モノの上流から下流、全てに影響を与える技術
3Dプリント技術ほど、あらゆる業界に直接的な影響を与える技術も少ないだろう。
その影響する業界のキーワードを挙げてみると、「材料」「製品企画」「デザイン」「試作」「生産」「流通」「小売」など、モノづくりの全ての分野、つまりモノの上流から下流をつかさどる全ての業界に影響を与える。
従来は、「製品企画」や「デザイン」、「試作」といった分野にしか注目されてこなかったが、最近では、それ以外の分野の影響が徐々に動きが出始めている状況だ。
とりわけ、「流通」と「小売」、この二つの業界の動きが活発化してきている。両業界の動きはまだ試験的にとどまる範囲だが、将来拡大してく3Dプリント市場に対応していく構えが見て取れる。 そのような中、3Dプリントの先進国アメリカで、興味深いレポートが発表された。
アメリカの郵便事業をつかさどるアメリカ郵政公社が、今後の3Dプリント業界の拡大と、「郵便」「小売」業界に対する影響、また、それを踏まえた自社の新たなビジネスモデルを発表している。
今回は2回シリーズで、第一弾「郵便事業への影響」をご紹介。
4つの3Dプリント事業モデルで年間1100億円の収益向上
今回アメリカの郵政公社が発表したものは、33ページにも及ぶ市場レポートだ。
それには拡大する3Dプリント市場の範囲と、郵便・物流業界の影響、そして新たなビジネスモデルが記されているものだ。
長年アメリカの郵政公社は経営不振にあえいでいたが、3Dプリント技術を積極的に取り入れることで、将来のデジタル社会に対応し経営を立て直したい考えだ。具体的には4つの事業モデルを計画している。
新たな時代の郵便事業
ビジネスモデル1:3Dプリンター用材料のハブ事業
アメリカ郵政公社が現在計画しているビジネスモデルの代表的なものが、3Dプリント材料の小型ハブ集積地としての機能だ。製造データをオンライン上でやり取りするとはいえ、その物体を形作る「材料」は輸送するしかない。
全米に張り巡らされた拠点と、元来手紙などの小型輸送に強みを発揮していたアメリカ郵政公社にとっては、最適なサービスだ。
この3Dプリンターハブ事業は既に稼働し始めており、3Dプリント材料の納入企業は郵政公社のこのサービスを利用している。
いわば3Dプリント用材料の納入代理店ともいえるこのビジネスモデルは3Dプリンターの普及が拡大すればするほど消費される材料市場も拡大することから、コンサルティング会社クリステンセンアソシエイツなども高く評価しているという。 ちなみにこのハブ事業で年間485億円の収益向上が期待される。
ハブ事業での利益予測
ビジネスモデル2:3Dプリントサービス
ビジネスモデルの第二の柱として期待されているのが3Dプリントサービスだ。
こちらは既にキンコーズやUPSなどが試験的に開始しているビジネスモデルで、郵便局の店舗で3Dプリントサービスを提供するというもの。
モノがデータでやり取りされるようになれば、必然的に小型郵便の取扱量も減少することは必然だ。 このモデルは郵政公社単独ではなく、既にある大手3Dプリントサービスと連携して行われる見通しだ。
実は既にこれと同様の取組をしている国がある。 以前もご紹介させていただいたが、フランスの郵政公社は、大手3DプリントサービスSculpteoと提携し、将来的に全店舗で3Dプリントサービスを展開する考えだ。
郵便局や物流企業の3Dプリントサービスの記事はこちらをどうぞ
ビジネスモデル3:オンラインの3Dデータ&プリントシステム
第三のビジネスモデルはオンライン上における3Dデータと3Dプリントシステムの提供だ。 これは3Dプリントを依頼してくる企業やデザイナー向けに提供されるビジネスモデルで、著作権保護や安全なデータ管理を提供するサービスだ。
3Dプリントを外部機関に依頼する際に必ず課題として取り上げられるのが著作権とセキュリティの課題。安心して利用できるインフラを構築することで、3Dプリントサービスを促進したい考えだ。
3Dプリントと著作権保護のシステムの記事はこちらをどうぞ
- 3Dプリンター普及の著作権侵害は10兆円規模、進む3Dデータの知的財産保護対策
- 3Dプリント技術の不正コピー防止、著作権侵害を防止するソフト「Authentise」
- バージニア工科大学は3Dプリンターの複製や偽造を防止する技術を開発
ビジネスモデル4:修理・スペアパーツの3Dプリントサービス
こちらは主にスペアパーツの3Dプリントサービスで、自動車修理用のパーツや、手紙処理設備等の修理パーツなどの3Dプリントを提供する。スペアパーツは3Dプリンターの利用が期待されている大きな市場で、在庫管理や経営改善を果たしてくれる分野として注目が集まっている。
3Dプリント技術とスペアパーツや在庫管理の記事はこちらをどうぞ
このレポートで紹介されたビジネスモデルはアウトラインのようなものだが、2013年度の3Dプリントされた各取引をベースに試算がされ、最大で年間1100億円規模の収益向上をもたらす計画だ。
アメリカ郵政公社が経営不振に陥った原因はさまざまだが、その一因としては、2000年以降のインターネット普及により手紙の配達が激減したことがあげられる。
その結果、毎年異常なばかりの赤字をはじき出し、時代に対応できないサービス改善とダブついた大量の人員整理は早急の課題。 ちなみに2014年の第二四半期の業績は19億ドル、約1900億円の赤字をはじき出しており、この3Dプリントサービスが最大限稼働したとしても、相当の赤字が出る見通しだ。
時代の流れに適合することで経営改革が成功するか
まとめ -20年後、30年後を見通した計画-
今後20年後から30年後にかけて、モノに関わるあらゆる業界で地殻変動が起きるだろう。
冒頭で述べたモノの源流をつかさどる「素材」に始まり、一般消費者がモノを手にする「小売」に至るまで、これに関わる全ての業界・企業に大きな影響が出るに違いない。 その中でも今回のアメリカ郵政公社のレポートは、「郵便」「流通」に焦点を絞った示唆に富む分析だ。
また、いまだ解消されない赤字経営という問題を抱えている中、新たな時代に対応する動きも少しずつ出始めているようだ。
こうした課題はすぐには解決されることは無いが、事業運営にとって最も必要な条件の一つ「時代との適合性」を踏まえていることから、10年後20年後には黒字経営に転化できるかもしれない。
とりわけ、インターネットの普及時に、上手く対応できなかったアメリカ郵政公社だからこそ、同じ轍は二度踏まないという考えが生まれたのだろう。今後の時代に対応した事業化に期待できそうだ。
3Dプリンターの影響市場第二弾の記事はこちらをどうぞ
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