マクラーレンがパーツを3Dプリント。浸透するストラタシスのダイレクト製造

着実に進む、3Dプリンターによる最終品のデジタル製造

ストラタシスが提唱するダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングという概念が、様々な分野に広がりつつある。このDDMという概念は、直訳すると“直接デジタル製造”という言葉に置き換えることができるが、端的に表現すると3Dプリンターで製造するということである。

これまで3Dプリンターの主な用途は、形状を確認するためのモックアップを作ることが主な役割であったが、造形技術の進化によって、最終品として使用することができる“機能”と“見た目”を再現することができる。

特にストラタシスが提供する3Dプリンターでは、試作から製造まで1台で一貫して行うことが可能だ。これにより、従来は、設計から試作、検証と修正、製造という製造プロセスが、3Dプリンターという一つのソリューションで行うことができる。

このことのメリットは、単純にプロセスを置き換えるだけではなく、設計の最適化や、従来品からの機能向上、更にはリードタイムの圧倒的短縮から、コスト削減まで、まさに製造プロセスに“革新”をもたらしつつある。

本日は、このダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングを新たに自社製品の製造に取り入れたマクラーレンの事例をもとに、ストラタシスが提供する新素材とともにご紹介しよう。

ストラタシスのダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング。パーツの直接製造が進む。 ※画像提供:ストラタシス

マクラーレンのパーツを3Dプリントし、軽量化と性能向上を実現

マクラーレンとは、F1の世界ではいわずと知れたレーシング・チームだ。有名なアイルトン・セナがマクラーレンでワールドチャンピオンに輝いたことでも知られる。マクラーレン・オートモーティブとして高性能なスポーツカーも販売しているが、その技術の元ともなっているのがフォーミュラーレーシングカーの技術力だ。

一般的な商用車とは違い、F1の車にはレースに勝つための軽量化と、耐久性という二つの性能が求められる。特にレースに勝利するためには、一度の改良で満足することは許されず、常に反復し設計と改良が求められる。今回マクラーレンは、ストラタシスの3Dプリント技術を使用することで、パーツの軽量化と性能向上を実現することに成功した。

また、性能だけではなくリードタイムを大幅に削減し、設計と製造の効率化も実現している。今回3Dプリンターで作られたのは主に4種類のパーツで、そのすべてにおいてストラタシスのハイエンドFDM 3Dプリンターと、高性能樹脂が使用されている。

油圧系ブラケット。カーボンファイバー充填ナイロンで高速3Dプリント

第一に3Dプリントされたパーツが、油圧系ブラケットだ。油圧系とはF1では「ハイドロリック」という言葉で表現され、油圧を動力として動くシステムのこと。クラッチやパワーステアリングなど、自動車の主な機関に影響を与える重要な部分である。

この油圧系をレーシングカーに取り付けるために3Dプリントされたのが構造ブラケットだ。この構造ブラケットを作るために使用されたのが、ストラタシスのFDM 3DプリンターFortus 450mcと、新素材であるNylon12CFである。

Nylon12CFは、耐久性や高靭性があるナイロン素材に、強度があるカーボンファイバーを充填させたもの。軽量・高強度なパーツを作ることが可能で、金属パーツなどの代替にも使用される。従来、マクラーレンは、このブラケットの製造に2週間かけていたが、わずかストラタシスのFDM 3Dプリンターでは、わずか4時間で作ることに成功している。

カーボンファイバー配合ナイロン材料Nylon12CFで作られたブラケット。軽量、高耐久のパーツが実現可能。 画像提供:ストラタシス

ブレーキ冷却ダクト。溶解可能材料の3Dプリントで継ぎ目のない高品質な中空パーツを

マクラーレンは、ブレーキ冷却ダクトも3Dプリンターの製造に成功している。自動車の内部は走行中高温になり、その温度がパーツにも影響を与えることから、冷却し安定させることが求められる。

ブレーキ冷却ダクトも、ブレーキパーツの温度を適温に保つために使用されるパーツで、ブレーキ性能の安定化のためには欠かすことが出来ない部分だ。このブレーキ冷却ダクトでは、ストラタシスのST-130ソリュブル材料が使用されている。

このST-130ソリュブル材料とは、複雑な中空材料を作るために最適化された材料で、簡単に溶解して取り除くことができるいわば“複雑な型”を作るためのサポート材料のようなものだ。

使い方はこの材料で3Dプリントした型を複合材料で包み、パーツが固まった後で、取り除くという仕組み。これにより、接続部分のない複雑かつ滑らかな仕上がりのパーツを製造することができる。この技術はストラタシスの「サクリフィシャルツーリング」というソリューションで提供されている。

マクラーレンの場合はこのST-130で3Dプリントしたものを、カーボンファイバー複合材料で覆い、オートクレーブによって成型している。このオートクレープとは、工業用では炭素繊維やガラス繊維などの加熱成型で用いられる製法の一つである。

このST-130自体は、オートクレーブの加熱にも耐えることができ、成型後は素早く溶解が可能。ストラタシスでは、このST-130と最終品そのものの3Dプリントだけではなく、その他の製法と組み合わせて最適化されたソリューションも提供している。

造形物そのものを3Dプリントするのではなく、サポートの造形でモデル材料を作り、これまでの造形技術では不可能であった形状と滑らかさ、複雑さを実現するという斬新なソリューションだ。

溶解性の材料ST-130によって型を作り、継ぎ目のない高性能な中空パーツを造る技術。「サクリフィシャルツーリング」というソリューションで作られたパーツ。 画像提供:ストラタシス

リアウィングフラップ。ULTEMで型を作り、カーボンファイバーパーツを作製

ストラタシスのFDMテクノロジーの最大の特長が、高性能な本物の熱可塑性樹脂を扱えるという点があげられる。その代表ともいえる材料の一つがULTEMである。ULTEMは、ポリエーテルイミドといわれる170℃以上の高温環境でも使用できるプラスチック素材で、スーパーエンジニアリングプラスチックに分類される。

ストラタシスではこのULTEMと高性能FDM 3DプリンターFortus900mcを型のように使い、新素材であるカーボンファイバー配合のナイロン材料Nylon12CFで3Dプリントしたものを高温でオートクレーブ養生し、リアウィングフラップ用のコンポジットレイアップツールを3Dプリントすることに成功している。

スーパーエンジニアリングプラスチックULTEMによる型の3Dプリント。これを使い前述のカーボンファイバー配合ナイロン材料で、リアウィング用パーツを製造。 画像提供:ストラタシス

ケーブル固定のハーネス。ゴムライク素材で快適な柔軟さを

これまでご紹介してきたパーツのダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングは、FDM 熱溶解積層法の3Dプリンターと熱可塑性樹脂によるものだが、ストラタシスが誇るもう一つのラインナップPolyJet 3Dプリンターで作られたパーツも登場している。

それがケーブル固定用のハーネスである。今回のマクラーレンのMCL32レーシングカーには、通信システムが搭載されたが、そのケーブルがドライバーの快適さを邪魔していることがわかり、このハーネスワイヤーを固定するために、PolyJet 3Dプリンターの新型Stratasys J750 とゴムライク材料によって、フレキシブルなケーブル固定具が製造されている。

このラジオハーネスはわずか2時間で3Dプリントされ、ドライバーの快適さを保ち、より操縦に集中できる環境を作り出すことに成功している。ちなみにPolyJet 3Dプリンターの新型であるJ750では、6種類のマテリアルをブレンドすることで、最大36万色、ゴムのような柔軟さや透明、半透明といったさまざまな表現を再現することができる。

ゴムライクマテリアルと高性能PolyJetプリンターJ750で作られたフレキシブルケーブル。 画像提供:ストラタシス

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最終品にとどまらず、プロトタイプから治具まで一貫した使い方が可能

今回、ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングの事例として、上記の4つのパーツを代表してご紹介したが、実際には、これらの最終品にとどまらず、プロトタイプから加工組立の治具に至るまで、ストラタシスの3Dプリンターは、製造プロセスのさまざまな場面で使用されている。

例えば、F1カーの開発場面では、常に車体の軽量化や、性能向上などあらゆる改良がおこなわれるが、ストラタシスの3Dプリンターを使用することで、スピーディな設計と素早いアウトプットによる検証といった、反復設計の回数を増やすことが可能となる。

新たなアイデアを実現し、検証するためには、わずか数日しか要することはなく、これは従来の切削加工などでは不可能であった特性である。また、上記でご紹介したように、ストラタシスの3Dプリンターは、物体そのものの造形といったこと以外に、「サクリフィシャルツーリング」やデジタルモールドのように、パーツに求められる用途や設計、性能によって、最適なソリューションを提供できるのが特長である。

ストラタシスのハイエンド3Dプリンターでは、プロトタイプから治具、工具、最終品まで一貫して製造することができる。

まとめ 造る人のための「ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング」を提供

FDMテクノロジーは、もともとストラタシスが開発したものだが、特許失効によって多くの廉価版が登場しつつある。廉価版の多くが、単純にストラタシスが開発した当初のオリジナルなFDM 3Dプリンターを模倣したものにすぎず、モックアップレベルの造形しか再現することができない。

最終品として使用するレベルを担保するためには、3つの指標が一定レベルまでたっしていなければならない。それは、材料の種類(工業用で使用される様々なプラスチック素材)や、性能(材料ごとの性能、強度や耐久性、耐熱性、靭性といった)、精度(見た目の美しさや仕上がり)といった点である。

この3つのポイントを満たしているFDM テクノロジーによる3Dプリンターは、ストラタシス以外は、ほぼ無いといっても過言ではないだろう。

また、最終品を3Dプリンターで製造するためには、上記であげたような基本的な性能以外に、実用的なマシーンとしての能力が求められる。その点、ストラタシスの3Dプリンターはこの3つのポイント以外にも、多くの特長を持つ。正確で安定したスピーディな造形や、クラウド中心の優れたインターフェースを持つソフトウェアなど、言うなれば、その製品とサービスの全てが、“造る人”を中心に発想されている。

その存在は、単なる3Dプリンターメーカーではなく、「ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング」を最適な形で提供するソリューションカンパニーといえるのではないだろうか。

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