3Dプリント技術への巨大投資で製造業回帰を計るオーストラリア

資源ジレンマと産業空洞化脱却を図るオーストラリア

世界各国が3Dプリント技術によって自国製造業を強化しようとしている。欧米の先進諸国やシンガポール、中国などがその先頭を行くが、製造業が主力産業ではないオーストラリアが新たに3Dプリント技術に資金を投じて自国製造業の回帰を図っている。

オーストラリアは世界で13番目の経済力を誇る国だが、国内総生産のほぼ70パーセントを観光、教育、金融などのサービス業が占める。近年、毎年移民を受け入れ、経済成長率もOECD諸国の中ではトップクラスを維持してきた。とりわけ2008年のリーマンショック以降もGDP国内総生産で14パーセントも拡大を果たしているほど。

ちなみに一人あたりの国内総生産でもイギリスやドイツ、フランスといったヨーロッパの先進国を僅かに上回る実力を持つ。そんな好調のオーストラリア経済だが、主にその成長を牽引してきたのは資源の輸出といってもいいだろう。

ご存知のとおりオーストラリアは石炭や鉄鉱石といった豊富な資源を持つ資源大国だ。とりわけ対中貿易で鉱業の輸出が格好を呈し、成長する中国経済に巨大な原料を供給し続けてきた。だがその一方で、中国や成長するアジア諸国の経済成長に、鉱業の輸出状況も依存せざるおえない状況がある。

また同時にオーストラリアは資源大国が持つジレンマにも苦しめられている。それがオランダ病による典型的な産業空洞化だ。オランダ病は資源に依存する国の製造業が衰退する経済状況だが、オーストラリアもその例外ではない。

天然資源による貿易黒字を続けることで、その反面為替レートが上昇、結果労働コストの高騰を招き製造業の衰退を引き起こし、オーストラリア国内の自動車工場が相次いで閉鎖になりつつある。フォードが2016年10月までに閉鎖、GMが2017年で自動車生産終了。トヨタが自動車生産を2017年に終了と、相次いで自動車製造が撤退している。

このように天然資源が豊富な国はどうしても自国の製造業が育たないというジレンマを持つ。例えばオーストラリア以外の資源大国といえばロシアだが、ロシアも豊富な天然ガスを算出することから、自国の製造業は他国に比べてレベルが劣る(ちなみにロシアには自動車メーカーはアフトワズ、カマズといった国産メーカーがある)。

このようにオーストラリアは資源価格に依存する不安定な経済状況とそれからくる産業空洞化という二つの課題を抱えているが、それを3Dプリント技術によって新たな製造業の柱を立脚しようとしているのではないだろうか。

政府主導のオンライン3Dプリントプラットフォーム立ち上げ

それではオーストラリアの3Dプリント技術へのちからの入れようをご紹介しよう。その動きは完全に政府主導のもとで行われている。第一にオーストラリア政府は600万ドル(約7億2千万円)の資金を投じて、連邦科学産業研究機構に3Dプリントラボを立ち上げている。

この研究室はLab22と言われ、オーストラリアの首都キャンベラに本拠をおくスタートアップ企業Make for meと、KEECH3Dと締結し新たな産業用3Dプリントシステムの構築を行う。ちなみにMake for meはオーストラリア国内に5箇所の3Dプリントサービスを展開する企業で、KEECH3Dは、プロダクトデザインから3Dモデリング、スキャニングまで行う3Dデータエンジニアリングに精通する企業だ。

オーストラリアは前述の通り巨大なメーカーは存在せず、中小企業がメインを占めるが、その多くは高額な3Dプリントマシーンを導入することはできない。今回立ち上げられた3Dプリントラボはこうした自国の中小企業をサポートし強化する狙いもあるようだ。ちなみに新たに配備される製造設備は3Dプリンターの中でもハイエンドなものでARCAM A1、コンセプトレーザーM2、Optomec LENS MR-7、Voxelject VX1000とコールドスプレープラズマ技術など。

実際の3Dプリント設備を充実させるだけではなく、上記のKeech3Dと連携し巨大な3Dオンラインプラットフォームも立ち上げる計画だ。このオンライン3Dプリントプラットフォームに参加企業は最速、最安で利用することができる。

オーストラリア 3Dプリントセンター

300億円規模の巨大3Dプリント研究センターも立ち上げる

オーストラリアが取り組む3Dプリント強化はオンラインプラットフォームだけではない。今回新たに計画が発表されたのは「革新的なものづくり共同研究センター」通称IMCRCだ。このIMCRCには前述の3Dプリントセンターをはるかに超える2億5千万ドル(約300億円)もの資金が投入される。

この新たに立ち上げられるIMCRCにはオーストラリアにおける16の大学、前述の連邦科学産業研究機構、レーザー技術開発を行うフラウンホーファー研究所、4つの業界団体、300社以上もの中小企業、14社のグローバル製造業が参加する。この巨大な研究センターによってオーストラリア国内の製造業を次世代型にチェンジさせ空洞化する自国製造業を大幅に強化しようという動きだ。

その理由はこのIMCRCの研究目的からも見て取ることができる。その分野は大きく分類して4つに分かれており、第一が3Dプリントプロセスの開発、第二が自動化製造と支援技術の開発、第三は付加価値の高い製品開発、第四がそれによる産業転換を引き起こすことが狙い。

オーストラリア 3Dプリントセンター

まとめ 3Dプリンターによるものづくり体制の時代

この巨大な投資によってオーストラリアはどの程度まで製造業を強化できるかは未知数だ。またオーストラリアの製造業を支えている中小企業の技術レベルも未知数であることから、長年蓄積があるアメリカや日本などとは違い、軌道に乗せるためには相当な時間がかかるかもしれない。

だがその一方で産業空洞化を引き起こした原因が労働賃金の上昇であるならば、3Dプリント技術を導入することでそれを補うという方法は時代にあった政策だといえる。産業空洞化の本質的な理由は極めてシンプルで、自国に比べて安価に作ることができるという理由から生産拠点を移すということにほかならない。

だが、移転先の労働コストが上昇すれば、より安価な場所を求めて移転するというくだらないコスト重視の発想に陥ることになる。だがコストのみを重視し、自社製品の付加価値を高めることを疎かにするといったものづくりの精神では、最終的にエンドユーザーには安いという強みしか出せずに終わってしまう。

オーストラリアの「革新的なものづくり共同研究センター」通称IMCRCの今後の展開が気になるところだ。

2015.6.11 投稿者:i-maker

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