3Dプリンターによって製造プロセス自体を見直す取組
製造現場において3Dプリンターの導入が続々と進んでいる。従来試作品を製造する目的で使用されていた3Dプリンターがあらゆる分野で使用されはじめている。本日はヨーロッパ最大手の大手航空・宇宙企業EADS社の取り組みをご紹介。
EADS社はEuropean Aeronautic Defence and Space Company N.V.の略でボーイング社に次ぐ世界第二位の航空宇宙企業だ。またエアバスの100%親会社でもあるこの企業は全世界170以上の拠点で14万人の従業員をかかえるグローバルリーダーである。
このほど、EADSの研究・技術組織が新たな製造方法を導入し大幅に生産効率を向上させているという。EADS社はドイツの3Dプリンターメーカー、EOS社の3Dプリンターを生産ラインに導入し部品製造に使用を行っている。
EOS社は、3Dプリンターの金属用の機種を開発する最大手のメーカーとして知られ、レーザー焼結(SLS)とDMLSによる部品製造を行うもので、金属部品を製造することができる。
レーザー焼結技術は3次元CADデータから直接物体を生成する方法で、スライス形状を積み重ねて作る仕組みで、粉末状の薄いスライスを一層ずつレーザーで焼結しながら積層し物体を作る方法である。
一般的にレーザー焼結方法によって生成可能な材料は、ブロンズや鉄などの金属材料に始まり、鋳造用の砂、ポリアミドやポリスチレンなどの樹脂などが可能であり、EOS社はこのレーザー焼結システムの世界最大手の企業だ。
製造にかかる材料消費量を75%、CO2を40%まで削減
EADS社はどのようにしてこのレーザー焼結技術を取り入れ製造ラインに変化を起こさせているのであろうか?最も注目に値する取組は、ただ単純にレーザー焼結の3Dプリンターを導入しているだけではないということだ。
製造プロセスにおいて新しい基準、テクノロジー・レディネス・レベル(技術準備レベルTRL)というものを取り入れている。この基準は実際に製造を開始する前の準備段階において、9つのプロセスを経て技術の成熟度、性能、エンジニアリング、製造、運用準備、価値とリスクといった観点から評価をし、この基準の各段階において新しく製造される部品は既存品よりも性能が優れていることを証明しなければならないのだ。
特にCO2排出量、原材料効率、エネルギー効率、リサイクルの観点から評価が行われており、製造段階の見直しだけではなく、原材料調達、金属の体積造形時における粉末の噴射時のアルゴン消費、廃棄物の輸送といった工程からも見直しを行っている。
下記は実際にエアバスA320の既存部品を上記の基準に基づいて再設計したものである。


●エアバスA320の従来の設計部品:製造鋳鋼ナセルヒンジブラケット
●EOSの3Dプリンター(金属造形体積技術)により新たに最適化されたチタンバージョンの部品
この3Dプリンターの製造による利点は、必要な量の部品だけ製造することができるため、原材料の消費量を75%まで減少させることができることだ。またもう一つ特徴的なのは製造にかかるエネルギーを減少させることによってCO2排出量を40%まで減少したことだ。
金属3Dプリンターの原理と仕組みについてはこちらをどうぞ
まとめ
EADS社の3Dプリンター導入の事例は、単純に部品製造を3Dプリンターに切り替えるというだけではなく、原材料調達から製造工程、製造にかかるエネルギー、製造後の廃棄物の処理まで、製造に関する全てのプロセスに規定を設け見直しを行っている点にある。
9つの基準において全て既存品よりも優れていることを証明し、その上で設計・デザインを行わなければならない。その結果としてコストを75%まで削減し、CO2排出量を40%まで減少させるという成果をだしている。まさに最適化されたデザインが利益構造を変革し、地球にやさしいエコな取り組みまで生み出しているという特筆に値する導入実績だ。
この導入事例が示す教訓は3Dプリンターを道具・技術として導入しその根本にあるデザインと製造という二つの事業を成り立たせる構造を変革したことにある。EADS社は世界的な大企業でこうした取り組みがそのまま全ての製造業に当てはまるとは限らないが、3Dプリンターを導入するに際しての一つの有効な視点になるかと思われる。
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