光造形との融合。高機能な3Dプリントセラミック樹脂の開発

新たなセラミック3Dプリント材料の開発

3Dプリンターの材料はさまざまな種類が登場してきている。もっとも一般的かつ開発が進んでいるのがプラスチック素材で、あらゆる種類の樹脂素材が3Dプリントに対応しつつある。ポリプロピレンポリウレタンのような汎用樹脂、ABS樹脂ポリカーボネート、ULTEMといったエンジニアリングプラスチックから、新たな複合材料の開発までプラスチックの3Dプリント材料は進化が目覚しい。

また金属材料の3Dプリントも進化しつつある。チタンやアルミニウムなど粉末状からレーザー焼結で造形化される。こうした3Dプリント材料の開発はプラスチックや金属にとどまるものではない。本日ご紹介するセラミックの分野でも新たな開発が進んでいる状況だ。

既にセラミックの3Dプリント素材は登場しているが、粉末材料を焼結して造形する方法で、食器類や装飾品などの造形に限られている。ちなみにセラミックとは狭義の意味では陶磁器を指すが、広い意味では、無機物を焼き固めた焼結体のことを指しその分野は非常に多岐にわたる。

セラミックの用途は、陶磁器以外にも工業用製品やエレクトロニクス製品の分野に使用されている。こうした工業用製品やエレクトロニクス製品のセラミックは一般的なセラミックとは違い、ファインセラミックとして高機能化された素材であり、現状3Dプリント技術には対応していない。しかし、本日ご紹介する新たなセラミック素材は、高機能な工業用に使用することができる可能性を秘めた新素材だといえよう。

樹脂との配合で軽量、高強度、高耐熱を実現

今回ご紹介する新たな3Dプリントセラミック素材は、ボーイングとゼネラル・モーターズが所有している最先端技術の研究を行うHRL研究所が開発したもの。このHRL研究所とは、60年以上の歴史を持つ研究所で、持ち主であるボーイングとGMのメイン製品である自動車と航空機に関する技術開発に取り組んでいる。このHRLが今回開発したセラミック素材は、これまでのようなパウダー状のセラミック材料ではなく、樹脂素材と配合したセラミック樹脂と呼ばれる新たな3Dプリント材料である。

このセラミック樹脂の最大の特長は、既存のプラスチックの3Dプリントのように立体造形可能で、その造形後に高温の窯で焼成することで緻密なセラミックの完成体に仕上げることが出来るという。このセラミック樹脂によって作り出されたオブジェクトは、既存の粉末状のレーザー焼結によって作り出されたセラミック3Dプリントよりも10倍強力であり、同時に1700℃もの高音に耐えることができる。

HRL研究所

超音速ジェット機や電子デバイスの製造に利用が検討

セラミックの種類は非常にさまざまで、その材料も多岐に渡っている。酸化物系のジルコニアや、水酸化物系のハイドロキシアバタイト、炭化物系の炭化ケイ素など、こうした原料が単体で合成されるわけではなく、複合材料として使用されさまざまな種類のセラミックが生み出される。

このHRL研究所が開発したセラミック樹脂も炭化ケイ素セラミックを中心に樹脂の構成を調整することで生み出されたもので、軽量、高強度、高耐熱のセラミック素材として使用することができる。その適用範囲はこれまでの陶磁器の範囲を大きく超え、航空宇宙産業からエレクトロニクス製品など、既存のセラミック素材が活躍している分野でオンデマンドで対応することが可能になる。

具体的にこのセラミック樹脂の利用が検討されている分野は超音速ジェット機の分野で、超音速時によって引き起こされる空気摩擦に耐えうる車両全体のシェル用としての利用だ。

造形後に焼成して高性能セラミックに

金属の代替として開発。光造形で造形可能なセラミック樹脂

このセラミック樹脂による3Dプリント製法は、動画で紹介されている限り、光造形法であり、数秒から数分でパーツを製造することができる。もともとこの素材が開発されたのは2011年で、金属の代替材料のために開発が発端となっている。その後、造形された部品を高音で焼成することで、強固なセラミックパーツとして完成し、伝統的セラミック製造と等しい強度や耐熱性を備えることが可能になる。

また、3Dプリント技術ならではの特質としてデータからオンデマンドに生成可能なため、形状やサイスは任意の状態で造形可能で、大小さまざま複雑な形状のアプリケーションのためにも使用が期待されている。

因みに一般的な光造形法は、液体状のエポキシ樹脂アクリル樹脂ポリウレタンなどをベースにした紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射して物体に固める技術である。

セラミック樹脂の3Dプリント動画

独自の光造形で超光速造形
高音で焼成する

まとめ 高性能セラミックの新たな使い方を可能に

HRLの開発したセラミック樹脂は、航空宇宙産業における車体シェルやジェットエンジンなどの大型パーツから、微小電気機械システムと、電子デバイスパッケージングのような非常に小さい、複雑なアプリケーションのためにも使用することができる。現在はこの材料の実用化と商業化を行う段階だが、この技術が実用化されれば、高品質なレベルで複雑なエレクトロニクス産業や自動車、航空宇宙産業でセラミック素材がオンデマンドで使用できる。

もともとファインセラミックは金属の代替として開発が行われ、さまざまな工業用途に使用がされているが、この3Dプリント可能なセラミック樹脂も金属の代替材料として機能することを目指し開発された。言うなれば大量生産ではなく少量オンデマンド生産の時代に対応した素材の開発だということができる。

また、その特長は極めてユニークで、光造形によって任意の形状や大きさに造形後、焼成することで軽量・高強度・高耐熱のセラミック素材として利用できるというものである。新たな素材の開発が、ものづくりを時代に適合させ、さらに産業を強化していく。そんな技術開発の典型だということができよう。

光造形の原理と仕組み、種類についてはこちらをどうぞ

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