アメリカ図書館は無料の3Dプリントサービスを開始

図書館がSTEM教育の一つの拠点に

アメリカはオバマ大統領の元、大幅な教育改革を進めている。その軸となるのがSTEM教育の推進だ。STEM教育とは、科学(science)、技術(technology)、工学(engineering)、数学(mathematics)の頭文字をとった言葉で、いわば最新のデジタル技術や科学技術などに精通する人材育成を目的としたものだ。

その背景には急速に進むデジタル化とIT化の波があると言えるだろう。例えば、製造業、モノづくりの分野においてもデジタル化の波はもはや無視することができない。原料調達から製造、販売に至るまでサプライチェーンを根本から覆す力を持つデジタル化の波は、製品改良や設計などとダイレクトに結びつくことで、それを導入した企業は圧倒的な競争力を持つことになる。

具体的には製品開発にかかるコストや時間という点でその差が表れることになる。そのためこうしたデジタル化の波に対応した人材を早期に育成することが課題となる。その動きは教育カリキュラムの導入という形でも現れているが、もっと多角化した動きを見せているようだ。本日ご紹介するアメリカの図書館の取組もそのうちの一つ。

昨年10月に、全国の図書館で3Dプリンターとデジタル教育を無料で提供する「Maker Lab Club」という記事でご紹介したが、本格的な図書館における無料の3Dプリントサービスが開始されているようだ。あらたなSTEM教育の拠点として今、図書館が注目されつつある。

250の図書館で3Dプリントサービスが開始

アメリカでは図書館の強力な団体アメリカ図書館協会(通称ALA)を中心に着々とSTEM教育としての拠点化が進められつつある。既に全米の図書館のうち250もの図書館には3Dプリンターの配備が完了している状況だ。また、24のカウンティ(アメリカやヨーロッパでは行政の基礎自治体のことをこう呼ぶ。

日本でいう市町村とは全く概念が別物で、よりコミュニティに近い)では、各図書館と博物館が政府から10万ドルの助成金を受け取り3Dプリンターを使った学習研究所の立ち上げを行った。このSTEM学習研究所では、3Dプリンターを無料で利用できるだけではなく、デジタル技術を使った製造の講義や、イベント開催を行なう計画があるようだ。

企業も図書館のSTEM教育体制に協力、参加

こうした図書館や博物館の動きにとって、目下課題となっているのが人材や機器メンテナンスの問題だ。STEM研究プログラムを機能させるためには、毎日そこに訪れる学生や人々に対して適切な対応が行わなければならない。こうした部分は高度に専門性を持つ人材が必要であり、同時に図書館員に対する教育や研修も必要になる。

また、3Dプリンターなどのハイテク機器をメンテナンスしなければならない。こうした機器のメンテナンスや人材育成以外にも、公共政策や法整備としての運営体制の確立が必要になる。このようなことは到底図書館単体では不可能で、専門知識を有す企業の力によるところが大きい。こうしたことからアメリカ図書館協会は、3Dsysetmsや、Makerbot、カナダのTINKERINEなどと提携を行っている。その中でも最も巨大なものが以前ご紹介した3Dsystemsが提供する図書館ネットワークMaker Lab Clubだ。

まとめ 役割を増すコミュニティ教育

アメリカでは教育への3Dプリンターの利用、STEM教育の促進を図っているが、単純に学校教育レベルだけではなく、それ以外のフィールドでも動きが活発化しているようだ。とりわけ図書館は地域コミュニティの拠点としてデジタル技術を習得する場所として活躍が期待されているようだ。

こうした点から見ると、日本の公的機関が運営する図書館とは全く機能や価値観が異なるのだろう。今、さらに課題として話題になっているのが3Dデータの取り扱いや法的な対策などに移行してきているという。また、このようなコミュニティにおけるSTEM教育がどのように機能していくのかが非常に興味深いと言える。前述したが、アメリカやフランスなどの行政の制度は日本の市町村とは全く異なる構造体、意思決定になっている場所が多い。

アメリカなどのカウンティなどもそうだが、本当に地域のことを考えている人々が兼業OKで日本でいう市会議員になったりする。こうした基礎自治体の行政体制なども、3Dプリンターの配備や、コミュニティによる教育体制の運営に大きく影響していることが予測される。そのため全くそのまま日本の制度や日本の図書館に当てはまることは無いだろうが、日本のSTEM教育や人材を育成するうえで大きな参考になるのではないだろうか。