エレクトロニクスの複合3Dプリントを実現。驚異のDIW(直接インク書込み)技術

多角化する3Dプリント技術の開発

近年に入り、さまざまな手法が開発されるダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング。そのうちのほとんどのものが、従来からの製法をベースにしたものだ。

熱可塑性樹脂を使い押し出し積層するFDM(熱溶解積層法)。紫外線硬化樹脂をベースに硬化する光造形。レーザービームを照射することでパウダー状の素材を焼き固めるレーザー焼結法など、これまで長年蓄積されてきたノウハウと技術をベースに新製法が開発されている。

高速性、造形精度、素材の3分野の開発

こうした新たに開発される3Dプリント技術は、必ず“高速性”、“造形精度”、“素材の多角化”という3つの分野で従来のものよりも秀でた特性を持つ。より高速性を高めることで生産性を。造形精度を高めることでプロトタイプではなく最終品を。素材を多角化することで、造形範囲を広げてきた。

しかし、この新たな開発の要素はこれまでご紹介してきた3つの要素以外にもう一つ加えられるべきだ。それが“大きさ”である。

“大きさ”の分野でも新たな開発と可能性が

上記の3つの要素の向上が目指していることは、言うまでもなくさまざまな最終品のダイレクト製造だが、現在この世に存在する多くの“モノ”をデータからダイレクト製造するためには、さまざまな“大きさ”に対応した3Dプリント技術も必要となる。本日はその“大きさ”特に“ミクロレベル”に挑戦する新たな3Dプリント技術をご紹介しよう。

既に大きい造形に関してはさまざまな取り組みが行われている。自動車のダイレクト製造を目指すローカルモーターズと開発を進めるオークリッジ国立研究所は、自動車フレームをダイレクト製造するための巨大3Dプリンターを開発した。また中国の研究機関では巨大な金属3Dプリンターも開発している。

巨大3DプリンターBAAM

一方、マイクロ3Dプリント技術はどのレベルまで進んでいるのだろうか。また、マイクロ3Dプリント技術の発展は製品開発にとってどのような可能性をもたらすのだろうか。本日はローレンス・リバモア国立研究所のマイクロ3Dプリント技術であるDirect Ink Writing (DIW)とその可能性についてご紹介しよう。

ミクロレベルの造形を可能にするDIW(直接インク書込み法)とは

Direct Ink Writing(DIW)技術とはその名のとおり、直接インクを書き込む3Dプリント製法のことである。その特長は直接、インク(ゲル状)を体積させることから、極めて微細で高精度な造形が可能になるという点である。そのレベルはナノメートルほどの微細さで、精密さが要求される物体の造形には期待が集まる製法でもある。

ちなみにローレンス・リバモア国立研究所はアメリカ合衆国エネルギー省管轄の研究機関でもともと1952年に核開発を目的に設立された国立研究所。現在は物理学や環境、バイオテクノロジー、エネルギーなどあらゆる研究開発を行っている。

一般的なDIW(直接インク書込み法)

もともとRobocastingとも呼ばれるこの製法は、FDM(熱溶解積層法)に似た技術で、インクをノズルから押し出して積層する方法である。今回ただしFDM(熱溶解積層法)が熱可塑性樹脂を溶かして積層し冷却されて固まるのとは違い、DIW(直接インク書込み法)は、溶かしたり冷却したりする必要は無くインク状の素材をそのまま積層するだけである。

そのため、従来のDIW(直接インク書込み法)で造形された物体(おもにセラミック系)はそのままだと脆く柔らかいため、造形後焼結して固める必要があった。しかしローレンス・リバモア国立研究所はこのDIW(直接インク書込み法)で扱うことができる素材を多角化することで、これまでにない利用方法を可能にしている。

一般的な直接インク書込み法(DIW)

複数の材料をインク化し、ミクロレベルで3Dプリント複合を実現

ローレンス・リバモア国立研究所の開発は、二つのポイントにフォーカスしている。それは素材の多角化と押出ノズルの複数化である。DIW(直接インク書込み法)の利点でもあるミクロレベルと、複数の素材の複合を活かすことで、これまでの3Dプリントでは作ることができなかった造形が可能になる。

導電性金属インクで物体に電子回路埋め込みが可能

例えば、ローレンス・リバモア国立研究所は、導電性金属インクの開発を進めることで微細なレベルで物体に電子回路を組み込むことを可能にしている。下記の動画はガラスドームの半球状の基板に導電性インクを直接描く動画だが、従来のような平面状の基板だけではなく球体のものにも電子回路を埋め込むことが可能になる。既にこの開発はVoxel8なども行っているが、ローレンス・リバモア国立研究所もミクロレベルで物体に電子回路を組み込むことが可能になる。

導電性金属インクによる電子回路埋め込み動画

伸縮、変形可能なパッチ状構造が内蔵されたアンテナ     ※画像出典:ローレンス・リバモア国立研究所

グラフェンのインクゲルも開発。ナノエレクトロニクスの3Dプリントも

また、ローレンス・リバモア国立研究所は、この導電性金属インク以外にもグラフェン配合のゲルを開発している。グラフェンはフィラメントなどでも利用されているが高い電気伝導性を持ち、機械的剛性に優れる素材だ。このグラフェン配合のゲル状インクもエネルギー貯蔵システムやセンサなどのナノエレクトロニクスの3Dプリントが可能になる。これ以外にも、ガラスやシリコーンといった素材のインク開発に成功しており、さまざまな特性を持つインクゲルを複合させることでものづくりの可能性が大きく広がることとなる。

グラフェンのインクゲルの3Dプリント動画

マイクロ電池構造体  ※画像出典:ローレンス・リバモア国立研究所

独自ノズルの技術でインクの材料特性を自由に調整可能

このミクロレベルのインクゲルの3Dプリントを可能にしているのが、ローレンス・リバモア国立研究所独自のノズル技術である。インクの最大の特性はゲル状をしていることから、さまざまな物性を付与しやすいという点にある。

そのためこのDIW(直接インク書込み法)のノズルには、インクを押し出すノズルの先端部分に非常に小さな回転ローターを装備しており、ノズルからインクゲルが噴出する前に異なる材料を自由な比率で混合することが可能になる。つまりデジタルデータに則って、部分々で材料の組成を変更することが可能で、単一のパーツないにさまざまな特性を与えることが可能になる

。これにより、一つのデジタルデータから、ある部分は柔軟性があるシリコーンボディを、内部には金属インクによる電子回路を組み込むといった新技が可能になるのだ。ちなみに現時点では二つのノズルからインクをプリント可能で、サブミクロンの分解能を維持しながら最大毎秒10センチメートルから30センチメートルまでプリント可能だ。

独自開発のノズルで、インクを抽出する前に、素材の配合を自由に調節できる。
グラフェンを配合したインクゲルで3Dプリント。さまざまな特性を与えられる。

まとめ

このローレンス・リバモア国立研究所が開発するDIW(直接インク書込み法)とHPの開発するMulti Jet Fusion3Dプリンターには共通の発想が存在する。どちらも素材のベースをインクに持っており、そのインクにさまざまな異素材を配合することで造形パーツにさまざまな特性を持たせようというものであった。

それぞれアプローチは異なるが、基本となる発想のポイントは一緒である。このインク特性の自由な調整がもたらす技術の目指す先は明らかで、完全なるダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングの実現である。インク特性の変更によりある部分は導電性を付与させたり、ある部分は柔軟性を持たせられるなどこれまで別々に個別のパーツを作りアッセンブルしてきた手法が、極論を言えば1台のマシーンさえあれば代替可能になる。

これによりますます製造の産業構造は変革し、一気にものづくり、製品開発のグローバル化が進むに違いない。そのような時代においてはより柔軟に対応できるデジタルデータの設計ノウハウと、本質的な価値を与える“デザイン”の力が求められるようになるだろう。

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