3Dプリントで高度な複合材料と同じ性能を実現。PLAフィラメントフレームの自転車

3Dプリンターで進化を遂げる自転車のフレーム

自転車は19世紀にドイツで開発されて以来、さまざまな進化を遂げている。1817年に始めて登場した自転車は、ペダルがなく足で漕ぐという今では奇妙な形をしていた。その後1860年代に入り金属フレームが登場、ペダルが取り付けられ、ほぼ今の姿の原型が完成したと言える。

それからおよそ150年、金属フレームから本各化した自転車のフレームは、さまざまな素材の開発により、目覚しい進化を遂げている。かつては木製であったものが、金属に変わり、今ではチタンやアルミニウム、さらには炭素繊維などが登場することで、軽くて丈夫という機能が大幅に強化されているのだ。

自転車フレームに求められる機能は、人間の体重を支え、同時に前後の車輪を連結させるという役割を担っているが、そのためには、軽量で尚且つ高い強度が要求される。炭素繊維が採用されている理由も、高い剛性と引張り強度を持ち、尚且つ驚く程軽いという機能からにほかならない。

そんなさまざまな素材で進化を遂げる自転車フレームだが、今新たに3Dプリント技術を使うことでこれまで余り使用してこなかった素材で機能させることを可能にしている。本日は3Dプリンター用PLAフィラメントで作られたEUROBIKEアワード2015を受賞した3Dプリント自転車をご紹介しよう。

イタリアのデザイン事務所Eurocompositiが開発したPLA樹脂の3Dプリントフレーム自転車Bhulk

PLA樹脂の弱点を、3Dプリント構造で克服。金属フレームの代替に

PLA樹脂は、もともと石油由来の樹脂であるABS樹脂の代替目的で開発されたものだ。ABS樹脂はプラスチック素材の中で最も汎用性の高い素材で、家電製品や日用品などありとあらゆるものに使用されているもの。PLA樹脂は環境的配慮から植物由来として開発されたものだ。

ABS樹脂と同様射出成形などの金型で使用できるほか、FDM3Dプリンターを代表する素材としても有名だ。今回自転車のフレームにこのPLAフィラメントと3Dプリントを使用する取り組みを行ったのはイタリアのデザインスタジオEurocompositi。PLAフィラメントによる造形物の特徴は、固くいが、引っ張り強度などの粘りが低いのが特性と言える。

また同時に、高熱に弱いという特徴を持っている。この自転車フレームの画期的な点は、PLA樹脂の持つ弱点を克服し、従来の金属加工された金属フレームの代替としても使用することができるということを実証した点にある。

冒頭でも述べたとおり、自転車フレームには、人間の体を支える強度と、車輪を回転させ自転車をスムーズに動かすための軽量さが求められるが、3Dプリンターを使用すれば、こうした高度な機械的特性を要求される自転車フレームも本来、素材として適していないPLAフィラメントで作ることができるというわけだ。

PLA樹脂とFDM3Dプリントで製造 ※写真出処AENIMAL

高度な3DモデリングとFDM3Dプリントで、高い剛性と耐久性を実現

このPLA樹脂によって作られた自転車フレームは、高度なパラメトリック3Dモデリングソフトウェアを使用し設計が行われている。フレームの内部構造は下記の断面図の写真が示すとおり、格子状の中空構造をしており、これにより自転車フレームに求められる耐久性と剛性を実現しているというわけだ。

本来、自転車フレームはチタンやアルミニウム、ニッケルクロムモリブデン鋼といった合金スチール、さらには炭素繊維といった、いわば素材自体が高い機械的特性を持ち、機能性を持つ素材が使用される。しかし、3Dプリントと高度な3D設計があれば、素材自体に機械的特性を持たなくても、複合材料と同等の機能を再現することが可能となる。

これは、自転車製造の歴史に画期的な提案を投げかけるものだろう。現にこのバイクは、自転車のデザインと製造の専門家の厳正な審査を受け、自転車業界で最も権威ある賞の一つ、EUROBIKEアワード2015を受賞している。

高度な3Dモデリングと3Dプリンターで複合材料と同等の精度を実現

3Dプリントでコストとリードタイムも革新的な進化を遂げる

また、この自転車フレームは、単純に従来の金属フレームなどの代替を可能にしたわけではない。その製造にかかるコストや時間の面においても画期的な結果を残している。例えば、材料コストも、高度な合金や炭素繊維に比べ、PLAフィラメントを使用することから、はるかに安価で済む。

またリードタイムに至っては、3Dプリントの特性を活かした高速生産が可能だ。その後3Dプリントされたフレームは、複数のパーツから構成されるがアッセンブルの方法も簡単で非常に迅速に組み上げることができる。さらには植物原料というPLA樹脂本来の役割にそって、廃棄する場合は溶融か粉砕して廃棄することが可能。環境性能も高いというわけだ。

ちなみに、このPLAフィラメントによるフレーム自転車は大量生産する計画はなく、エンドユーザーの多様なニーズに合わせて、20パターンの異なる色で利用できるようにするとのこと。カスタマイズでの展開も気になるところだ。

パーツを3Dプリントアッセンブル

PLAフィラメントについては「3DプリンターのPLA(ポリ乳酸)フィラメント完全ガイド」でその特長やおススメ製品を御紹介していますのでそちらをご参照ください。

まとめ デザインと機能を変える3Dプリンターの力を最大限発揮

今回ご紹介したPLA樹脂によるフレーム自転車は、3Dプリンターの最大の特徴の一つ、デザインと機能を変えるという点を如実に表している。本来、強固で耐久性に乏しいPLA樹脂を、高度な三次元モデリングと3Dプリント技術によって独特の形状に仕上げ、複合材料と同等の性能を再現することができるのは、データからダイレクト製造することができる3Dプリンターならではのものだ。

また、これによりパーツとしての性能を向上させるだけではなく、生産性に関しても従来の製法に比べ革新的な効率化をもたらしている。また、従来の大量生産体制に見られる量による効率化とは違い、機能と性能、顧客満足度を全て高める効率化が3Dプリンターの特徴とも言える。

安価でスピーディに高性能なものを作り、尚且つ一人一人のエンドユーザーの細かい要望に応えることができる。これこそ3Dプリンターがもたらす真の変革であり、それを具現化した典型がこのPLAフィラメントの自転車フレームだと言えるだろう。この技術の可能性をますます感じさせてくれる取り組みだ。

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