導電性フィラメントの可能性。筐体と電子回路を一緒に設計する時代

導電性のフィラメントの使用用途とは?

高い導電性を持つとされるグラフェン。未来の新素材として注目されるだけではなく、3Dプリンターでの利用も開始されている。このグラフェンの3Dプリント材料を開発するのがグラフェン3Dラボだ。度々ご紹介したが、グラフェンを配合したプラスチックフィラメントを開発しプラスチックだけで電気が付く簡単な電球装置、テレビゲームのコントローラーなどを3Dプリントし、その可能性を示している。

そんなグラフェン3Dラボだが、導電性フィラメントの生産量を拡大し始めているという。このフィラメントに対応した専用の押出装置を開発、未来のエレクトロニクス製造の可能性を示しつつある。しかし、一見するとグラフェン3Dラボが導電性フィラメントで試作した電球装置は導電性をしめしているとはいえ、驚く程アナログな装置だ。

現代の複雑で小型化、薄型化するエレクトロニクス製造に置いてはその用途がわかりづらいのが現状だ。しかしそのような中、グラフェン3Dラボは、新たな3種類の新素材の開発に着手し始めているという。本日はグラフェン3Dラボが目指す導電性フィラメントの本当の役割をご紹介。

現代のエレクトロニクスの製造を180度変える可能性

現代のエレクトロニクス製品の基本的な構造だが、ハードウェアを動かすための装置である基板部分と、製品自体を覆う外側、すなわち筐体で構成されている。これが今のエレクトロニクス製品の一般的な仕組みだが、一つの製品を完成させるにあたり、それぞれの設計・デザインは全く別々になる。例えば製品の外観である筐体のデザインは一般的にプロダクトデザイナーがそれを行い設計することになる。

そこに求められる知識や技術は、ブランディングやデザイン、そして3Dデータ化、素材と製法に関する知識が必要になる。その一方で、内部のハードを動かす動力源となるプリント基板には、電子回路設計の技術が必要だ。筐体に収まる範囲でプリント基板と電子回路を設計しなければならない。

ここでは外側のデザインとは全く異なるエレクトロニクスの深い知識が必要だ。また製造ラインにおける着眼点も全く異なる。プリント基板の実装や電子部品の管理など、極力不良が起きない環境下で行わなければならない。一方筐体であれば樹脂や金属など素材に応じた製造技術、いわゆる職人といわれるような技が必要になるというわけだ。

このように長々と現代のエレクトロニクス製品の設計について説明してきたのはグラフェン3Dラボが目指す設計が全く異なる次元を目指しているからである。グラフェン3Dラボが目指しているエレクトロニクスの設計とはおそらく、この二つの部分(筐体と基板)の融合である。

オートデスクが目指す筐体と電子回路が一体で作れる技術

現代のエレクトロニクスであれば、筐体と基板が別々に作られるが、高度な導電性を持つフィラメントと、データ通りに造形する3Dプリント技術があれば、この二つを別々に作ってアッセンブルする必要は全くなくなるかも知れない

。FDM(熱溶解積層法)による3Dプリントであれば、将来的に筐体を構成する樹脂内部に回路基板を導電性のフィラメントやその他の金属素材を使用しそのままダイレクトに組み込めるかもしれない。例えば以前もご紹介したVoxel8やオートデスクの電子回路内蔵ソフトウェアプロジェクトワイヤーなどが象徴的だ。

今はまだ玩具のようなものしか作ることができないが、グラフェン3Dラボの開発するフィラメントの性能や、FDM3Dプリントの技術が格段に向上すれば、エレクトロニクスの一体成形が可能になる。

現にオートデスクは独自にFDM3Dプリントの新型特許を申請しているが、その特許技術によると、複数のフィラメントを合成するだけではなく、サイズ違いのノズルを搭載しており、フィラメントの積層ピッチも異なるレベルで造形できる。これは単純に色違いのフィラメントや異なる素材がプリントできるというだけではなく、高導電性フィラメントを筐体内部に埋め込める可能性が高い。そうすれば、プロジェクトワイヤーで設計したものは、導電性フィラメントとその他のフィラメントを用いてFDMで一体成形できるというわけだ。

まとめ エレクトロニクスのデザイン・製品開発が変わる

このようなエレクトロニクスを一体で作れる3Dプリンターが登場すれば、もはや電子回路の設計は完全に筐体の一部になるだろう。そうするとエレクトロニクスのものづくりはこれまで全く不可能であった形状やデザインを作り出すことが可能になる。例えば直接プラスチックの塊に回路を埋め込むことが可能になれば、ボタンやスイッチなども従来とは全く異なる概念になるかもしれない。

また、今後求められる設計者側のスキルも従来よりももっと複合的な能力が求められる。プロダクトデザインと同時に電子回路設計のスキルも併せ持った人材が、エレクトロニクスの分野では求められるだろう。導電性フィラメントの開発背景にはこうした将来のエレクトロニクスの製品開発が隠されているのかもしれない。

その一方でエレクトロニクスの品質をどう担保するかが新たな課題になるだろう。例えば現代の電子部品である半導体などの製造現場ではミリ単位でのゴミや、たったわずかな水滴が不良を引き起こす可能性がある。また、はんだはんだ付けに代表される接合の分野においても、ミクロレベルでの正確さが求められるのが通常だ。このミクロの世界での精度をどう達成していくかが課題だろう。

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