拡大するレーザー焼結の高性能ポリアミドたち。最終品をつくるEOSの狙い

レーザー焼結法(SLS)のナイロン(ポリアミド)素材の拡大

金属素材の3Dプリント製法として注目が集まるレーザー焼結法(SLS)。2014年に特許が失効したことから、廉価版の開発が期待される技術だ。このレーザー焼結法が注目される理由の一つが、金属粉末の造形ができるということが挙げられるが、この金属粉末の分野でトップを走るのは何といってもドイツのEOS社だ。

もともとEOSはSLA光造形のメーカーとして活躍していたが、1994年に世界発のレーザー焼結法(SLS)の3Dプリンターのプロバイダーとなることで、金属粉末造形の分野で世界一のトップシェアを誇る。その市場シェアは全世界で40パーセントに上り、圧倒的な存在感を誇っている。このEOSだが、実は1994年の導入時には金属粉末と同時にプラスチック粉末を試作するモデル、P 350を立ち上げている。

P350は本日ご紹介する後継機P 396の前進モデルとなる3Dプリンターだが、現在このP 396は飛躍的な進化を遂げつつある。もともとP 396は2年前の2014年4月に発売が開始されたマシーンだが、現在ではさまざまなナイロン(ポリアミド)パウダーの利用が可能で、プロトタイプから機能性パーツまでとものづくりの分野を大幅に拡大してきている。

またP 396が導入される業界も自動車や航空宇宙、医療、宝石と非常に幅広く、レーザー焼結法(SLS)の導入が大きく広がりそうだ。本日はレーザー焼結法(SLS)でトップを走るEOSのもう一つの主力P 396のさまざまなナイロン(ポリアミド)素材についてご紹介しよう。3Dプリント技術はどんどん進化を遂げ、データからのダイレクト製造の並みが徐々に広がりつつある。

レーザー焼結法(SLS)の基本的な仕組み

P 396の強化されたナイロン素材をご紹介する前に、簡単にレーザー焼結法(SLS)の原理と仕組みについてご紹介しよう。レーザー焼結法とは、Selective laser sinteringといいその頭文字をとって「SLS」とも言われる。粉末状の材料にレーザービームを照射することで焼き固める方法である。一般的な金型や鋳造などと異なる点は、融点よりも低い温度で加熱するため、ドロドロにならずに焼結体と言われる物体にすることができるといった特長を持つ。

1層1層三次元のデータに基づきレーザービームで焼結し、積層する方法で、材料はナイロン粉末やセラミック、チタンや鋼などの金属類の物体を作ることができる。その特長は強度が高い物体を生成可能で、機能的な構造体や柔軟性のあるパーツも作ることが可能な点だ。一方、完全な溶融ではないため表面に粉末のザラザラ感が残り、多少粗い感じがする。

剛性、強度、難燃性など大幅に強化。数種の新型ポリアミドパウダー

このレーザー焼結法で主力となるナイロン(ポリアミド)素材に関して、EOSはこれまでさまざまな研究開発を行ってきた。例えば昨年の9月にはナイロン(ポリアミド)パウダーをカラーコーティングする企業DyeMansion社へ出資することで、大幅に耐久性や耐磨耗性を強化した素材を開発している。

このカラーコーティング技術によって、ナイロン(ポリアミド)による造形精度が大幅に向上し、最終品への利用などの幅がより拡大することとなっている。EOSはこうした3Dプリントの精度を材料面から向上させることで、利用の幅を広げ、最終品を直接製造できるレベルを目指しているといっていい。

今回はその一貫として、強化された数種類のナイロンポリアミドパウダーを追加した。第一がアルミニウム配合のポリアミド素材であるアルマイド。アルマイドはこれまでの3Dプリント素材よりもはるかに剛性が高い。その他難燃性を強化されたタイプのもの。さらにはガラスビーズ配合や炭素繊維配合によって強度が大幅に強化されたナイロン(ポリアミド)パウダーが加わることになった。

上記でご説明したようにレーザー焼結法(SLS)によって作られたナイロン(ポリアミド)の造形物は比較的強度も高く、柔軟性もある仕上がりができるので、この機能が剛性や難燃性、更なる強度と組み合わさってより使用用途が拡大することが予測される。以下は、主なナイロンポリアミドパウダー。これ以外にも多数のラインナップを揃えている。

アルミニウム配合ポリアミドAlumide

  • 簡単な後処理、良好な機械加工
  • 高温性能
  • 熱伝導率
  • 高剛性
  • 密度と剛性のバランスのとれた比率
  • 優れた寸法精度

ガラスビーズ充填ポリアミドPA 3200 GF

  • 高剛性
  • 耐摩耗性
  • 改善された温度性能
  • 良好な熱負荷能力
  • 優れた表面品質
  • 高い寸法精度とディテールの解像度
  • 良好な加工

炭素繊維強化ポリアミド CarbonMide

  • 極端な強度と剛性
  • 熱・電気伝導率(数量限定)
  • 最高の強度/重量比
  • 軽量

ポリアリールエーテルケトン OS PEEK HP3

  • 高性能材料
  • 優れた温度性能、強度、剛性、耐薬品性
  • 最高の火災、煙や毒性のパフォーマンス
  • 優れた耐摩耗性
  • 本質的に難燃剤
  • sterilisability
  • 優れた高温性能
  • 優れた耐加水分解性

目指すは最終品、機能性パーツのダイレクト製造

EOSのナイロン(ポリアミド)パウダー開発は、あきらかに最終品や機能性パーツのダイレクト製造を目指している。今回の新型パウダーによって強度や耐久性が強化され、難燃性などの機能も加わり、より実用的な造形が可能となった。さらには昨年来取り組むカラーコーティング技術によって、レーザー焼結法の欠点であった表面の粗さが解消され、見た目の美しさだけではなく耐磨耗性や耐候性、防水性も付加されつつある。実は既にこうした最終品や機能性パーツへの導入は試験的に開始されており、EOSのP 396と機能性ナイロン(ポリアミド)パウダーが活躍し始めているのだ。

学生フィーミュラーレースカーの車両冷却通気機能を3Dプリント

例えば、イギリスにおける学生フォーミューラーカーレースの車両冷却システムをEOSのP 396と新型ナイロン素材によって3Dプリントする試みが行われている。このレースの車両には24リチウムポリマー電池を使い60馬力を伝達するための2つの電気モーターを備えているが、三つの課題を抱えていた。

第一の課題が電気モーターの回転によって引き起こされるバッテリー内の加熱を抑え、火災の可能性を除去すること。第二が加熱を抑えるだけではなく同時に、車両重量の増加を最小限に抑えることである。また第三に、学生フォーミュラーレースであることから予算的にも金型による射出成形など高額な費用はかけることができないといった点が挙げられる。ここでこの3つの課題を克服するために使用されたのが強い剛性と熱伝導性を有するナイロン(ポリアミド)素材である。

実際、P 396とナイロン(ポリアミド)パウダーを用いて3Dプリントされた通気冷却システムは重量わずか77グラム、バッテリーコンテナ内の温度を80度から50度に落とすことに成功した。またこのチームの車両は耐久性と効率性の分野で第4位を受賞している。もちろん3Dプリントであることから、コストやリードタイムは金型に比べて大幅に低いものとなった。

学生フォーミュラーカーの通気冷却装置に利用

EOS P 396スペック

  • 対応素材:ナイロン11、ナイロン12、ガラスビーズ充填ナイロン、アルミニウム配合ナイロン、炭素繊維配合ナイロン、難燃剤配合ナイロン、ポリスチレン
  • 造形サイズ:340mm×340mm×600mm
  • 層の厚さ:60ミクロン
  • プリンターサイズ:1840mm×1175mm×2100mm
  • プリンタ重量:1060kg
  • 用途:プロトタイピング、航空宇宙、自動車、医療、民生用アプリケーションのための複雑なオブジェクトの短期製造
  • 価格:267,000ユーロ(約3000万円)

まとめ レーザー焼結(SLS)3Dプリンタの躍進

EOSのP 396は造形時間も大幅に向上しており、その他の製法であるFDM 熱溶解積層法などよりも早く造形することができる。またナイロン(ポリアミド)素材もさまざまな種類が登場しており、用途も従来からのプロトタイプを超え、小ロットの短期製造であれば可能となってきている。その範囲は幅広く、産業向けの航空宇宙産業から自動車、医療にはじまり、一般消費者向けの民生用まで多岐にわたる。

レーザー焼結法(SLS)というと金属素材の方に注目が集まりがちだが、こうした背後にナイロンポリアミドによる高機能ハイブリッド素材が以外な力を発揮し始めているようだ。強化素材との組み合わせやカラーコーティング技術など、EOSの開発や取り組みは、全て理にかなっており一部のスキもない。今後の開発動向にも注目していきたい。

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