デザインから量産までわずか6日。ハイブリッドモールドの驚異的な力

新たな3Dプリンタの使い方。試作から量産へ踏み込む

3Dプリント技術の進化は、これまで製品開発に挑戦することができなかった新たな開拓者たちの参入を許し、多くの価値ある製品が生まれる環境を生み出すこととなる。設計データからダイレクトに物体を生成することで、プロダクトの検証や修正が可能となり、最終品としてアウトプットするまでの、コストとリードタイムを圧倒的に削減してくれる。

しかし、デジタルデータから最終品として使用することができるレベルで、アウトプットすることができる3Dプリンタは。現在ではまだほんのひとにぎりに過ぎない。また最終品レベルでアウトプットすることができたとしても、ある程度の数量を生産する場合には、金型を使わざるをえないのが現状のところだ。

そのため、3Dプリント技術が進化してきているとはいえ、試作は3Dプリンタで行い、量産は金型で行うといった方法は、ほぼ従来通りのままだといえよう。しかし、新規で製品開発をする場合において、この大量生産時代の製造プロセスは、もはや時代遅れとなりつつある。あらゆる類似製品が流通するモノ余りの時代では、大量に製品を作ったからといって大量に売れるわけではない。

またインターネットの普及によって一瞬で情報が伝達され、人の価値観の変遷も従来とは比べ物にならないぐらい早くなってきている。あまりに製品開発に時間をかけすぎていると、企画した時点と量産した時点ではユーザーの価値観が大きく変化しているというおそれもある状況だ。

つまり、膨大なコストをかけて金型を作り、これまでのような大量生産を行うというスタイルが時代に合わなくなってきていると言えるのだ。こうした状況においては、多くの企業や資金に乏しいベンチャー企業は新規に製品開発を行う場合に二の足を踏まざるをえない。販売量が未知数である状況で、金型製造に膨大な初期投資をかけることは、当然のことながら、新たな挑戦をすることに対してマインドブロックが作用することとなる。

こうした点からも、事前に生産ロットが分かり、製造する分の資金が前もって調達できるクラウドファンディングが人気なのも頷ける。しかし、このような状況の中、3Dプリンタを使い、画期的な手法で量産を可能にする取り組みが登場してきている。その方法は、従来の金型による量産と3Dプリンタを組み合わせた画期的な手法で、現代のものづくりに大きな影響を与える方法だといえよう。

本日はストラタシス有限会社スワニーが取り組む、新たなものづくりのカタチ、ハイブリッドモールドシステムについてご紹介しよう。(本記事は5月12日(木)から13日(金)に大田区産業プラザPiOで開催された試作市場2016&微細・精密加工技術展2016の取材を元に作成しています。)

デジタルモールドとは。金型を3Dプリンタで作る効果

ハイブリッドモールドをご紹介する前に、既にストラタシスと有限会社スワニーが取り組むデジタルモールドについてご紹介しよう。デジタルモールドとは、その言葉が示す通りデジタルデータから直接生成された金型のことだ。通常金型は頑丈な金属合金の削り出しによって作り出されるが、デジタルモールドはストラタシスの3DプリンタPolyJetシリーズによって作られたプラスチックの金型のこと。有限会社スワニーはこのデジタルモールドの実用化に3年近く前から取り組んでおり、試作品の開発や金型の試作に飛躍的な効果をもたらしている。

ちなみに、デジタルモールドを生成することができる3DプリンタはPolyJetシリーズの中でもConnexシリーズと言われる機種。デジタルABSと言われる、ABS樹脂さながらの機能や物性を確認することができるマテリアルが使用可能だ。

小型射出成形機に搭載されたデジタルモールド。熱硬化性樹脂をつかったPolyJetで生成されたもの。

従来の金型製造コストを大幅に削減

金型を製造するためには初期投資で数百万円以上ものコストがかかるが、デジタルモールドは3Dプリンタで生成するため圧倒的な低コストで済む。当然のことながら金型の製造にはデザインや形状に合わせた修正や調整が付き物だが、デジタルモールドであればこうした修正や検証もオンデマンドで対応可能。金型そのものの製造に飛躍的なスピードと効果をもたらす。ちなみに、デジタルモールドは紫外線を照射すると固まる紫外線硬化性樹脂で作られるため、射出成形で使用される加熱すると溶ける熱可塑性樹脂とは性質が異なる。それによって同じプラスチックでも一つは金型として、一つは材料として使ってもくっつかないで使用することができる。

デジタルデータからダイレクトに製造することが可能なため、合金の金型に比べてそのコストは圧倒的に安い。

アルミ型との融合がもたらす効果とは

またこのデジタルモールドが画期的な点は、新たにアルミ型との組み合わせによって小ロットの量産まで可能にする。小ロット量産は、大量生産大量消費が終焉を迎え、個人の趣向が多様化する現代においてはもはや必須とも言える製造方法だと言えるだろう。しかし多くの製法が未だコスト的には折り合わず、製品1個あたりの単価も高額にならざるをえない。しかしハイブリッドモールドであれば、こうした課題を解決し、時代に適合したものづくりのあり方を可能にしてくれる。

削り出しのアルミ型と融合させたハイブリッドモールドとは。

時代にあった量産方法。カスタマイズ性を持つ小ロット量産が可能に

ハイブリッドモールドとはデジタルモールドに加えて、金型のベース部分をアルミ型にすることでより耐久性を向上させ、一定数の量産を可能にした金型のことである。これまでのデジタルモールドとは違い、新たにものづくりや製品開発の現場に三つのメリットが加わることとなった。

メリットその1:耐久性の大幅向上で量産性UP

第一は上記で述べたような耐久性の向上である。射出成形は、金型内にドロドロに溶けた熱可塑性樹脂を高圧力で押し込むため、金型にかかる圧力は非常に高いものとなる。そのため一般的な射出成形用の金型は、合金で作られ頑丈な構造が取られるが、ハイブリッドモールドは削り出しのアルミ型と組み合わせることで、耐久性を大幅に向上させ量産可能な数量も向上させることが可能となった。

例えば、1000個程度を短期間で生産する場合には、従来通りの合金の金型ではコスト面から割に合わず、3Dプリンタであれば短納期というリードタイム面のメリットを十分に発揮することができない。まさに、ハイブリッドモールドは小ロットの量産を低コスト、短納期で実現することができる新たな製法なのである。

アルミ型と組み合わせることで高圧力への耐久性が大幅に向上。
小ロットの量産が可能になる。

メリットその2:マスカスタマイゼーションを可能にする

次にハイブリッドモールドのメリットの第二は、マスカスタマイゼーションを可能にする点にある。マスカスタマイゼーションとは、カスタマイズ性と量産性をかけあわせた用語だが、一つ一つの要望に対応しながら一定数の量産も可能にする製造方法であり、3Dプリンタの役割の一つだとも言われている。

しかし冒頭で述べた通り、まだまだ3Dプリンタで最終品を量産するまでには至っていないのが現状である。こうした状況の中、ハイブリッドモールドこそがマスカスタマイゼーションを可能にする最もふさわしい方法だといえよう。これまでのデジタルモールドでは、デジタルABSなどの樹脂素材だけであったが、ベース部分をアルミ型にするハイブリッドモールドでは、一部分をデジタルモールドに差し替えることで、さまざまなパターンの形状やデザインを再現することができる。

例えば、下記の画像では、パーツのシボ加工をデジタルモールドを差し替えることで色々なバージョンを製造することができるのだ。現在は単純な表面状のデコレーションに過ぎないが、今後更に普及してくるマスカスタマイゼーションの流れにいち早く対応したものである。

ベース部分をアルミ型で、パーツの変更したい部分をデジタルモールドで組み合わせれば、カスタマイズで量産が可能。
表面のシボ加工の違いが出せる。
かなり忠実に細かいレベルまで再現できる。
デジタルモールド部分を変更するだけ。超低コストで複数の種類が量産可能。

メリットその3:アイデアから量産までわずか6日。圧倒的な短納期と低コスト

最後にハイブリッドモールド並びにデジタルモールドの最大の効果は、これまでの金型量産では不可能であった、圧倒的な低コスト、短納期の実現である。従来、製品のアイデアが出されてから、デザイン、試作、金型設計を経て量産が完了するまでには、どんなに早くても数ヶ月から1年ほどの期間がかかってしまうのが一般的であった。

またそこに発生するコストも単純に金型の設計と製造だけで数百万円は当たり前である。しかしハイブリッドモールドであれば、数百個から千個程度の小ロットであれば、何と企画から量産まで最短6日で完了することができる。下記は株式会社タカラトミーによるハイブリッドモールドとマスカスタマイゼーションの事例だが、ラフスケッチからモデリングデータの制作、金型データのモデリング制作で1日、デジタルモールドとアルミ型の製作と検証で3日間、生産に2日間と、合計わずか6日間で小ロット量産まで可能にしている。

これは従来の製造プロセスではありえないスピードとコストで、ものづくりの幅や新製品開発の幅が従来とは比較できないほどに広げることができる。ちなみにハイブリッドモールドで設計して量産するスピード感は、表面処理やバリの除去といった後加工を入れても、従来のプロセスとは比較にならない効率化をもたらす。

ハイブリッドモールドで量産されたおもちゃ
色違いなどのパターンも表現できて量産できる。
ストラタシスのPolyJetでデジタルモールドを生成。
切削加工機MDX-540Sでアルミ型を削り出し、大きさによるがわずか数時間で作り出せる。
小型射出成形機で量産。

まとめ 時代に適合したスピード感と低コストで新たな価値をつくる

3Dプリンタとハイブリッドモールドのもたらす力は、今後のものづくりにとって計り知れない影響力を持つ。例えば、これから新たに、ものづくりや製品開発に挑戦しようとする企業にとっては、従来とは比べ物にならないくらい低コストで、短期間で試作品から最終品を作り出すことができる。

これにより、新たなアイデアや新しい価値を生み出すモノが世に生み出されるきっかけが更に広がることになる。また、現代は人の価値観が、非常に速いスピードで変化していく時代であり、製品を生み出すためのスピード感も時代の変化に対応していく速度が必要になる。例えば、極端な表現を使えば、量産が完了した時点と、製品が企画された時点とでは、ターゲットユーザーの価値観が大きく変わっている可能性だってある。

3Dプリンタとハイブリッドモールドはそんな変化のスピードが速い時代に対応したまさに新たな製造方法ともいうことができる。もちろん、全てをカバーすることができるわけではないが、これまで不可能であったことを可能にし、多くのイノベーションを引き起こす土壌を作り出す役割を秘めているといっても過言ではないだろう。まさに、ハイブリッドモールドは、金型と3Dプリンタが融合した新たな時代に適合した製造方法なのである。

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