全世界150万人が集まる巨大コミュニティGrabCAD
3Dsystemsが数々の企業を買収しつづける一方で、ストラタシスはMakerbotの買収以来、大きな買収行動を行ってこなかった。しかしここにきて新たな報復活動に出ている。
それは世界中から150万人ものCADデザイナーやエンジニアが集まる巨大なクラウドコミュニティGrabCADの買収だ。ストラタシスは昨日同社を買収したことを発表。買収は全て現金取引で行われ9月末までにはすべての手続きが完了することになる。
金額などの取引条件は明かされていないが、大手ITメディアサイトTechCrunchの予想では1億ドル(100億円)近い価値があるとのこと。買収完了後にはGrabCADはストラタシスのグローバル製品·技術グループ内ユニットとして動くことになる。ストラタシスはこれにより全世界から参加する巨大なCAD集団の力を手にすることとなった。
CrabCADは以前もご紹介したが全世界中から3DCADデザイナーやエンジニアが集まる巨大なコミュニティで無料のCADファイルも多数公開されている。本日はGrabCAD買収による新たなストラタシスの展開と、3Dプリント業界に与える影響についてご紹介。
GrabCAD買収のメリット クラウドによる製品開発サポート
ストラタシスのGrabCAD買収はどのようなメリットをもたらすのだろうか。
それはGrabCADの3DCADに関するソフトウェア技術が利用できるといった単純なものではない。GrabCADがどのような企業で、どのようなサービスを提供しているのかを知ることが最もわかりやすい。
とりわけGrabCADの巨大な力を示すのは同社が行っている世界中のデザイナーとエンジニアによるデザインコンテストが代表的だろう。
最も代表的な事例としてはGEとの共同プロジェクトがあげられる。このプロジェクトではGEが製造するジャンボジェット機のジェットエンジンブラケットの改良をGrabCADと一緒に行うというものだ。
その方法が斬新で、GrabCADの巨大なコミュニティから次世代ブラケットのデザインを募り選出するという仕組み。当時このジェットエンジンブラケットのデザインコンテンストが行われたのは昨年末だが、その時に募集されたデザイン案はなんと56ヵ国700以上もの数だ。
審査は3次審査まで行われ最終的にインドネシアのCADエンジニアのデザイン案が正式に採用されることとなった。
このGrabCADと提携した新たな製品開発の方法は採用するGE、そしてGrabCADに参加するエンジニア双方にメリットをもたらしている。
メーカーであるGEにとってのメリットは製品開発の幅、レベル、スピードが大幅に向上できる点。従来自社の開発部だけで製品開発を行なっていた時よりも、はるかにそのスピード、レベルを向上することに成功した。またそれに要するコストも大幅に削減することが可能だ。これは97万人(2013年12月当時のGrabCAD登録者)もの世界中のデザイナーの意見やアイデアを集約することができるためだ。
極端な言い方をすればGEは募集されたデザインやアイデアの中から基準を超える優れたものを選出するだけで済む。
一方コミュニティに参加するデザイナーが得られるメリットも多きい。このコンテンスとでは1次審査、2次審査、最終選考と3段階でわけられたがそれぞれで賞金が得られる。
また、賞金以上に大きなメリットはGEの製品開発の選考に残ったという実績が得られることだ。
かなり長い例になってしまったがストラタシスはこの買収によって、上記のようなクラウドによる製品開発のサービスやサポートを提供することが可能になる。その力は巨大で、150万人(2014年9月現在、わずか9カ月で50万人以上増加)のアイデアやデザインを利用することができる。
また、現在GrabCADに格納されているCADファイルは52万点にもおよび、1日当たり5万ファイルが無料ダウンロードされている状況だ。こうした膨大なデータや世界中から集まるデザイナーたちの力により、ストラタシスは3Dプリンターの販売だけではなく製品開発のコラボレーションサービスを提供することができる。
まとめ
ストラタシスはこの買収によって単なる3Dプリンターメーカーとしての域を脱し始めている。
3Dsystemsもそうだが、3Dプリント技術を中心に、ソフトウェア、3Dデザイン、製品開発サポートの分野までカバーするトータルサービスになりつつある。
このビジネスモデルは二次元プリンターのように機器としてプリンターを販売した後、消耗品であるインクの販売で儲ける単純なビジネスではない。両社の動きは、3Dプリンター自体の製品開発という枠を脱することで、特許切れによって無尽蔵に巻き起こるであろう3Dプリント開発競争に巻き込まれないための戦略だ。
インターネットとクラウド技術、そしてハードウェアのオープンソース化の流れは、テクノロジーの発展のスピードをすさまじい勢いで高めている。これにより商品開発のスピードが極端に早くなり、新技術を搭載した製品を発表したとしても、すぐにそれを上回る商品が登場してきてしまう。
こうした製品開発競争に打ち勝つためにはその製品が関連するさまざまなサービスを抑え、トータルで主導的地位を築くことが不可欠だ。特許が切れたとはいえ、両者は20年以上もこの分野では歴史もあり、点から面に拡大するだけの条件がそろっていると言える。
製品開発まで含めたモノづくりのトータルサービスまで拡大した両社の地位は、ちょっとやそっとの新興企業の登場ではゆらぐものではなさそうだ。
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