ドイツの大量生産を可能にする金属3Dプリンターの開発

続々と進む新型の金属3Dプリンターの開発

2014年の特許切れ以降、廉価版や新型の開発が進むレーザー焼結の3Dプリンター。日本でも東芝が2017年以降の発売を目指し、従来のレーザー焼結の10倍高速な金属3Dプリンターを「次世代金属3Dプリンター」として開発を行っている。こうした新型開発や廉価版開発が進む中、一方では全く異なるアプローチから金属3Dプリンターの開発が進められている。

とりわけ金属3Dプリンターではドイツが先進国だが、本日ご紹介する新たな3Dプリンターは金属加工の分野に大きな影響を与えそうだ。もともと金属の3Dプリンターが注目される遥か以前から、ドイツは独自にこの技術の開発と発展を行ってきた。金属粉末のレーザー焼結法のメーカーでもEOSやConcept Laser、MTT Technologiesなどこの分野ではトップを走るメーカーが存在し、その市場シェアはゆうに70パーセントを超える。

また、直接金属製造ではないが鋳造用砂型専門の3DプリンターのメーカーとしてVoxeljetなども存在する。金属加工方法には古来から存在する鍛造や鋳造、圧延といった加工方法が存在し、こうした加工方法では日本はトップクラスだが、3Dプリント技術に関してはドイツの方がはるかに進んでいる状況だ。本日はドイツの最先端研究所であるフラウンホーファー協会の金属3Dスクリーンプリンターをご紹介しよう。

金属3Dプリンターで一歩先を行くドイツ。新たな概念で世界を凌駕

金属の3Dプリント方法は、特許切れによって注目されるレーザー焼結方が注目されているが、基本的に大きく大別すると二つの加工方法に分類することができる。第一が粉末状の金属を熱によって融合し三次元の物体にする方法。レーザー焼結はこの方法に分類され、融合方法はレーザー以外にも電子ビームやアーク溶接という手法が登場している。

ちなみにレーザー焼結では、ドイツのEOSが圧倒的なシェアをもっており、電子ビーム溶解の金属3Dプリントでは、スウェーデンのARCAM社が1997年以来、主体的な地位を確立している。第二の加工方法が、バインダージェット方式である。この方法はステンレス鋼、青銅やタングステンなどの金属のパウダーをバインダーの噴射によって結合させ、加熱して焼結する仕組み。この分野ではExOneや、上記の砂型3DプリンターのメーカーであるVoxeljetが代表的な存在だ。

今回ご紹介するフラウンホーファー協会が開発する3Dプリンターは、第二のバインダージェット方式を利用したものである。通常3Dプリンターというと、多品種小ロット生産が可能で、カスタマイズが可能ということが売りであるが、このフラウンホーファー協会の3Dプリンターでは小型の金属パーツを一度に大量に製造することができる。

またその素材の種類も非常に多岐にわたっており、現代の金属パーツで使用されるほとんどの素材に対応しているといっても過言ではない。それではこの革新的な製造技術、3Dスクリーンプリント技術をご紹介しよう。

大量生産を可能にする3Dスクリーンプリントとは

フラウンホーファー協会の3Dスクリーンプリント技術とは、二次元で使用されるスクリーン印刷の技術を応用したものだ。ちなみにスクリーン印刷とはインクをメッシュ状の糸の間から押し出して画像パターンをプリントする方法で、プリント基板などの製造で必須の技術。フラウンホーファー協会の3Dスクリーンプリント技術は、言うなれば三次元のスクリーンプリントというもの。

通常、金属粉末を噴射して造形するバインダージェット方式には金属粉末を添着させるために結合剤を使用するが、この3Dスクリーンプリントでは、あらかじめ結合剤と金属粉末をミックスしたペースト状のものを使用し、コンピューターで生成されたマスクパターンに応じてペーストの層が構築される。

通常ペーストだけの状態では積層することが不可能なため、層ごとに焼結し固め次のパターンを積層するという手法がとられる。言うなれば、スクリーンプリントで使われるインクの代わりに、金属ペーストを使用し積み上げて物体にする方式だということができる。まさにバインダージェット方式とスクリーンプリントが融合した新たな3Dプリント技術だ。

バインダージェットとスクリーン印刷の融合
超高精細に金属パーツを生成可能

高性能な金属パーツを年間70万ユニット生成可能

実はこの3Dスクリーンプリントの技術が開発されたのは20年以上も昔だ。特許が取得されたのが1993年。最初に開発されたものが2008年であり、2014年以降更なる進化を遂げている。ちなみに現在開発されている第一世代の3Dスクリーンプリンターでは、一回の3Dプリントによって3500もの小さな鉄の管を生産することが可能となった。

またそのクオリティは幅60ミクロン、高さ100μm以下のアスペクト比で生成することが可能で、年間70万ユニットのパーツ製造を行うことができる計算。またさらに、従来のバインダージェット方式のように物体の周囲をおおう過剰な粉末を除去することなく、ダイレクトに中空部品の製造が可能。

鉄、銅、チタン、タングステン、ランタン、モリブデン、アルミニウム、タンタル、コバルト及びニッケルといったさまざまな金属素材に使用できるほか、セラミック材料を組み合わせるなど、異なる金属を融合した形でも造形出来るという。この第一世代のマシーンの造形スピードは一時間に80から200 cm³のオブジェクトを生成することが可能で、10テーブルをセットアップすることにより1時間で1000 cm³以上の速度を達成することが可能だとしている。

言うなれば超高精細のあらゆる金属パーツを量産することができる最新型の金属3Dプリンターだということができるだろう。

鉄、銅、チタン、タングステン、ランタン、モリブデン、アルミニウム、タンタル、コバルト及びニッケルなどを作れる

まとめ 最先端を生み出す仕組み

フラウンホーファー協会は、ドイツに67箇所もの研究所を持つヨーロッパ最大の研究機関だ。23000名以上にものぼる研究スタッフに加え、年間17億ユーロにも及ぶ豊富な研究予算をもち、ドイツ連邦政府30パーセント、企業70パーセントの割合で研究費を拠出する官民連合のハイテク研究機関と言い換えてもいい。

ちなみにアメリカや日本にも出先機関を設けており、あらゆる産業分野において利用できる技術開発を目指している。その分野は、航空宇宙、自動車、エネルギー・環境、医療技術、エレクトロニクス、プラント開発、造船、鉄道車両、製造、包装産業、建設など多種多様な業界に及ぶ。このフラウンホーファー協会は、単純な研究開発機関ではなく、ドイツの産業を牽引していく役割を果たしているといってもいい。

面白いのはその仕組みで、フラウンホーファーモデルと呼ばれる独自の契約方式で研究プロジェクトが進められており、産業界からより多くの予算を獲得しなければ研究開発が進展しないようになっている。これにより研究開発の戦略的方向性が明確化され、より実用的で産業競争力を高める研究開発が進むようになる。今回ご紹介した3Dスクリーンプリントもこうした厳しい条件をクリアして進められてきたプロジェクトであり、その開発レベルは従来の3Dプリンターの概念を変えるものに違いない。

3Dプリンターでの大量生産では3Dsystemsがプラスチックパーツでの大量生産用の開発を行っているが、この3Dスクリーンプリントはその金属版と言い換えてもいい。しかもあらゆる金属素材に対応し、高精細でそれを可能にするものだ。世界中で金属3Dプリンターの開発が進む中、ドイツはその一歩も二歩も先を行くようだ。

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