驚異の木材を開発。新素材の開発でデザインを変えるEPFL + ECALラボ

By | 2015年5月27日
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素材が及ぼすデザインの可能性

製品開発やプロダクトデザインにおいて、素材の力が大きく影響することは言うまでもない。たとえばプラスチックと一言でいっても、さまざまな種類のプラスチックが存在する。ABS樹脂ポリカーボネートでは見た目、質感、硬さや重さなど、全く特性が異なるし、アクリルナイロンポリアミドなども全く異なる機械的特性を持つ。

いい製品を作るためには、使用する素材の力を最大限引き出し、それをデザインに最も最適な形で反映させるということが必要になる。素材を知らずしてものづくりをすることはできないのだ。こうした観点から見てみると、素材の担っている役割は非常に大きく、場合によっては一つの素材は世界を変えることにも繋がる。

代表的な例が炭素繊維で、金属のように丈夫で樹脂のように軽い素材として、今では自動車や航空機部品にも使用されるほど。製品自体の機能性を大きく向上させ、人々に多大な恩恵をもたらすことにつながっている。こうしたことから素材の開発は、ある意味国や企業が最も注力する分野だが、本日はある素材を全く異なる特性に変える画期的な開発をご紹介しよう。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFL + ECALラボが開発した新たな木材素材が注目を集めている。

素材開発 デザインの可能性 スイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFL + ECALラボ

新素材の開発とデザインの可能性を追求するEPFL + ECALラボ

スイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFL + ECALラボは2007年に設立された研究機関で、最先端研究の分野に工学とデザインを加えるというもの。もともとローザンヌ工科大学は世界有数の工科大学として世界でも高い評価を得ているが、ECALラボは、デザインを通じて新技術の可能性を探ることを目的としている。

その目的を通じて多くの企業や研究機関と協力し新素材の開発とそこからくるデザインの可能性に関する研究が多数行われている。本日ご紹介する、ある木材もECALラボの研究から生まれたものだ。ご存知のとおり、スイスは雪山に閉ざされた寒冷地にある国だが、そこで伐採される木々はトウヒ(マツ科の針葉樹)がほとんどを占めている。

トウヒは寒い地域に生える樹木で、主にシベリアや北欧、日本でも東北地方などと寒冷地に適している種類の木。スイスではこのトウヒが低地から海抜1700m前後の森林限界付近まで分布するほど生い茂っており、素材として使用できる製品も限定されることになる。ちなみにこのトウヒが素材として使用される製品は、ほとんどが建築用資材や土木用資材としての使用になる。

一部の良質なものに限って、ピアノやギター、バイオリン、家具などに使用されるぐらいだ。木材といってもプラスチックと同様、さまざまな種類が存在し、木の種類や性質によって使える製品、使えない製品が別れる。

スイス トウヒ

寒冷地で多数生い茂るトウヒ。

見た目は同じ、機能は別物、天然のまま全く異なる素材に変える開発とは

しかし、このスイスでは当たり前の素材となっているトウヒを、全く異なる素材に変化させてしまう開発がなされている。この研究開発を一言で言うならば、寒冷地で採れるトウヒを、熱帯雨林で採れるような緻密で硬質な素材に変えてしまうもの。この研究開発はECALラボが2000年代から行ってきたもので、10年以上もかけて実験を繰り返し開発されたものだ。

木材もプラスチックと同様、細胞レベルでの構造がことなることから、素材自体の特性も様々になる。たとえば、一般的にトウヒのような木材は針葉樹に分類されるが、針葉樹はその構造が単純で軽く軟らかい。一方で熱帯雨林に広く生息する広葉樹は、一般的に細胞の密度が多く硬くて丈夫だ。

つまり、針葉樹は多孔性で空気の層が多いことから、軽く柔らかい性質を持ち、広葉樹は空気の層が少ないことから重く硬いという特性を持っている。このECALラボでは、針葉樹であるトウヒの多孔性を特殊な処理(圧力、温度および水蒸気を組み合わせた複雑な特殊処理)によって少なくし、密度を高めることに成功している。

これにより木材としての外観を保ったまま、他の添加剤などを加えることなく純粋な木材のまま、全く異なる性質を持つものに変化させることに成功したのだ。これにより貴重な熱帯雨林の木材を伐採し、スイスまで輸入しなくても、膨大に生えているトウヒからさまざまな物を創りだすことに成功している。

それが、下記にご紹介するプロダクトの数々で、これまで単純に建築資材や土木用資材、楽器類にしか使用できなかったトウヒの利用をさまざまな製品開発に利用することが可能になっている。

素材開発 デザインの可能性 スイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFL + ECALラボ

木の見た目を変えることなく、天然の素材のまま機能を変更

素材開発 デザインの可能性 スイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFL + ECALラボ

全く異なる機能を付与した

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まとめ エンジニアやデザイナーと協力、新製品開発の可能性が拡大

このECALラボによって開発された新素材と、その新素材を使って作られたさまざまなプロダクトはEPFL + ECALラボで製造されている。画期的なのが、従来ある素材に、全く添加剤などを加えることなく、ありのままの形状を保ったまま、全く異なる特性を与えているという点だ。

この研究は自らの弱点(寒冷地で木材素材がトウヒしかない)を、最大限有効活用することに結び付けられていると言えるだろう。また同時に、従来のトウヒとしての素材が全く異なるものに生まれ変わることで、木材の見た目を施したユニークな製品が生まれるきっかけにもなりつつある。現在EPFL + ECALラボは創造的な製品開発に取り組みたいエンジニアやデザイナーに対してもこの素材をもとに協力し、新たな製品が生まれる可能性を提供している。

まさに新素材の開発とデザインの可能性を追求する画期的な取り組みだといえよう。

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