3Dプリンターの影響市場② 小売業界の市場破壊は1000億円規模に達する見通し

時代が進むとともに巨大な影響を被る「小売」

前回の記事では、アメリカ郵政公社の発表した郵便・物流業界への3Dプリンターの影響と、それに対応する新たなビジネスモデルをご紹介したが、今回は、もう一つ巨大な影響が出る業界「小売」への影響をご紹介する。

前回も冒頭で、3Dプリンターの影響は、モノの全ての流れ、すなわち「素材という上流から、小売という下流」まですべてに影響が出るということを述べさせていただいたが、時代が進み、技術が進化すればするほど、その影響が如実に出る業界が「小売」業界だ。

今ではまだあまり実感のない家庭用の3Dプリンターが普及すれば、「小売」業界が受ける影響は計り知れないものがあるだろう。

本日は、第一段に続き、アメリカ郵政公社のレポートに見る、一般家庭での3Dプリンターの普及の影響と、小売への絶大なる影響を具体的な数字を挙げてご紹介。

家庭用3Dプリンターの普及と異業種の参入

通常、我々は日常使用するモノを購入する場合、二つの方法で行っている。

第一は、リアルな店舗に行き、モノを実際に見て購入する方法。第二はアマゾンや楽天といったネットショップやテレビショッピングなどの通信販売で購入する方法だ。

しかし3Dプリント技術が向上することで、第三の方法が加わることになる。それはモノのデータのみを購入し、自宅の3Dプリンターでプリントするという方法だ。

現段階では、まだ自宅でデータからモノを作るという動きはほぼ出ていない状況だが、将来必ずこういう動きになると言われている。下記のデータはアメリカ郵政公社が発表している3Dプリント技術の適用率だ。

3Dプリント技術の適用率

※出展:イギリスノッティンガム大学ビジネススクール

このグラフによると、2040年ごろには家庭での3Dプリント製造が25%近くに上るとされている。

また、そのころには最終品の製造に3Dプリント技術が使用されるケースは50%近くまで達することになる。これは小売以外からの最終品の購入を意味し、その経済的損失は計り知れないものがある。

例えば、小売以外から商品を購入する代替手段として、3Dプリントサービスが挙げられるだろう。Shapewaysやi.materialise、Sculpteoといった世界的な3Dプリントサービスを始め、メーカーが直接3Dプリントカスタマイズ製造を開始することが容易に創造がつく。

また、3Dプリントサービスやメーカーダイレクトという図式以外に、別の異業種の参入もあるだろう。

検索サービス大手のGoogleは既にスマートフォンのカスタマイズ製造に最新鋭の量産化可能な3Dプリンターを開発している。すなわち、わざわざ小売店で購入する必要性はますます減少していくことになる。

それでは次にもっと具体的な数値を挙げてその影響を見てみよう。

小売の競合として台頭しつつある異業種たちの記事はこちらをどうぞ

全小売商品の28%、450億種の製品に1000億円規模で影響

いくら異業種が進出してくるとか、家庭用3Dプリンター普及で売れなくなるとか、2040年の未来は、そうなるとか言われても、雲をつかむような話で実感がわかないだろう。

アメリカ郵政公社は、この小売業界への影響に関して具体的な業種とその業種の持つ市場規模を数値を挙げて警鐘を発している。

下記のデータは、経営コンサルタント会社クリステンセン社のデータをもとにアメリカ郵政公社が発表しているものだが、16業種、116兆円規模の市場に影響が出るとされている。

アメリカ小売市場の約28%を占め、116兆円規模に影響

※Christensen Associatesが2011年度全米小売データをもとに作成

この業界すべての売上が失われることは無いが、影響が出る市場規模としては巨大だ。ちなみにアメリカ郵政公社は同時にChristensen Associatesのデータをもとに、一般家庭に3Dプリンターが普及したときの小売業界への損失金額もシミュレーションしている。こうした予測は算出方法や条件によって変化するため、正しいとは言えないが、あくまでも目安としてご紹介する。

小売業界への影響金額(単位:100万ドル)

2013年度のデータをもとに予測。最大で、1097億円規模に達すると予測

まとめ –アマゾンやHEMAなど既に取り組む小売も登場-

こうした小売業界への影響は3Dプリント技術の向上とともに徐々に浸透していくだろう。それは家庭への3Dプリンターへの普及スピードと、異業種の3Dプリントサービスの普及とともに巨大なものになっていく。

今年に入り低価格帯の3Dプリンターはさまざまな機種や機能を持つものが登場してきているし、新たに3Dプリントで商品を提供するサービスも増加中だ。

中には驚くほど低価格で、高性能な造形精度を持つものも登場しつつある。また、3Dデータと取扱のハードルも下がりつつある。無料のソフトウェアが数多く登場し、有料ソフトでも驚くほど操作性に優れたものが登場してきている。このような一連の動きは、ただ一つの目的に凝縮されるだろう。

それは一般消費者が自分の望む商品をいかに簡単に手に入れやすい環境を構築するかということだ。こうした視点から見てみると、3Dプリント技術は決してデザインや製造業だけに影響があるわけではなく、エンドユーザーにダイレクトに接触する小売業界にとっては驚異となる可能性がきわめて高い。

アメリカ郵政公社の発表は、そんな驚異を示唆するような内容だ。こうしたことを受けてか既に3Dプリントサービスに試験的に取り組む小売チェーンも登場している。

また、常に小売と対比される大手通販サイトアマゾンなども3Dプリントサービスに乗り出している。日本ではいまだ小売業界では3Dプリント技術に対する動きは見られないが、どのような未来を見ているのだろうか。今後も注目業界の一つだと言える。

第一段郵便・物流市場の記事はこちらをどうぞ

3Dプリント技術に意欲的な小売りチェーンの記事はこちら

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