3Dプリンターで6日間で電気自動車を組み立てる挑戦
ローカルモーターズの新たな挑戦が始まっている。ローカルモーターズは、かねてから世界で初となる3Dプリンターで電気自動車を作ろうという取り組みを発表していたが、そのお披露目が今週8日から13日までカナダで開催中のIMST国際製造技術ショーで行われる。
ローカルモーターズは、世界中からデザイナーやエンジニアがクラウド上に集まるオンラインコミュニティだが、今回の国際製造技術ショーで自動車の完全なカスタマイズ3Dプリント生産ができることをしめしたい考えだ。
それがまた無謀ともいえる挑戦で、開催期間中の6日間で自動車を作ってしまおうというもの。使用する3Dプリンターは、かねてから共同で開発を進めているアメリカオークリッジ研究所とシンシナティ社が開発した巨大高速3DプリンターBAAMだ。本日はローカルモーターズの6日で自動車を作る挑戦と、ローカルモーターズの全貌をご紹介。
IMSTに搬入される3Dプリント電気自動車のフレーム
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ローカルモーターズの狙い 自動車のオンラインカスタマイズ生産
今回ローカルモーターズがおこなう6日間の自動車の3Dプリンター製造は彼等のビジネスモデルをしめす一大デモンストレーションだ。自動車という簡単には作れないものが、3Dプリンターでたった6日間で作ることができれば、全くこれまでにないカタチの自動車メーカーとしての立ち位置とその可能性をしめすことが出来るためだ。
下記の動画はローカルモーターズが使用する巨大高速3DプリンターBAAMでフレームを作る動画。使用している材料は炭素繊維強化ABS樹脂でその積層スピードは毎時40ポンド、約18kgという驚異的なもの。
ローカルモーターズの巨大高速3DプリンターBAAM動画
3Dプリントがスタート
この挑戦が成功するかどうかはわからないが、本気で自動車を3Dプリンターで作ろうという取り組み。現在、3Dプリンターでさまざまなプロダクトをカスタマイズして生産する動きが登場しているが、自動車でそれを行うことを本気で実現しようとしている。既にshapewaysなどの3Dプリントサービスではアクセサリーや小物類、花瓶やコップなどのキッチン用品などでカスタマイズ生産は開始されているがローカルモーターズはそれの自動車版だと言える。
巨大高速3Dプリンターの記事はこちらをどうぞ
130カ国5千人が登録するオンラインコミュニティ
ローカルモーターズのビジネスモデルの核を成すのは130カ国5千人から集まる巨大なオンラインコミュニティだ。2007年に創業して以来、世界中に拡大してきている。そこではさまざまな経歴やスキルを持つデザイナーやエンジニアたちが自由に自分のアイデアやデザインを公開し、自動車開発に活かすことができるのだ。このクラウドを利用した巨大な、オンラインコミュニティのメリットはエンドユーザーとコミュニティに参加する人それぞれにもたらす。
エンドユーザーが受けるメリット
エンドユーザーにとってはこれまで手に入ることが無かった自分だけのカスタマイズカーを手に入れることができる。これまでは特定のメーカーの自動車から選んで購入することしかできなかったが、ローカルモーターズの場合は、オンラインコミュニティに参加するさまざまなデザイナーがいるため選択の幅が広がる。
また、3Dプリンターで生産することになるため、細かい部分までカスタマイズを施すことが可能だ。例えば今BMWminiが人気なのも自分でカスタマイズできるということが大きい。最近ではダイハツのミラココアが女性をターゲットにボディから内装までカスタマイズできるサービスを開始した。しかし、こうしたカスタマイズは決められた規定の中から選択するタイプで、3Dプリンターを使った自由なカスタマイズではない。
デザイナーが受けるメリット
メリットを受ける第二は、コミュニティに参加するデザイナーやエンジニアたちだ。ローカルモーターズはもともと自動車のデザインの投稿からスタートしたという経緯もあり、自由に自分のアイデアやデザインを投稿することができる。
今回作られる世界初となる3Dプリント電気自動車のデザインもデザイナーたちの投稿とコミュニティに参加する人々の投票によって決まっている。つまり、ここではコミュニティ参加者が決めていくということから全てのデザイナーにチャンスがある。例えば通常の自動車のデザインを例にとると、車体のメインデザインをおこなうデザイナーが一人いて、後はパーツごと、例えばヘッドライトのデザインのみを担当するデザイナーなどが存在する。
この場合パーツのデザインを行なうデザイナーは車体本体のデザインをすることはほぼないと言っていい。仮に車体本体のデザインを行いたかったとしても何年も何十年もパーツだけのデザインしかできないのが現状。
これはデザイナーの世界がある意味職人の世界と似ている業界であることなどが関係しているが、ローカルモーターズなどのコミュニティでは全く関係がない。実力があれば投票によって選出されるし、自分がデザインした自動車が製品化される可能性が高い。
投票によって選出された3Dプリント電気自動車のデザイン
3Dプリンターでカスタマイズ製造の計画
自動車からアパレル、家具までオンラインコミュニティで生産
ローカルモーターズは130ヵ国からコミュニティに集まるさまざまな人々を使い自動車以外の分野にも進出を開始している。今ではオンラインショップでは自動車以外に、アパレル、家具、アクセサリ、まで分野を拡大してきている。
さらにはエレクトロニクス大手のGEとともに家電のオンラインコミュニティを利用した製品開発を開始した。もともと自動車から開始したのがなぜこれほど異なる分野に利用ができているのだろうか。それはアイデア開発から製品化までの一連の流れをシステム化していることに秘密がある。
ややもすればアイデアやラフ案というのは発案だけは出でもそれをディティールにおとしこみ具体化することは相当なエネルギーが伴うもの。しかしローカルモーターズはその仕組みを4段階の工程に分類することで可能にしている。第一段階でアイデアやデザイン案が投稿され、第二段階で具体化する企画におとしこむ。
そして第三段階で製造、第四段階で組み立て最終調整という形で製品化を行なうわけだ。この過程では製品開発に関わる専門スタッフももちろんだがコミュニティに参加する人々の意見も大きく左右される。例えばデザイン案やアイデア案ではより多くのコミュニティメンバーから投票を得たものが採用され、具現化されることになるためだ。
この仕組みは製品開発のクラウドサービスを提供するQuirkyともかぶる部分がある。ちなみにQuirkyの場合は販売予約数が一定まで達しないと生産されない仕組みだ。
自動車のオンラインショップ
アクセサリ
アパレル
家具
ガレージ用品
GEとローカルモーターズの家電の製品開発の記事はこちらをどうぞ
まとめ 新たな製品開発の時代
ローカルモーターズが示しているものは、インターネットと3Dプリンターがもたらす新たな製品開発の形だ。これまでのメーカーが行ってきたマーケティングや製品開発とは全く異なる手法だと言えよう。
こうしたオンラインコミュニティを製品開発に活かす動きは上記で述べたQuirkyといった企業でも盛んだ。また、この巨大なオンラインコミュニティと提携することで自社の製品開発に活かそうという動きも大手メーカーの間で登場している。
例えば上記で述べたGEはローカルモーターズとも提携を行っているし、Quirkyとも提携している。GEはあまり注力できていない(最近売却したが)家電事業を2社と協力することでエンドユーザーの感覚により近い製品開発や、新たに価値を与える製品の開発を開始している。一方、従来から注力しているジェットエンジン関連のパーツ製造でも別のオンラインコミュニティGrabCADと提携し、170ヵ国以上からリニューアルパーツのアイデアやデザインを集めることに成功している。
またGE以外ではP&GなどがQuirkyと提携し自社製品の開発も行ったりしている。こうした動きはつい数年前までは全く見られなかった動きだが、ますます盛んになりつつあるようだ。
もともとこの手法は新たな軍用車両を開発米軍が始めた手法だが、オンラインコミュニティの力を借りたところ、従来の決められたメンバーによる開発に比べ、はるかに早く、はるかにコストを抑えられて新車両が開発できたことに端を発している。
このインターネットの力を最大限生かした手法はメーカーにとっても大きなメリットをもたらすが、コミュニティに参加する人々にも大きなメリットをもたらす。
このメリットは詳しく述べたが、例えばGEのジェットエンジンノズルの新バージョンのデザインはGrabCADに参加していたインドネシアの若手エンジニアが作ったものだ。これは海外にいながらにしてそのエンジニアの名を一躍世界に高めることにつながる。もちろん採用賞金という物理的メリットもあるが、将来手掛けるであろう多くの仕事もその人に与えることになる。
このオンラインコミュニティによる共創ビジネスはこれからの時代の一つのスタンダードになっていくかもしれない。
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