3Dプリント市場が2020年に80億ドルに -その将来図と問題点-

2013年度になり好調に伸びている3Dプリント市場だが、マーケットの将来を見通す市場調査レポートはいろいろな専門機関が発表している。マッキンゼーやゴールドマンサックス、ガートナーなど、市場分析においては専門性を発揮する企業のレポートが後を絶たない。

つい先日、新たな3Dプリンター市場の市場予測データがアメリカの市場調査会社MarketsandMarketsが発表を行った。

その市場予測によると2013年度から2020年度までの3Dプリント関連市場の市場規模は23%の成長率で拡大し、2020年度には84億ドルに上る見通しとなっている。本レポートは3Dプリント技術、材料、業界、地理の4つの視点から分析されているデータとなっており、3Dプリント技術のメリットに言及しながら書いている。

出所:MarketsandMarkets

 3Dプリンターのメリットと市場動向とは

3Dプリント技術は従来はプロダクトデザインの過程において3Dモデルから試作品(プロトタイプ)を作成するための技術として進化してきた。

しかし、3Dプリント技術自体の向上により、様々な分野、自動車、航空宇宙、医療、消費者用アイテムなどでの使用が急速に浸透してきており、プロトタイピングからラビットマニュファクチャリングに迅速な転換を行っている。

3Dプリントの導入がもたらすメリットとして挙げられるのが、製造現場への高い適応能力、リードタイムの短さ、金型製造コストの圧縮、といった点があげられるが、一言でいうと圧倒的なコストと時間の短縮である。このことは製造プロセス自体を変革するだけではなく、圧倒的に圧縮されたコストと時間を別の部分に振り向けることができる。

例えば技術改良や新製品開発といった新たな市場を生み出す可能性に時間とコストをかけることが可能だ。特に航空宇宙分野や医療分野においては新製品開発と技術研究は非常に大きな意味を持っており、そうしたことを考えると3Dプリンターは非常にメリットのある製品である。

市場レポートの概要

3Dプリント技術として考えられているのが、以下の製法で、代表的なのが光造形法といわれるステレオリソグラフィー(SLA)方法で、紫外線を照射することで硬化する液体樹脂を用いた造形法だ。デスクトップタイプではFormlabs社のForm2がSLAタイプの光造形3Dプリンターとして人気を集めている。

つづいて、レーザー焼結法、電子ビーム溶解(EBM)、溶融処分モデリング(FDM)、シート積層造形(LOM)三次元インクジェット印刷(3DP)、などの製法だ。どの製法ももともとは試作品を製造するための技術であるが、精度の向上や素材の多角化によって、導入業界が広がり始めている。

1.材料市場は

こうした技術の拡大にともない、3Dプリンターで使用できる材料の研究もおこなわれており、材料市場も拡大する傾向にある。材料の3Dプリンティング市場はグローバルに見て2025年には6億ドルに達するとも予測されており、多岐にわたる。代表的な素材としてポリマー、金属/合金、セラミックス、砂、紙、ゴムなどが出てきているが、最近では新素材の研究と3Dプリント出力の研究が同時に行われている。

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2.業界別セグメント

3Dプリンターの導入が今後もふえると考えられている業界としては、航空宇宙産業にはじまり、自動車、コンシュマー向け製品、医療、防衛、事務機器、教育·研究分野、芸術、建築などがあげられるとしている。最も急成長する業界としては医療分野と航空宇宙分野があげられる。

医療分野や航空宇宙分野においては(もちろんこの二つの分野だけではなく)3Dプリント技術のメリットが余すところなく発揮できるからだと想定できる。先に書いたように医療分野と航空宇宙分野は技術開発と新製品開発に対してより多くの時間とコストをさかなければならない分野だからだ。

3Dプリンターのメリットは従来の製造プロセスでかかっていたコストと時間を圧倒的に圧縮することができ、その分新たな新製品開発と技術研究にコストと時間を当てられる。

さらにこの二つの分野ではより正確で軽量化された厳しい設計が要されるため、3Dプリント技術の向上にもつながる。また医療分野では先進諸国はいずれも少子高齢化で医療に対するコスト増が目されるため、3Dプリンターを導入することで個人個人に対応した迅速な措置の対応が可能になり、増大する医療処置に対応することができるとしている。

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3.地域セグメント

3Dプリンターの導入地域は大まかに4つに分類することができるとされている。第一はアメリカ、第二はヨーロッパ、第三はアジア太平洋、第四はその他の地域になると予測している。主要国の3Dプリンターの導入比率は既にアメリカでは38%にも上り、日本が9.7%、ドイツが9.4%、中国が8.7%となっている。

しかし、それ以外の国、例えばイギリスやシンガポールなどでも3Dプリント技術に対して国家規模で予算を投じて製造業に対して導入を促進していることから、世界各国での製造業での使用が急速に高まると考えられる。

また、教育機関に関しての導入も盛んで、イギリスやオーストラリアでは中学、高校でのカリキュラムに3Dプリンターを使用した講座を組み込み始めている。このように総体的に世界各国での導入が進み市場規模が拡大すると考えられる。

4.3Dプリンターの主要メーカー

3Dプリント市場を押し上げる主要メーカーとして以下のメーカーがあげられている。

3Dプリンターメーカーのパイオニアとして有名な3Dシステムズ(米国)、ストラタシス(米国)に始まり、レニショー(UK)、EnvisionTEC(ドイツ)、 Optomec(米国)、SLM Solutions(ドイツ)、LayerWise(ベルギー)、ExOne(米国)、EOS社(ドイツ)、Organovo Holdings(米国)と、ARCAM(スウェーデン)などのメーカーだ。

基本的な市場シェアとして3Dシステムズとストラタシスの2社で3Dプリンター市場の70%のシェアを占めているが、2014年以降、大手コンピューター関連メーカーのヒューレット・パッカード社などが3Dプリンター市場に参入することが発表されており、技術向上と製品の多角化が進むと思われる。

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まとめ

2013年度は3Dプリンターが爆発的にブームになった年だ。ブームとして注目された要因の一つとして大手コンサルティング会社たちの市場予測も一つの要因なのではないだろうか。マッキンゼーでは今後成長する市場分野のうちの一つとして3Dプリンター市場をランクインさせている。また同時に投資銀行であるゴールドマンサックスやクレディスイスでも3Dプリント市場に注目し市場予測レポートを公開した。

こうしたある意味、マーケット分析において権威ある企業が有望市場だと認識することで、従来3Dプリント技術に関心が無かった人たちの注目を集め、メーカーブームのような沸き起こりを巻き起こしている部分があると考えられる。

しかし一点注意しなければならない点は、3Dプリンターが作る市場がどういう内容で構成になっているのかを詳細に見てみる必要があるのではないだろうか。3DCADデータから製品が製造することができるという、一見一目を引く3Dプリンターの特性と権威ある調査会社が発表する市場規模により、3Dプリント技術の最も肝心な導入方法や使用例、メリットといった点が今一つ理解されないままでいるような気がする。

今回のMarketsandMarkets 社の予測では3Dプリント市場の市場規模は2020年で80億ドルの規模に成長すると予測しており、3Dプリンターメーカーで世界一を走るストラタシスも2025年に84億ドルの市場規模と見積もっている。

3Dプリンターで作られた消費者向け製品は本当に満足できるか?

この市場予測は上記にあるように、医療や航空宇宙などの製造業での3Dプリンターの使用や教育での使用、消費者商材への使用と別れている。しかし消費者向けの製品の製造という点に関しては一抹の不安が残らざるおえない。

例えば、3Dプリンターを手に入れたからと言って、誰でもメーカーになれるという考えは間違いだ。また3Dプリント市場が成長市場だからといって誰でもメーカーになれるという考えも極めて安易な考えに思える。

IT技術の進化が誰にでも情報発信したり売買したりする権利を与えたように、3Dプリンターを使うことでモノを作ることのハードルは下がっているように見えるがそうではない。

金型製造にかかるコストと3Dプリンターで成形するコストは比較にならないほど安いが、その製品を提供される側すなわち消費者の立場に立って考えてみると、金型製造だろうが3Dプリンターでの製造だろうが、製造工程は全く関係がないと思える。

誰も自分が日常使っているモノ、例えば携帯電話や時計、食器などがどのように作られているかなど関心がないのではないだろうか?肝心なのは購入した消費者が満足が行く品質と機能性であり、製品開発も消費者を第一に考えて行わなければならないだろう。そういうモノの製品開発、販売という観点からすると今現在の3Dプリンターで作られた消費者向け製品は決して満足がいくようなクオリティであるとは到底思えない。

仮に3Dプリンターで作られたとしてもそこから人の手によって品質を向上させる加工などはどうしても必要ではないだろうか。簡単に誰でも均等な能力を付与されるのがテクノロジーであるならば、簡単になった分、より一層のこだわりや手間暇をかけることが人を満足させるものであると思いたい。

参考記事:3Dプリンターで製造後、人の手によって丁寧な後加工をしたスピーカー

2018年の3Dプリント材料の市場規模の記事はこちら

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