壁に刺繍を施したかのようなサインデザインの取組
3Dプリンターは今、いろいろな用途に使用され始めている。試作品の製造から、簡易金型の製造、また、徐々にではあるが最終品のパーツ製造にも使用が開始されている。こうした使用拡大の最大の理由は、3Dプリンターの持つ二つのメリット、リードタイムの短縮とコスト削減効果に因るところが大きい。
このメリットにより、これまで実現することができなかったアイデアやデザインが、着々と世に登場している。
本日ご紹介するWALL STITCH (壁面刺繍) PROJECTも、そんな3Dプリンターとデザインの融合がもたらす新しい取組の一つ。
このWALL STITCH PROJECTとは、壁面に刺繍のようなロゴタイプ、サインをほどこすことができるというもの。これまで企業や店舗などのエントランスや壁面デザインは、アクリル板での切抜き加工や、単純な二次元のロゴタイプが主流であったが、このWALL STITCH PROJECT は、そんなこれまでのロゴサインの使い方を変える新たなサインデザインの提案だ。
そこには刺繍感を固い壁に表現するといった斬新なアイデアと、微細な表現を再現するための奥深い3Dデザインの技が存在した。本日はデザインスタジオYOY(ヨイ)と、3Dデジタル技術と3Dプリンターに精通するケイズデザインラボの取組をご紹介。
モノと空間デザインと高精度3Dプリント技術の融合
このWALL STITCH PROJECTを展開するのは、空間とモノをデザインするデザインスタジオYOY(ヨイ)と、3Dデジタル技術とその活用方法に精通したケイズデザインラボのコラボレーション事業だ。
デザインを手掛けるYOY(ヨイ)は、空間デザイナーの小野直紀氏とプロダクトデザイナーの山本侑樹氏によるデザインスタジオ。ミラノサローネでの受賞歴もある国内外で活躍するデザインスタジオだ。
このWALL STITCH PROJECTを始めるきっかけになったのは、白衣ブランド、クラシコ株式会社のエントランスデザイン。このクラシコ株式会社のオフィスエントランスは白衣の内側に施す刺繍をモチーフに固い壁面にロゴサインをほどこしたもので、日本サインデザイン協会が主催するアワードで最優秀賞も受賞している。
これに着想を受け、この微細な糸による刺繍感を3Dプリンターで再現・量産化できないかとケイズデザインラボとの共同プロジェクトを開始した。
WALL STITCH PROJECT で3次元モデリングと3Dプリントを手掛けるケイズデザインラボは、3Dプリンターがまだ注目されてこなかった黎明期から、3D技術に特化してさまざまな製品開発やプロジェクトに取り組んできた企業。いわば日本の3Dプリント業界で最もこの技術に精通するスペシャリスト集団だ。
膨大な試作と検証で、壁面に忠実な刺繍のシズル感を再現
このWALL STITCH PROJECTの最も難しい部分は、固い壁面にいかに糸で縫い付けたかのような刺繍感を演出するかという点に集約される。実際に間近でロゴを見るのと、離れて壁面に施された文字を見るのでは全く見え方が異なってくる。
見る距離や見る場所によって糸や刺繍感、存在感がかわるためだ。例えば、本当の糸っぽくしすぎると逆に壁面で見た場合刺繍感がなくなるといったような問題もあり、距離感に応じた3Dデザインが重要になる。
一見するとシンプルなロゴタイプのように見えるが、実際に3Dプリンターで造形された文字を見てみると、ランダムに糸が縫い込まれた刺繍のシズル感と微細な表現が忠実に再現されている。そこには、文字単体で見た場合ではなく、壁面にロゴタイプを配置し、一定の距離感をもった人の目から見て、いかに刺繍されているように見せるかという細かい計算が施されている。
どのぐらい太くし、細くすれば、「刺繍っぽく」見えるかを3Dプリンターで再現するためには、膨大な試作と検証が行われているのだ。
通常のCADでは再現できないデザインを可能にする独自技術「D3テクスチャー®」
こうした膨大な試作と検証の繰り返しができるのも3Dプリンターならではの取組だと言えよう。これを簡易金型などでやろうとすれば莫大な時間とコストがかかりすぎ到底不可能だ。3Dプリンターであれば、三次元データの時点で多くの課題が修正できる。実は、このWALL STITCH PROJECTを成り立たせているのが、この三次元技術。
WALL STITCH(壁面刺繍)の微細な刺繍感を3Dで再現するのは、通常の三次元CADデザインではない。そこにはケイズデザインラボの独自技術「D3テクスチャー®」が存在した。「D3テクスチャー®」とは、通常の三次元CADでは再現不能な微細な表面テクスチャーを再現する技術といってもいい。
例えば、このWALL STITCH PROJECTの刺繍感を出したテクスチャーを通常のCADソフトで行おうとすると、膨大な作業時間がかかりデータ量も莫大な容量になってしまう。また、3Dの複雑な形状をフィックスさせることはかなり難しく、破綻が起きたり、正確に3Dプリントできない場合も多い。
しかし、ケイズデザインラボの「D3テクスチャー®」を使えば、通常のCADソフトでは自由なハンドリングが難しい微細なテクスチャーや、ランダム・幾何学なテクスチャーをコントロールすることが可能だ。そこにかかるリードタイムは通常のCADソフトよりもはるかに早く、また、表現の幅も実に幅広い。
まさに自然な刺繍感を出すWALL STITCH PROJECTには最適な技だと言えよう。ちなみにこの「D3テクスチャー®」は3Dsystemsの触感デバイス3Dモデラー「Geomagic FreeForm」を使いこなすことで作られ、金型などに求められる微細な加工もできる。
まとめ 建築・インテリア業界への新たな提案
このWALL STITCH PROJECTは、新たなサインビジネスとして建築・インテリア業界に影響を与えそうだ。これまでのロゴパネルや壁面サインは、アクリル板の切り抜きや、二次元印刷、もしくは高価な造形品や照明の入った内照式文字などが多かったため、新たなロゴサインのオンデマンド製造として期待できる。
それはコスト面からも表現のバリエーションからも従来の限定的なロゴサインに革命をもたらすものだ。例えばアクリル板のロゴサインと比べた場合でも、WALL STITCH(壁面刺繍)は、コンクリート、ガラス、タイル、木など様々な場所に取り付けることができるため、通常のアクリルサインや切り文字などと並び、同様に選択肢となるだろう。
また、現在はアクリル系樹脂やナイロン系樹脂で提案されているが、3Dプリンターは様々な素材が利用できるため、石膏や金属、セラミックなどでも可能性が広がる。コスト的ビハインドは、特殊性とデザイン性で十分補いうる。
多くのレストランやアパレルショップなどの店舗、ホテルなどで利用が期待できそうだ。今多くのモノづくりで3Dプリンターの活用が広がっているが、まだまだエンドユーザーが使用する最終製品の製造には至っていない。
その理由はさまざまだが、一つには、手に取って使用されるプロダクトは耐久性や製品保障が求められることなどから、まだまだ金型の量産品が主流となっていることがあげられるだろう。そうした際、このWALL STITCH PROJECTは、新たな3Dプリンターの展開を指し示す画期的な事例なのではないだろうか。
空間とモノの関係値を熟知するデザイナーと、最も三次元技術に精通するスペシャリスト企業ならではの取組だ。
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