炭素繊維からガラス繊維までコンポジット材料に特化。4倍に拡大した3DプリンターMarkForged

拡大するデスクトップ3Dプリンター市場とその課題

年々と市場規模が拡大する3Dプリンター。とりわけ低価格なデスクトップモデルの市場は年を追うごとに拡大傾向は続きそうだ。例えば、アメリカの2015年度の3Dプリンターの販売台数は、2014年度に比べて64パーセントも増加したとされており、コンシューマー協会が発表した2015年度のセールス予測レポートでは、デスクトップ3Dプリンターの総売上高は1億5200万ドルにのぼるとされている。

この3Dプリンターの普及拡大の背景には、さまざまな要因が挙げられるが第一に低価格化、第二に性能向上といった要素が挙げられるだろう。しかし市場が拡大していくと同時に、大きな課題も挙げられる。デスクトップタイプの3Dプリンターがこれほど拡大している背景には3Dプリンターの製法特許の期限切れが大きいが、その結果としてありとあらゆる新機種が登場しつつある。

光造形、FDM(熱溶解積層法)、レーザー焼結法など、ほぼ全ての3Dプリント技術の基本的な製法特許が切れたため、市場に有象無象の廉価版が登場し玉石混合の状態に陥っている。2014年度から2015年度にかけて、新たな3Dプリンターのリリースを目にしない日は無いと言っても過言ではなく、次から次に低価格、性能向上による廉価版が登場してきている。もはやその全ての製品をご紹介できる域を超えた拡大を見せているが、一点、本当に売れているのだろうかという疑問も感じざる負えない。

玉石混合の廉価版。生き残るためには素材に特化した機能が必要

基本的に3Dプリンターは元来が製造プロセスにおけるプロトタイプを作るためのものであった。それがいくら低価格になろうとも、性能がある程度進化しようとも、ハイエンドなレベルでさまざまな素材を扱えるストラタシスの3Dプリンターのようなものでなければ、最終品に使用することは難しい。

そのため、基本的に現状のデスクトップタイプの3Dプリンターはどれほど進化したとしてもプロトタイプを作るか、教育向けとしてしか使用することは難しいのが現状である。つまり何が言いたいかと言うと、中途半端な機能と、限定された素材だけでは形状確認程度にしか使用できないということだ。

例えば最終品としての特性(機械的強度や耐熱性といった道具として使用できる特性)が備わっていなければ、いくらフルカラーで造形できたからといって、そのオブジェクトが使用できる範囲は極めて限られる。個人の趣味で楽しむだけか、プロトタイプという従来の機能の範疇でしか使用する意義は無い。「誰かのために」というものづくりの根本的な精神とは全く関わりが無く、いつまで経っても単なる形状確認のためのマシーンである。

そのため、これからの廉価版の3Dプリンターに求められる機能も、もはや単純な造形精度や、スピード、価格という要素だけではなく、「誰かのために」というものづくりの根本を満たす特別な技術がなければならない。いくら造形精度やスピードが向上し低価格な機種が登場したとしても、それで作り出されるオブジェクトが「何に使用できるか」ということが明確でなければ、今後生き残っていくことは難しいのではないだろうか。

このような大いなる疑問が残る中、特別な素材に特化することで、売上販売台数を4倍に増加させたデスクトップ3Dプリンターが存在する。顧客にはGEや日産、フィリップスやエアバスといったハイテク企業など多くの工業製品を製造する企業に納入し、爆発的な成長を遂げたコンポジット材料の3DプリンターMarkForgedをご紹介しよう。

対前年度比で400パーセントの成長。拡大するMarkForged

MarkForgedは、ちょうど2年前、2014年の1月にご紹介したデスクトップタイプの3Dプリンターメーカーだ。炭素繊維を始めガラス繊維、ナイロン(ポリアミド)、ケブラーといった高機能素材の3Dプリンターとして登場したメーカーで、一般的なデスクトップタイプの3Dプリンターの材料であるABSフィラメントよりもはるかに強度に優れるパーツを作り出すことができる。2014年度のリリース時点では試作プリントの公開のみであったが、今回のMarkForgedの発表では2015年度の年間の収益が対前年度で400パーセントの成長を達成したとのこと。

既に導入されている業界は自動車産業や航空宇宙産業、機械加工サービスなどを中心にさまざまな業界で利用が開始されている。以下はMarkForgedの顧客企業だが、そうそうたるハイテク企業が名を連ねている。実際にこのMarkForgedがどのような機能を持ち、この3Dプリンターによって作り出されるオブジェクトがどのような用途に使用することができるのかを改めてご紹介しよう。

自動車や航空宇宙産業などハイテク企業への導入が進む

炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー、3つの機能性パーツを作れる

MargForgedが開発する3DプリンターMark Oneはたった一つの機能性に特化している。それは「プラスチックを使い金属のような高強度なオブジェクトをオンデマンド製造する」という点に凝縮される。上記でMark Oneの使える素材を4種、炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー、ナイロン(ポリアミド)をご紹介したが、基本的には、ナイロン(ポリアミド)をベースに上記3つの素材、炭素繊維とガラス繊維、ケブラーを混合するという製法になる。

これがMark One3Dプリンターは、二つの押出ノズルを搭載しており、ナイロン(ポリアミド)を押し出すノズルでベースとなる物体を造り、そのナイロン(ポリアミド)を上記3つの素材で補強するという技術になる。このMarkForgedの独自特許によって作り出されたオブジェクトは、アルミニウムよりも高い強度対重量比を実現している。ちなみに炭素繊維は軽量であると同時に最高強度を持ち、最高の熱伝導率を有している素材。最大限の剛性と強度を必要とするアプリケーションに最適な素材。

一方ガラス繊維は、もっとも費用対効果の高い素材。炭素繊維の2倍の重さで、40パーセントの硬さを持つ。そしてケブラーは、MarkForgedが開発した素材で、柔軟性と最高の耐磨耗性を持つ素材。耐久性と耐衝撃性のあるパーツを作るのに最適である。まさにMarkForgedの3DプリンターMark Oneは、特別な機能性を求められるパーツ製造と試作に最適な性能を発揮するというわけだ。

また、この3つの材料ごとの物性テスト、環境試験をMarkForgedは長年実施しており、材料の性能を示すデータシートも用意している。それでは次に、具体的なMarkForgedの用途などについてご紹介しよう。これによりMarkForgedが単なる廉価版の3Dプリンターではなく「何に使用できるか」ということが明確になる。

炭素繊維の3Dプリントコンポジット。軽量、最高強度を実現
ガラス繊維の3Dプリントコンポジット。費用対効果に優れ炭素繊維の2倍の重量、40パーセントの強度を持つ
独自素材のケブラー。柔軟性と最高の耐磨耗性を持つ素材。耐衝撃性に抜群の効果
ナイロンポリアミドベースのコンポジット技術

ハイエンドモデルのような機能性。治具から機能性パーツの製造まで

MarkForgedのMarkOneは既に前述したとおり、あらゆる業界に導入が開始されているが、その用途は単なる形状確認だけのプロトタイプをはるかに超えている。そのうちのいくつかをご紹介しよう。第一にご紹介するのが、治具としての使用だ。既に3Dプリンターは治具としての使用が開始されているが、治具として使用できるためには一定の強度や機械的特性が必要になる。

通常はハイエンドな3Dプリンターが使用されるが、Mark Oneでは十分治具として使用でき、CNC加工機で作り出される金属治具の代替品として使用することができるパーツを作り出すことができる。例えば下記の治具はCNC加工で作り出されたアルミパーツと比べても遜色がない強度と精度、さらにはパーツを保護する低摩擦を実現している。治具を外注する場合には設計から発注で最適でも2週間以上はかかるもの。また、基本的にCNC加工による削り出しであるため、材料費もブロックの塊ごとがかかってしまう。

しかしMark Oneであれば設計から1日、費用も20ドルから50ドルほどで済んでしまう。もちろん金属加工と同じ精度のものを。

CNC金属加工と同じ機能を実現。治具で力を発揮
同時にプラスチックの柔らかさでパーツを傷つけない

もう一点、従来からのプロトタイプ製造でも、Mark Oneはプロトタイプの幅を拡大してくれる。これまでの一般的なABS樹脂、PLA樹脂単体によるデスクトップ3Dプリンターでは、単純な形状確認だけにしか使用することができなかったが、Mark Oneでは、プロトタイプの機械的特性まで確認し、活かすことができる。例えば下記は、Mark Oneと柔軟性がある素材ケブラーによるプロトタイプの実例だが、海洋調査におけるドローンの着陸台として画期的な効果をもたらしている。

このプロジェクトはSnotBotというドローンを使い、浮上した鯨から粘液サンプルを収集するというプロジェクト。高性能ドローンを海上で離着陸させるという難しい操作が必要になる。ご存知のとおり海上は波もあり、着陸は困難を極め、部品が頻繁に壊れ代替品の取得にも数週間かかるというのが当たり前であった。しかし、Mark Oneで作られた着陸ストラットでは、生産リードタイムを11週間からわずか5時間に短縮、製造コストを10分の1まで減少することに成功している。使用されるケブラーは上記でもご紹介したとおり柔軟性と最高の耐磨耗性を持つ素材。波間が漂う厳しい環境でもドローンの衝突に対して柔らかく対応する機能を発揮する。

高機能プロトタイプ、最終品としても活躍

これ以外にも一部最終品の製造に使用されたり、教育分野や特別な機能性が求められるプロトタイプでMark Oneは活躍している。

Mark One 3Dプリンタースペック

  • 積層サイズ:320mm× 132mm× 154mm
  • 互換性:炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー、ナイロン(ポリアミド)
  • レイヤー解像度:0.1mm
  • 機械サイズ:575mm×322mm×360mm
  • 対応OS:Mac OSの10.7Lion以上、Windows XP 以上、Linux
  • サポートファイル:STL
  • 価格:5499ドル
ABS樹脂やアルミとの比較

まとめ 特化した廉価版のみが成長を続ける

MarkForgedは軽量高機能パーツの3Dプリントに特化することで、その他の一般的な廉価版とは違う可能性を実現している。これまで特許切れによる低価格化によって廉価版が続々と登場しているとは言え、形状のみのプロトタイプ製造の域を出ることはなかった。しかしMarkForgedは炭素繊維やガラス繊維、ケブラーという高機能素材のコンポジットパーツの3Dプリントを実現することで、低価格なデスクトップタイプながらプロトタイプの範囲を広げ、治具や最終品の製造にまで範囲を拡大しつつある。

おそらく単なる低価格や造影スピードの向上という改良のみでは、今後廉価版の3Dプリンターは生き残っていくことは難しいだろう。市場が成熟する過程において多くの廉価版が淘汰される中、MarkForgedのような特別な機能性に特化するメーカーのみが生き残り成長を続けていくと思われる。

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