フラックス。はんだとエレクトロニクスの性能を決める隠れた素材

エレクトロニクスに影響を及ぼす、はんだとフラックスの重要性

現代の生活に欠かすことができない電子機器や電化製品、様々なエレクトロニクス製品が存在するが、こうしたエレクトロニクス製品にとって最も大切なことは、ちょっとやそっとじゃ故障しないという品質だ。もちろん機能や性能、デザインといった要素も重要だが、基本的な大前提として、故障しないということが絶対条件として必要になる。

最近の電化製品の傾向として一部のメーカーでは、製品の機能やインターフェースを充実させることばかりに気を取られ、故障しやすかったり、不具合が出やすいプロダクトが多いように感じられる。例えば某大手メーカーの家庭用ゲーム機では勝手にコントローラーが動き出すといった不具合が生じ、某大手メーカーの液晶テレビでは、音声を邪魔するほどの機械音を出すといった不具合も生じている。

こうした電化製品の不具合や不良は、実に不愉快だし、機能や性能が良くても、ユーザーを不愉快にさせては継続的な購入と使用は望めなくなる。今の時代、ユーザーにはあらゆる選択肢が与えられており、気に入らなければ他社製品を購入するまでだ。不平やクレームがあるだけましであり、大抵のユーザーは声もかけずに、他社に乗り換えてしまう。

前置きが長くなって恐縮だが、それではこうした電化製品の不具合や不良の原因は一体どのようなものなのだろうか。その原因は細かく言うと千差万別だが、大きな括りでは一言で言うことができる。それは「接合精度」という部分に集約することができるのだ。

ご存知のとおり、ありとあらゆるエレクトロニクス製品は、無数の細かいパーツが組み立てられることで、一つのプロダクトになっているが、いかに製品のコンセプトや機能、デザインが良くても、組み立てる精度が悪ければその製品のクオリティはゴミクズ同然になる。

前述の例にあげた某大手メーカーの家庭用ゲーム機のコントローラーの不具合も、探ったところ基板と透明基板の接合部分が甘いために発生したものであった。このように接合部分がしっかりとくっつけられていなければ、いかにデザインやコンセプト、機能が優れていたとしても、その製品本来が持つ真の価値を発揮することはできないのだ。

つまり、言い方を変えれば、現代のものづくりにおいて、接合技術ほど大事な技術は無いとも言うことができる。モノとモノ、どんなに細かい部品やパーツも本来あるべきカタチで接合されていなければ何の意味も無い。とりわけ電子機器の不具合においては、無数の電子部品を電子回路通りに接合させる接合技術、はんだ付けの技術が重要になる。

また、いいはんだ付けを行うためには、電子部品や回路基板、ひいてははんだ自体の性能も高レベルで、クオリティの高いものにしなければならない。多くの電化製品や電子機器の不良を探っていくと、目にすることができないミクロレベルのチリが、基板とはんだ付け部に付着し不具合を引き起こしていたという例もざらに存在する。

本日はそんな、エレクトロニクスのレベルの高いものづくりを実現するための技術、はんだ付けに最も影響を与える物質、フラックスについてご説明しよう。

フラックスの形状

電子機器を作るために必要な素材であるはんだ。はんだ自体の役割と重要性については、以前にご紹介したこちらの記事、「はんだ|ミクロレベルでものづくりを高品質にする必須の素材」をご参照いただければと思うが、本日ははんだを構成する重要な素材フラックスについて、その役割と重要性をご紹介する。フラックスというと耳慣れない言葉だが、一般的には溶剤や溶液ということを指す言葉だ。

しかし、はんだにおいては、その成分を構成するための重要な要素を占めている。例えば、はんだには大きく分類して2種類の形状があるが、そのどちらにもフラックスは使用されている。一般的なワイヤー状の糸はんだを例に取るとわかりやすいが、糸はんだを輪切りにしてみて中を覗くと、細い銀色のワイヤーの内部にフラックスが埋め込まれているのがわかる。

この細い糸はんだの真ん中に注入されているフラックスこそが、電子部品と基板を接合するためにとって欠かすことができない役割を発揮するのだ。一方、大量生産用のリフロー用のペースト状のはんだは、フラックスとはんだが混ぜ合わさった状態のペースト状になっている。このペースト状のはんだも、フラックスの精度や性能によって、大量生産に大きな影響をあたえ、エレクトロニクス製品の品質自体にも大きな影響を与えているのだ。それでは次にフラックスの役割についてご説明しよう。

一般的な糸はんだ。真ん中にフラックスが入っている
糸はんだの内部。フラックスが入っている

フラックスの役割

フラックスの役割は大きく分類して二つに分かれることになる。フラックスの第一の役割は、汚れを取り、はんだ付けをスムーズにするという役割がある。ここでいう汚れとは一般的なゴミやチリといった汚れではない。電子部品や基板の表面、あるいははんだごての表面に付着している酸化物のことをいう。

酸化物とは酸素と他元素の二元化合物のことをいい目に見ることができない微細な元素である。通常金属の表面にはこの酸化物という微細な元素が付着しているのが当たり前だが、この酸化物があると金属と金属は接合することができないのだ。

フラックスの役割① 酸化物を除去しはんだ付けの接合を加速

フラックスはこの金属と金属の接合を妨げる酸化物を取り除く役割を担っている重要な材料である。つまり、フラックスがないと、はんだ付けもできず、電子部品も装着することはできないことになる。ちなみに、はんだが溶け出して液状になってくっつけるためには一定の温度まで、はんだを熱しなければならないが、そのためには、はんだごてを通して、電子基板や電子部品を一定の温度まで高める必要がある。

しかし、酸化物がついていると、熱伝導が阻害されることから、フラックスで酸化物を除去するということは、熱伝導を加速し、スムーズなはんだ付けを可能にする。ここでいう酸化物は、電子基板の表面や電子部品、はんだごての表面を覆っているため、手ではんだ付けする場合には、フラックスがうまく流れる角度ではんだを入れなければならない。つまりフラックスの役割を知っておくことで、はんだ付けの方法や角度なども自然と習得することができるわけだ。

はんだごての正しい使い方 フラックスの機能を知れば、正しい使い方ができる
酸化物を除去し、熱伝導を高める

フラックスの役割② はんだと部品接合後は再酸化防止で腐食を保護

フラックスの第二の役割は、はんだ付け後に発揮される。はんだ付けを行ったあと、はんだ付けを行ったあとは、固まったはんだ表面や母材、部品などの表面を被覆し、再酸化することを防止する役割がある。再酸化しないことによって腐食による不良を防止する役割を担っている。まさにフラックスは正常なはんだ付けと、はんだ付け後の電子機器の精度を保つ役割を担っているといえる。

フラックスで酸化物を防ぐ

フラックスの性能 はんだの性能「くっつく」と「切れる」を高める

前段でフラックスの役割についてご説明させていただいたが、フラックスがはんだ付けやエレクトロニクスの製造に与える影響はそれだけではない。次にフラックスの持つ真の性能についてご紹介しよう。現代のエレクトロニクス製品は、機能や性能が年々高度になりつつあるが、その反面小型化、極薄化を果たして来ている。

例えばスマートフォンを例に取るとわかりやすいが、あの極薄の小型デバイスの内部には、さまざまな機能を発揮するための電子回路が敷き詰められている。タッチパネルディスプレイやバッテリー、カメラ、筐体のボディなどのほかに、メイン機能となるのがメインボードと言われる極小の電子回路が描かれた基板だ。

この極小極薄の基板には、非常に微細な電子回路と超小型の電子部品が敷き詰められているが、この極小極薄の電子回路を間違うことなく、高精度に生産するためには、はんだと、フラックスの性能が非常に重要になる。

極小化する電子基板では「はんだ」の切れ性が重要

フラックスの性能① 「切れ性」を高めクオリティの高い電子機器を作る

例えば、極端な例をあげると、超狭小の電子回路の場合、電子部品と電子部品との幅が非常に狭いため、はんだ付けを気おつけないととなりの電子部品にはんだがかかってしまう可能性がある(通常はこうした極小部品ははんだごてを使ってはんだ付けは行わず、ペースト状のはんだによるリフロー炉を使用する)。

しっかりと部品と基板をくっつけることもはんだの役割なのだが、くっつけたあとに、しっかりと「切れる」ということも重要になるわけだ。このはんだの「切れ性」とは現代のエレクトロニクスの製造に絶対的に必要な性能であり、この優れた「切れ性」を実現するためにはフラックスの成分や配合が重要になるわけだ。

フラックスの性能② 電子部品の実装の生産性を向上させる

一方、はんだごてではなく、自動はんだ付け機という機械をつかった実装においてもこのフラックスがもたらす「切れ性」は重要になる。同じマシーンを使ってはんだ付けをしたとしても、「切れ性」が高いはんだを使用したほうが、より早く「くっついて」より早く「切れる」ことになるからだ。

そのため自動はんだ付けによる生産であったとしても、フラックスの精度やクオリティ、配合が大きな影響を与えることになるわけだ。材料であるはんだを交換しただけで生産スピードが全く効率化され、コスト削減に繋がるというメリットをもたらす。

フラックスの成分 はんだの性能そのものを決める配合

このように、はんだ付けには必須であり、同時にエレクトロニクス製品の機能性、生産性にお強い影響力を持つフラックスだが、その成分はどのようなものから作られているのだろうか。フラックスの主成分はそのベースとなるのが松脂で、松脂にさまざまな溶液を加えることで「くっつく」と「切れる」という性能を発揮している。

ちなみにこの溶液ははんだメーカーによって様々であり、まさに企業の技術とノウハウが集約されたレシピだともいえる。フラックスはこれまで述べてきたとおり、その性能一つで電子機器の性能と生産に大きく影響を与える力を秘めており、まさに成分の配合や実験、開発が大きな役割を担っているといえるだろう。

まとめ フラックスとはんだ、接合技術への熟知はものづくり全般に通ず

これまでご説明してきたように、フラックスの精度が、はんだへの精度に影響を与え、はんだの精度が接合レベルに影響を与え、接合技術の精度が、プロダクト自体のクオリティに影響を与えることになる。

すなわち、はんだやフラックスの基本的な仕組みや役割を知ることは、いい製品、いいプロダクトを作ることに通じるわけだ。また裏を返せば、高品質のエレクトロニクス製品やプロダクトを開発するためには、目に見ることができないミクロレベルの精度までこだわらなければならないわけだ。

例えば、電子部品のメイン素材である半導体を作る現場や、電子基板を作る現場などにおいても、水蒸気の水滴レベルで汚れがつかないように気をつけなければならない。ホコリやチリといった汚れをつけないということは当たり前のレベルなのだ。

フラックスとはんだという素材を知り尽くすことは、ものづくり全般に通じる製造技術を身に付けることに繋がることになる。

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