はんだ|ミクロレベルでものづくりを高品質にする必須の素材

はんだは電気があらゆる分野に浸透する現代では必須の素材

人間の歴史は、電気の応用によって一変したといってもよい。電気の流れをコントロールし、さまざまな情報を処理することで、いろいろな機能を持つ機械を生み出し、生活を豊かにしてきた。今では身の回りのあらゆるモノが電気によって動く時代になってきている。極端な言い方をすれば、現代の私たちの生活は、電気と電子機器がなければ成り立たないといっても過言ではないだろう。

テレビ、パソコン、スマートフォン、洗濯機や冷蔵庫、炊飯器、オーブンレンジ、エアコン、湯沸し器など、ありとあらゆるものが電気でコントロールされ動いている。ここにあげた機械のうち、一つでもなければ、私たちの生活はよほど不便に感じるだろう。例えばノートパソコンがなければ仕事一つできないという企業は多数存在するに違いない。こうした電気に機械の浸透は私たちの生活の隅々まで浸透し始めており、その分野は拡大の一途をたどっている。

自動車も完全な電気自動車が登場してきている状況だし、家の生活インフラもオール家電はもはや当たり前になりつつある。また、IOT(モノのインターネット化)が進むこれからの時代、あらゆるモノがソフトウェアアプリケーションでコントロールできるようになるが、そのためには、無線で電波を受信し、モノを作動させる仕組みが必要に成る。

それは言うまでもなく電気によるコントロールだ。このように現代、そしてこれからの未来において、電気によるモノがますます重要になっていることを踏まえて、その機械を動かすための必須の要素はんだについてご紹介したいと思う。

※本記事は7000字近い長文になります

はんだとは? 電気を通す接着剤

はんだというと、まずはじめに思い浮かぶ言葉がはんだ付けや、はんだごてといった言葉だろう。今の学校の授業ではんだ付けが行われるかどうかは不明だが、ひとむかし前は技術の授業などで、はんだ付けと電子工作の授業なども学校で行われていた。

このように、はんだは、電子工作や電子機器に馴染み深い人にはありきたりな素材だが、一言で言うと、あらゆる電気で動く機械を動かすための必須の素材といってもいいだろう。むしろ電気で動くモノで、はんだ

が使われていないものは無い。もう一歩突っ込んだ言い方をすると、電気で動くモノは、簡単なものであれ、複雑なものであれ、必ずモノを動かすための電子回路が存在する。

その電子回路にはあらゆる無数の部品が使用されているが、電子回路と電子部品を接続させるための接着剤として、はんだは使用されるのだ。接着剤といってもただの接着剤ではない。

金属と金属を適切に接着し、なおかつ電気を適切に通さなければならない。また接着させ、電気を適切に通すためには、単純にくっつけるだけではいいというものではない。はんだは、電子部品と電子回路が描かれた基板をくっつけるのに、両者の素材としての機能をそのままに保ちながら、くっつけることが可能な唯一の素材なのだ。

極めて当たり前のことを言うようだが、部品を電子回路通りに接着しても、電気をスムーズに通すことができなければ、この世に存在する、ありとあらゆる製品は動かない。また、あらゆる電気で動く機械は、電子回路のうちの一箇所でも適切に接続されていなければ全く動かなくなってしまう。それでは、はんだのもう一つの機能を次でご説明しよう。

はんだは何でできている 二つの機能を実現させる秘訣

それでは、はんだは電気を適切に通すために、どのようなモノでできているのだろうか。ここではんだに求められる「性能」をもう一つご紹介しよう。電気を通すためには、しっかりと電子部品と回路基板を「くっつける」ことも重要だが、基板や電子部品の表面を壊さないでくっつけなければならない。

接着できたとしても、基板の表面や電子部品の表面の材質が壊れてしまってはダメ。例えば金属と金属をくっつける場合、溶接という手段もあるが、溶接は金属の表面を溶かしてくっつけることから、素材そのものを壊してしまう。部品や回路の表面を壊してしまえば、その回路図は全く機能しなくなってしまう。こうしたことから、はんだは、基板の表面も、電子部品の表面も壊すことなく、この二つをくっつけることが出来る唯一のモノになる。

この「電気を通す」と「部品や基板の素材を壊さずくっつける」という機能を達成するために、はんだを作る素材として、主に3つの素材が使用されている。それは「スズ」「銅」「フラックス」の3つの素材だ。「スズ」と「銅」は言うまでもなく金属で、電気を通すために必要な素材だ。最近では導電性インクなどが登場したり、導電性フィラメントといった電気を通すプラスチック素材などが登場しているが、最も導電性が高く、機械を動かすための基板や電子回路に使用するには、金属がもっとも最適なのだ。

以前はここに鉛が使用されてきたが、人体に有害や、自然環境に良くないという理由から今では鉛を使用しない鉛フリーはんだが主流。また電気を通す効率性を高めるためには、単なる錫や銅ではなく、より夾雑物が少ない、純度が高い金などを使用するのがベスト。

こうした夾雑物は原料となる錫や銅にはあらゆる種類の元素が含まれており、数百種類近くにも及ぶ。それをいかに分析し、取り除き、極力ピュアに近づけることが高い導電性を発揮する鍵になるわというわけだ。ちなみに以下で詳しく述べるが、複雑化し多層化する現代の電化製品では、使用する回路も非常に複雑になり、部品も超小型化されている。

そのため、最近注目されているような導電性インクのペンや、導電性のフィラメントでは作ることは不可能。もっと複雑化し、導電効率を同等以上に高めることができなければ、単純な電子回路の試作品にしか使用することは適さない。それでは次に、はんだの成分で最も重要とも言える、フラックスの機能と役割についてご説明しよう。

金属がはんだでくっつく秘密、フラックスが無いとくっつかない

フラックスという言葉はあまり一般的には馴染みがないかもしれないが、フラックスは、はんだや電子機器にとって最も大切な素材の一つだ。むしろ、フラックスが無いと、はんだは全く機能しないし、現代のエレクトロニクス製品は作ることができない。フラックスとは一般的には化学で用いられる溶剤のことを指すが、はんだに使用されるフラックスは松脂を抽出した溶液が使用される。

松脂は松ぼっくりなどでおなじみの松ノ木から取れる天然樹脂だ。はんだに使用されるフラックスはこの松脂のエキスを主成分とし、さまざまな溶液を配合したもので構成される。フラックスの成分の話の前に、フラックス自体がどのような機能を持っているかご説明しよう。はんだは既に述べてきたようにスズや銅などの金属で構成されるが、金属と金属をくっつける場合に欠かすことができないのがこのフラックスだ。

フラックスは金属表面や部品の表面に付着する汚れや酸化物を除去する働きがあり、この酸化物を除去しなければ金属と金属はくっつけることができないのだ。すなわち、はんだにはフラックスが無いと「くっつける」という重要な機能を果たすことができなくなる。

たとえば、一般的な電子工作などで使用されるワイヤー状の糸はんだだが、よく、はんだの切り口を見てみると真ん中に穴があいているのがわかる。糸はんだの場合は、この真ん中の穴にフラックスが入っており、はんだごてをつかって溶かした際、まずはじめにフラックスが溶けでてはんだ付け部分に広がる。そして目に見えない表面の酸化物を取り除きくっつくというわけだ。

このようにフラックスは、はんだの機能そのものを左右する最も重要な核となる部分。その仕上がり如何によっては、電子機器の性能にも大きく影響する事になる。それでは次に現代のエレクトロニクス製品の製造にとって非常に重要になる機能、フラックスが持つもう一つのはんだの機能「切れる」についてご説明しよう。

松脂から抽出されるフラックス

パソコン、スマホ、液晶テレビ、電化製品の極薄化の背後にはんだあり

これまではんだの「くっつく」という性能について、その役割や重要性をご説明してきたが、じつは「くっつく」だけの機能じゃ現代のエレクトロニクスの製造において素材として不十分になる。今では当たり前のように、パソコンやスマートフォン、タブレット端末、液晶テレビなど多くの電化製品が極小化、極薄化してきている。

たとえば、今では当たり前のノートパソコンだが、その薄さは年々進んでいる。始めはデスクトップパソコンのように大きな箱型をしていたが、折りたたんで手軽に持ち歩くことができる。また、もはやパソコンといってもいいスマートフォンは、驚異的な薄さだ。iPhone6は、なんとその厚みは6.9mmしかない。

厚さ1センチもない超極薄化を実現している。しかしその一方で、パソコンやスマートフォンなど電子機器本体は薄くなっているのに、性能は飛躍的に向上している。処理速度も過去の箱型のデスクトップより格段に早く、さまざまなソフトウェアアプリケーションも使用することが可能だ。

じつはこのように電子機器が小型になり、薄くなったにも関わらず、性能が向上した背景には、基板や電子部品が進化したということが挙げられる。従来よりもはるかに小さい部品で数倍の性能を出すことが出来るには一つの部品に詰め込む情報量を、従来よりもはるかに多くしなければならないのだ。そうするためには、電子回路が複雑化し、尚且つ電子部品も従来よりも超小型化される必要がある。

そうすることで、小さいボード1枚に、ものすごい数の電子部品を敷き詰めることが可能になる。これが小型化し、格段に薄くなったにも関わらず、コンピューターの性能を向上させる秘密になっている。しかしこうした部品の薄型化、小型化を可能にする背景には、はんだの力が大きく貢献しているのだ。

たとえば、スマートフォンやノートパソコンの基板にはミクロレベルの超微細な細い線が描かれているが、その線、一つ一つにはんだが使用されている。ここで求められるはんだの性能はしっかりとくっつき、電気を通す働きを担っているが、同時に、この極小レベルでのはんだ付けを可能にするにはもう一つ、欠かすことができない重要な機能がある。それが「切れる」という機能だ。

わずか薄さが6.9mmしかないiPhone6
※アップル

「くっつく」だけじゃダメ、「切れる」ってなんだ?

たとえば、パソコンやスマートフォンなどに限らず全ての電子機器は、スイッチを押すと、電気が流れ使用することができるようになる。その際、電気の流れは基板に描かれた電子回路のとおりに流れないと、機械は正常に機能しない。たとえば、超薄型のスマートフォンや複雑な機能が求められるノートパソコンなどの基板には超極小レベルの複雑極まりない電子回路が描かれているが、回路図通りに正確に電気が流れなければ、その製品は不良品ということになってしまう。

つまり、ここではんだに求められる機能とは、どんなに複雑でミクロレベルで細かい回路でも、1本1本の極小レベルの線をしっかりと「はんだづけ」することできなければならないわけだ。たとえば、1本でもとなりの線にはんだがひっかかってしまっては、その機械は正確に機能しなくなる。

そのはんだ付けの際に決してとなりの線に引っかかることがない切れ味のことを、業界用語で「切れる」という。良質なクオリティの高いはんだはしっかりと「くっつく」だけではなくしっかりと「切れる」ことも重要になってくる。ちなみに、この「切れる」という機能は、電子機器自体の性能だけではなく、生産する現場にも大きなメリットを与えることになる。

たとえば、しっかり「くっついて」素早く「切れて」離れれば、それだけ「はんだづけ」が早くなり、生産するスピードも早くなる。同じ製造マシーンを使用しても、しっかりくっついて素早く離れる「きれ性」を持つはんだに取り替えるだけで、生産スピードが早くなるということをしめしている。これは大量生産を行う上で、素早く生産できたほうが、無駄な費用がかからなくて済むというコストメリットにもつながることになる。

複雑な電子回路でも、しっかり「くっついて」、隣にかからないように「切れる」ことが大事

「くっつく」と「切れる」を実現するにはフラックスが鍵

このように、はんだの二つの特性、「くっつく」と「切れる」という機能が、いかに現代のエレクトロニクス製品にとって重要で、製品そのもののクオリティと生産性にまで影響を与えているかがご理解できたと思う。そして優れた「くっつく」と「切れる」という性能を実現するためには、はんだの材料であるフラックスが鍵となるのだ。

フラックスについては松脂から抽出される溶液と述べたが、実はこの松脂ベースの溶液にさまざまな成分を加え作られる事になる。そのノウハウははんだメーカーによってさまざまであり、門外不出のモノになる。その成分を発見し、実際に金属粉末と混合させくっつき性と切れ性を実験し、より良いものに試行錯誤するということが求められるわけだ。そこには既成概念にとらわれない飽くなき探究心が必要である。

また、電化製品の製品を向上させ、生産性を高める性能を有するはんだを作り出すためには、原料からものすごい量の夾雑物をとり除く必要が出てくる。松脂の中に含有される水分や、銅や鈴なに含有される電気を通すのとは関係がない余計な鉱石など、その種類は数百種類にも及ぶ。

その不純物では到底肉眼では確認することができない微細なもので、高倍率の顕微鏡や高額の測定器を使用してチェックされることになる。つまり、何が言いたいかというと、高機能で故障がない高品質な電化製品は、回路図も複雑だが、ミクロレベルでの品質管理が要求されるというわけだ。

目に見えないレベルの糸くず一本が、その製品の回路を遮断し一発で不良品にしてしまうということがありうるのである。言い方を変えれば、高性能な、はんだにこだわるということは、高性能な製品開発を実現することができるということである。

まとめ はんだと接合技術はものづくりの本質に及ぶ

これまで述べてきたとおり、はんだは、単なる電子機器を作るための素材ではないことがわかるだろう。その範囲は接合技術という観点から全てのものづくりに通じるものだ。いわば「ミクロレベル」までこだわった接合技術という視点は、単なる電子回路と電子部品をくっつけるということから、それ以外のあらゆるパーツ、部品などの接合に及ぶ。

改めて説明するまでもなく、この世に存在するほとんどのモノ、製品が、無数の物体の集合体で成り立っている。そのため、一箇所でも部品がおかしかったら、一箇所でも接合箇所がおかしかったら、その製品は「いい製品」とは言えないのではないだろうか。

すなわち「ミクロレベルの接合技術」という部分に特化するということは、あらゆる「ものづくりの現場を、本来あるべき形にする」という思想まで及ぶということに繋がるわけだ。この着眼点は、どんなミクロレベルの不良も見逃さないという視点を産み、同時にそれよりも大きいレベルのモノのあらゆる管理にまで目が行き届くということに繋がる。

たとえば、製造現場である「工場が汚い」ということはモノとモノを組み合わせて作られるモノづくりの現場において致命的な欠点につながるのだ。万が一、この基板に汚れが付いたら、またはホコリが付いたら、電気が本来通らなければならない形で通らなくなり、結果不良品になってしまう。

「ミクロレベル」で接合に気が付くということはそういう部分まで視点を広げるのだ。ミクロレベルの接合技術に目が行き届くということは、無数のパーツでなりたつ現代のあらゆる製品を、高レベルで故障の無いクオリティに保つことにつながる。技術は、そして製品は、その製品を使う人が常に幸せな気持ちで、使用されなければならない。はんだはそうした、正しいものづくりの在り方を指し示す素材だといえよう。

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