エレクトロニクスの製造革命。電子機器の3DプリンターVoxel8が1200万ドル調達

新たな段階に入る3Dプリンターの開発

3Dプリンターの開発も新たなフェーズに入ってきているようだ。先日、いくつかの使用方法が公開されたCarbon3Dプリンターは、100倍近い圧倒的な造形スピードに、射出成形なみの仕上がりを持つCLIP製法により、これまでの3Dプリンターの課題とされてきた、速度と精度という二つの問題を解決することを可能にしている。

このことは、3Dプリンターの役割をプロトタイプからプロダクションへ変化させる本格的な動きとして注目されていい。このCarbon3Dプリンターが手頃な価格で販売されれば、あらゆる可能性が広がり、起業家やメイカーズと言われる人々の動きを加速させることにつながるだろう。

この動きにくわえ、〝素材の多様性゛というもう一つの課題が克服されれば、デジタルものづくりは、既存の製造技術を超える存在として確立されることになる。こうしたCarbon3Dプリンターのような樹脂の造形精度を高める動きの一方で、全く異なる概念とアプローチの3Dプリンターも着々と開発が進んでいる。

それが、樹脂素材にダイレクトに電子回路を組み込むことができる3DプリンターVoxel8だ。Voxel8は度々ご紹介してきたが、いよいよ今年2015年の末に多額の投資を受け、クオリティの高いレベルで本格的に登場するということが発表された。また、このVoxel8に投資される金額も今回の発表で明らかにされたが、その額はなんと1200万ドル(日本円にして推定14億円)にものぼることが判明した。

Voxel8 3Dプリンターはエレクトロニクス製造を変える破壊的な第一歩

この画期的な3DプリンターVoxel8を簡単にご紹介すると、樹脂と導電性銀インクを使用するFDM方式の3Dプリンターで、物体に直接電子回路を組み込むことができる3Dプリンターだ。

これまで3Dプリンターで作ることができるものは、樹脂でも、金属でも、セラミックでも、物体そのものの造形に留まっていたが、このVoxel8が登場することにより、樹脂に直接電子回路を描くことが可能になる。これは電子機器の製造にとってはまさに歴史をかえるほどの画期的な発明で、もしこのVoxel8が浸透すれば、エレクトロニクスのものづくりは大きく変わるだろう。

これまで電子機器の製造は全て、電子回路に電子部品がはんだ付けされたボード、すなわちプリント基板が必要であったが、このVoxel8のように物体にダイレクトに回路図が描くことができれば、プリント基板なども今後は不要になるというわけだ。例えば回路図を直接筐体そのものに描くことができれば、プリント基板の大きさによって製品の形状やデザインを左右されなくなる。

新たな機能、新たなデザインのプロダクトデザインが可能になるわけだ。もちろん、現状のVoxel8は、既存の電子機器のように複雑で高性能な電子機器を作ることはできない。基本はPLA樹脂をベースに、導電性の高い銀インクを回路として塗りこむ機能だ。また、回路を描くことはできるが、抵抗やトランジスタといった電子部品は主導での配置になる。

だが、こうした部分は大した問題ではなく、精密化や自動化は時間の問題だといえる。まさにVoxel8の登場はこれまでのエレクトロニクス製造の歴史をかえる破壊的な第一歩だといえよう。

今年のCESで発表したVoxel8で作られた試作
電子回路を筐体そのものに内蔵する取り組み

CIAだけではなくオートデスクのスパークも投資。アメリカ手動で進む製造革命

以前、CIAの投資機関In-Q-telがVoxel8に出資するという記事をご紹介したが、今回、この出資規模や関係企業の全貌が明らかにされている。今回Voxel8へ出資される金額の総額は1200万ドル(約14億円規模)に登り、そこに参画する企業も、単純な構成ではないということが判明している。

Voxel8は、ARCH Venture Partnersと、Bremar Energey Venturesによって設立されることとなったが、そこには、上記のCIAの投資機関In-Q-telに、さらには3Dデザインソフトの世界的な雄オートデスクも参画している。オートデスクは3Dプリント関連の一大プラットフォームスパーク投資ファンドからの参加を行い、このVoxel8が最終的にエンドユーザーが使用できるレベルのクオリティまで仕上げることを目的としている。

ちなみに、冒頭で述べたCarbon3Dプリンターもオートデスクから投資を受け、その開発と性能向上にスパークプラットフォームが利用されている。

スパークプラットフォームは、3Dプリンターや3Dデザインソフト、3Dプリンターの素材、さらにはクラウドシステムなど、3Dプリント関連のあらゆることを開発するためのオープンプラットフォームで3Dプリント関連のあらゆる企業が参加している。このスパークは完全にオープンというわけではなく、参加できる国と地域、企業は限定されるクローズドオープンプラットフォームということができよう。

今回のVoxel8の設計ソフト自体もオートデスクのプロジェクトワイヤーという電子回路を内蔵デザインできるCADソフトだが、オートデスクはソフトを切り口に完全にハードウェアの抑えにかかっているといえる。

オートデスクのプロジェクトワイヤー

まとめ 接合精度のレベルアップで完全体になる

Voxel8の予定小売価格は8,999ドル(約110万円)ほどの予定だ。この電子機器を作ることができる3Dプリンターが完成することで、今後のエレクトロニクス製品の開発はどのように変わるのだろうか。例えば、筐体と弟子回路の設計を同時に行うことができることで、従来の製法では不可能であったデザインや機能が再現可能になる。

既に3Dプリンターの登場で、新たなデザイン、新たな機能性が登場しているように。また、電子回路の設計や概念も大きく変わってくるだろう。

現在のプリント基板はプロダクトの複雑さから多層化が進んでいるが、これが物体に組み込まれることで、よりシンプルに、より自由に設計できるかもしれない。さらには、このVoxel8などのようなマシーンが汎用かされた時代におけるデザイナーに求められるスキルも異なるだろう。

現在はプロダクトデザインと、CADエンジニアリングが同時に求められるレベルだが、そこにプラスアルファで電子回路の設計も加わる可能性が高い。この全ての3つを身につけたスーパーマンのような人材育成が今後の教育に不可欠かもしれない。しかしここまで来るのには相当な年月が必要であろうし、それ以前にVoxel8型の3Dプリンターの精度が遥かに進化しなければならない。

テクノロジーの発展の影に隠れて見逃されがちなのが、〝品質゛という部分が挙げられるが、とりわけエレクトロニクス製品の製造においてこの〝品質゛という部分が最重要課題になる。どんなに優れた技術であれ、製品を構成するための精度が低ければ、そのプロダクトの〝品質゛は低いものになってしまう。

ましてや電気を使って動くエレクトロニクス製品においては、機械の故障や不良に繋がり、最悪の場合には事故につながるケースも多い。いわば電子回路と設計と実装においては、いかに正しい形で、〝本来あるべきカタチ゛で接合するかが重要になるわけだ。この電子機器、エレクトロニクスの接合の重要さについては、〝はんだ゛と〝フラックス゛の記事で細かくご紹介しているからそちらをご参照していただければと思う。

いずれにせよ、実際に使用するユーザーの安全性と満足感を十分に満たすためには、精度の高い接合技術が求められる。Voxel8の精度がどのレベルまで高められるかに注目したい。

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