを超えるような新製品も多く発表され、機能性が向上しているだけではなく、使える素材も多角化し始めている。

昨年度にマッキンゼーが今後10年間でグローバル市場で成長が予測される産業の膨大なレポートを発表したが、3Dプリント技術は第9位にランクインしていることで、一躍注目されることとなった。

その後ゴールドマンサックスやクレディスイスなどの外資圏投資銀行も3Dプリント技術の市場予測に関するレポートを発表し、各社口をそろえて成長が期待される技術だと発表している。

レポート上では、現段階では3Dプリンターの造形スピードの遅さや、精度の問題、対応している材料などで、市場規模は小さいが、こうした技術的課題が急速に改善されることで、年率数十%の成長率で伸びていくと言われている。

現に、昨年末から今年にかけて、様々な材料を組み合わせて形づくる複合3Dプリンターや、従来プラスチックでは実現できなかったフルカラープラスチック3Dプリンターなどが発表され2014年度中に投入される見通しだ。

そんな中マッキンゼーグローバル研究所が3Dプリント技術の影響をまとめた新たなレポートを発表した。マッキンゼーグローバル研究所の予測するところでは、3Dプリント技術の経済的影響は非常に大きく、その規模は2025年に5500億ドル、日本円にして55兆円に達すると示唆している。

3Dプリント技術は設計、開発、生産、流通などあらゆる分野に影響を与えるためで、5つの巨大な影響をもたらすとしている。

3Dプリンター

製品開発サイクルの加速化

第一の影響として発表されているのが、製品開発サイクルの加速化である。

これは主に企業が製品開発を行う過程で必ず行うプロトタイプの製造が、3Dプリンターを使用することで、はるかに早くなるためである。

例えばアメリカのフォード社は自動車のエンジン部品の一部であるインテークマニホールドを従来の製造方法から3Dプリンターでの製造に切り替えたところ、プロトタイプの製造に要する時間が4ヶ月から4日間に短縮することを実現している。

また、従来からプロトタイプの製造に3Dプリンターは使用されてきたが、3Dプリント技術が飛躍的に向上してきていることから、最終品により近い形状で試作品を作ることが可能になっている。

こちらも一例をあげると、3Dsystemsが発表しているプラスチックのフルカラー3Dプリンターや、ストラタシスが発表したフルカラー複合材料プリンターを使用すれば、わざわざ着色するという手間や時間も削減することが可能になる。

こうした3Dプリンターの技術的向上はさらに改良されると言われており、更なる造形スピードの向上と、再現性の向上がなされるに違いない。

このような背景からマッキンゼーグローバル研究所は今後10年間で、製品開発サイクルタイムの大幅な削減に貢献することを期待していると発表している。

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新しい製造戦略を可能にする

影響の第二は新しい製造戦略が登場すると発表している。

これは3Dプリント技術が向上するにしたがって、単純な試作品製造だけではなく、最終品の製造にも進出することで引き起こされると予測している。

マッキンゼーグローバル研究所によると2011年度の3Dプリント市場に占める最終品製造の割合は25%に上り、年間成長率60%でこの市場は成長していくと予測している。

本サイトでもたびたび3Dプリント技術の最終品製造への利用事例は紹介してきたが、既にアメリカやイギリスの機関産業では3Dプリントでパーツ製造を行う動きが登場している。

例えばGEは年間で85000ユニット製造するジェットエンジンの燃料ノズルを将来的には全て3Dプリンターで製造することを計画している。

またドイツのシーメンスやイギリスのBAEシステムズなどは既に3Dプリントでパーツを製造し始めている。

イギリスでは特に1500万ポンド(約25億円)の公的資金を投資し、巨大な3Dプリントセンターの建設に着手を開始している。こうした一連の3Dプリント技術の最終品製造は、従来の製造プロセスと比べてはるかに早く、膨大なコスト削減が可能になり、品質も向上するためだ。

こうした動きは単純に設備が切り替わることだけではなく、グローバルワイドでの製造施設の変化を意味している。

マッキンゼーグローバル研究所は、こうした動きにより、より安価で土地と人件費が利用できる国に製造工場が移転することを意味していると示唆している。

従来の製造方法に比べて3Dプリント製造に切り替えるには二つの要素があるためだ。一つは膨大な敷地と、3Dデータを扱えるオペレーターが必要であるということ。

第二の要素は出力するための設計データの通信が可能で、製造工場は本社がある都会よりもより安い地域に作ることが可能であるという点だ。

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 利益構造の変化

第三の影響として挙げているのが利益構造の変化だ。

3Dプリント技術の最大の特長は3DCADデータから物体を生成するため、個人の要望に応じて3DCADデータを変更しカスタマイズすることができる点にある。

これは大量生産の製造プロセスとは異なり、不要な在庫やスペアパーツを持つ必要がなくなるというメリットをもたらしてくれる。

既にインプラントやインソール製造といった医療分野においてカスタマイズという特性を生かして3Dプリンターは使用されており、個人の体系に適合した3Dデータを作成、その後3Dプリントするという流れが主流になりつつある。

インソール製造分野ではアメリカやイギリスは政府が公的資金を注入することで、全て3Dプリント製造に変更する方向にある。

また、ナイキやジャイアントなどのスポーツメーカーでも個人の体系にフィットしたシューズや自転車サドルを3Dプリントで製造している。

こうしたカスタマイズによって、在庫リスクを低減するとともに経営の健全化を図り利益構造が高まるというメリットがある。

こうしたオンデマンド生産と在庫リスクの低減は、メーカーにとってもメリットになるだけではなく、小売業者にとってもメリットになる。

3Dデータがあればすぐに3Dプリンターで出力することが可能なため、販売数に応じて、少ないニッチな製品は在庫を持たず、注文ごとに3Dプリント製造して提供するという方法もできる。

また、フィギュアやおもちゃという分野でも消費者の好きなカスタマイズによって1個単位で製造販売することが可能だ。3Dプリント技術は利益構造を変化するだけではなくビジネスモデルも変化させると示唆している。

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新たな設計能力が必要になる 

第四の影響は設計能力において新しい能力が必要になると発表している。

これは当たり前の話であるが、設計は本質的に製造する方法とつながっている。マッキンゼーは下記のような例を挙げている。

建築家は構造技術を知らずに家を設計することはできないし、エンジニアは鋳物や鍛造、フライス加工、旋削、溶接を知らずに設計することはできない。

本来製造に必要な知識は膨大な量や専門的な知識が必要であるが、3Dプリントの設計は3DCADデータ上での単純な作業になるとしている。

ここにおいて設計と製造に大きなギャップが生じることになる。データ上でいくら形を設計したとしても、その形状がデータ通りに3Dプリントで出力され、実際の耐久性や構造性を考慮して物体を生成することができるかどうかは別問題になってくるためだ。

そのため、3Dプリント技術を最大限利用するためには、形状のゆがみを防止したり、周囲の温度や湿度といったプリントに影響を与える外部環境を設定し、プリント速度を最適化するノウハウ、材料特性を考慮して調整する技術的課題を解決しなければならないとしている。

3Dプリンター、特にデスクトップタイプの3Dプリンターを使用された方は経験があると思われるが、データ通りに出力されないことや、形状がゆがんでいること、ひどい場合には、ノズルから抽出されず不完全な印刷で終わっていることなどが多々ある。

いくらデータで製造ができるとはいえ、しっかりとしたクオリティを確保するためには、3Dデータによる設計だけではなく、対象物の物性に関する広範な知識と、3Dプリント技術と素材に対する正しい知識が必要になる。

マッキンゼーはこうした新たな能力も今後必要になってくると示唆しており、3Dプリント技術を生産体制に取り入れようとしている企業はこうした課題を解決するため3Dプリント技術に詳しい豊富な経験と技術を持っている技術者を雇用し始めている。

しかしこうした人材を確保するためには教育が必要になる。欧米やシンガポール、日本では急速に3Dプリント教育を正式カリキュラムとして採用し始めており、特にイギリスやアメリカは小中学校から取り入れるカリキュラムも導入される予定だ。

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破壊的な競争者の登場

最後にマッキンゼーが示唆している3Dプリント技術の影響は、破壊的な競争者を登場させるかもしれないという点にある。

3Dプリント技術の急速な発展と浸透は、コスト削減と製造時間の短縮により、既存の大量生産体制の企業の体質をさらに強化するというメリットをもたらす。

しかし一方で、こうした3Dプリント技術のメリットは新たな市場参入者を呼び込むことにもつながる。

従来とは比べることもできないようなスピードと低コストで、製品化をすることを可能にするだけではなく、ユーザーの希望により適したオンデマンド生産が可能になるためである。

マッキンゼーの発表しているところでは、既に新規事業者たちは、高度にカスタマイズされた、または共同で設計された製品をエンドユーザーにオンライン上で提供し始めているとしている。

こうした新規参入者たちは、オンライン上でユーザーと結びつくことにより消費者の細かいカスタマイズやオーダーメードに対応するだけではなく、迅速な発送といったきめ細かい対応により顧客を構築していく可能性を秘めていると指摘している。

マッキンゼーはこうした動きが、マイケル・ポーターが提唱した原材料仕入れから販売までの一連のバリューチェーンを根本から変える可能性があるとしている。

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まとめ

マッキンゼーグローバル研究所の発表はここ1年間の3Dプリント業界の動きを適切に反映したものだ。

こうした動きは既に3Dプリント技術の導入と研究開発を進める企業だけではなく、政府レベルでの一大プロジェクトが始まっている。

アメリカやイギリスは莫大な公的資金を投じて3Dプリント技術の研究開発と実用開始を行っている。

この公共投資を受けて設立された機関は単なる国の研究機関ではなく、多数の機関産業となる製造業、3Dプリンターメーカー、研究機関で構成されているだけではなく、実用面で、製造業に多くのメリットをもたらす仕組みになっている。

アメリカはNAMII、イギリスは新たに新3Dプリントハブ施設を建設中だ。

アメリカとイギリスは上記でも紹介したように、機関産業となる企業の体質を強化し、国際競争力をより一層強めることを目的としている。また欧米以外に中国やシンガポールなども公的資金を投じ3Dプリント技術の研究開発施設を建設した。

シンガポールが3Dプリント技術に対し莫大な投資を行うのは、加工貿易、サプライチェーンの一大拠点としての自国産業の強みを知っており、同時に3Dプリンターがこうした産業構造に深刻な影響を与えることを知っているからに他ならない。

こうした諸国の極めて直接的な資金を主力産業に迷うことなく投資するという即物的な取組を見ていると、マッキンゼーの発表は誇張でも何でもなく正確にこれからの時代を示唆していると言えよう。

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