包丁の歴史。料理や食事にイノベーションを起こした3つの素材

包丁は最古のキッチンテクノロジー

包丁は台所道具の中において、最も基本的で、必須のキッチンテクノロジーだ。エレクトロニクスの進歩によって、電子レンジやフードプロセッサー、更には最近では調理専用ロボットの登場など、“料理”に関するテクノロジーは比類のない進歩を遂げている。しかし、その一方で、料理に関する基本的な行為は太古から変わってはいない。すべての料理道具の機能は、“切る”と“火を使う”という二つの行為に凝縮される。その中においても包丁は、食材をバラバラにする機能によって、料理の“味”を形成する鍵を握る奥深い道具である。その歴史は極めて古く、火の歴史よりも古い。火はおよそ160万年前に南アフリカでの使用が最古とされているが(諸説あり100万年まえとも200万年前ともいわれる)、刃物の使用は、それよりも更に古い340万年前とされている。エチオピアで発見されたのその化石からは、先のとがった石器で牛やヤギなどの肉をこそぎ取ったことが確認されており、料理における“切る”行為、が極めて原始的な技術であったことがわかる。

包丁の進化:料理と食事にイノベーションを起こした3つの素材

一方で、この最古の調理器具は、単なる一元的な道具ではなく、石器時代から既に洗練された進化の系譜をたどってきている。その形状はさまざまで、食材ごとに最適な加工ができるようデザインされてきた。その種類は驚くほど多岐にわたり、叩き切るチョッパーや、ブレードといわれる石刃、更には木の実をすりつぶす石皿など、食材に応じたカタチと機能を見ることができる。このバリエーションの多さは、今の包丁にも引き継がれており、さまざまな食材専用の包丁が存在する。ちなみに現代では、料理や食事は驚くほど洗練され、多くの人にとって生活を豊かにする“楽しみ”の一つになっているものだが、当たり前のような楽しみとなっている背景には、包丁を形成する3つの素材の力が大きく関係している。ここでは料理や食事にイノベーションを起こしてきた3つの素材とそれによって生み出された包丁のテクノロジーについてご紹介しよう。

鋼鉄。切れ味・頑丈さを飛躍的に向上

石器時代から伝わる“包丁”が劇的に変化するのは鉄器時代に入ってからだ。鉄器時代の前の青銅器時代では、剣やナイフは作られたが、切る道具としては依然として石がその中心の位置にあった。そして製鉄技術が普及するとともに鉄の刃物が登場し、日本においても弥生時代以降、農具や武器に使用されるようになる。農具に鉄が使用されることで、土を容易に掘り起こすことができ、農業生産を飛躍的に拡大したが、その一方で、調理器具としては決して理想的とは言えない素材ではあった。確かに鉄は石や青銅器などと比べ切れ味に優れ、鍛造技術などによって加工も容易だが、錆びることで切れ味が衰え、尚且つ食材をまずくするという問題点が存在したのだ。この鉄の持つ問題点を克服し、包丁の材料としてより最適化された素材が鋼鉄である。特に鋼鉄の中でも炭素鋼といわれる材料が包丁に最適で、鉄に微量の炭素を加えることで、従来の鉄と比べ飛躍的に錆びにくくなり、切れ味や頑丈さも増すのである。一般的な炭素鋼は、鉄に0.2~2%ほどの炭素を加えた鉄のことを指すが、なおその中で料理包丁に最適な炭素鋼は0.75%だともいわれている。この炭素鋼による包丁の登場により、より大きく硬い食材が容易に加工することが可能になり、さまざまな食材が自在に切り分け、料理を奥深くすることが可能となったのだ。

ステンレス。錆びを無くし食事をおいしく

包丁の進化を更に飛躍的にした材料がステンレス鋼だ。ステンレス鋼は「ステイン(汚れ)レス(ない)」というその名の通り、腐食や汚れを防ぐことで、今ではあらゆる製品に使用される金属だ。特に包丁やナイフ、鍋などの調理器具の材料として使用されることで、料理や食事を劇的に変えることに成功した素材と言えよう。ステンレスが登場する以前は、鉄は錆びとは無縁ではいられない素材であり、特に調理後の食材の切り分けには鉄製の包丁やナイフは最悪であったとされる。例えば果物を切ったり、レモンやビネガーなどを使ったソースに触れることで、酸によって鉄製の包丁が腐食し、食材に金属の味が移るということが起きてしまう。しかし、クロムを含有するステンレスでは、周囲を覆う酸化クロムによって腐食から免れることができ、食材が金属の味に侵されるという心配はなくなるのだ。言うなれば、ステンレス製の包丁において、食材の味を安定して保てるようになり、よりおいしい食事を家庭でも提供できるようになったのである。

セラミック。軽量で切れ味抜群、誰でも使える包丁に進化

炭素鋼やステンレス製の包丁と共に、包丁の歴史にもう一つ革新をもたらした素材がセラミックである。セラミックは古くからは土器や陶磁器の原料のことを言うが、現代では、ファインセラミックスの登場によって、さまざまな分野に使用されている材料である。包丁の材料として開発が始められたのは、現代に入ってからで1980年代に日本でスタートした。包丁用のセラミックは主にジルコニアが使用され、ジルコニアにバインダーを配合してプレス成型によって作り出される。セラミック製包丁の最大の特長は、金属ではないため錆びることなく食材に金属臭がつくことはない。また切れ味が長期間衰えることがなく、酸で腐食もしない。更には薄くても切れ味があり軽いため、だれでも使用することが可能だ。その一方で、軽くて硬いという特性から、折れやすく硬くて大きい食材を切ることは難しい。また切れ味は長持ちするが、鉄製の包丁とは違い砥石などで研ぐことはできずダイヤモンド製の砥石が必要となる。このセラミックの軽くて硬いという特性と劣化しないという特性は、“使いやすさ”という機能に凝縮される。これにより一般家庭における料理をより手軽に簡単にするというイノベーションを起こしたのである。

“切る”機能の進化が生活を豊かに

包丁の進化は、料理と食事を、よりおいしく、より楽しく、誰でも参加できる存在にまで発展させてきた。鋼鉄の登場により調理できる食材の範囲が広がり、味の精度をより奥深く、より繊細に表現できるようになった。また、ステンレスの普及は、鉄の腐食を防ぎ、食材本来の味をそのまま保つことを可能にした。更にセラミックの登場によって、老若男女、誰でも手軽に調理を行うことができるようになった。今では当たり前である料理や食事の楽しさは、“切る”という最もシンプルな機能を追求し、進化を遂げてきた包丁の歴史に裏付けられているのである。

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