デジタルモールド®が2016年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 を受賞。ものづくりに革新を起こす力

デジタルモールド®が2016年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 日経産業新聞賞 を受賞

毎年、日本経済新聞社が特に優れた新製品や新サービスを表彰する日経優秀製品・サービス賞。今年で35回目を迎えるが、3Dプリントによる樹脂型であるデジタルモールドが、2016年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 を受賞することが決定した。

デジタルモールドは、有限会社スワニーストラタシスが取り組む、3Dプリンターによる樹脂金型だが、これからのものづくりの可能性を大きく広げる新たなソリューションとして、より一層注目が集まる取り組みだ。

以前、本サイトでもデジタルモールドとデジタルモールドの応用版ともいえるハイブリッドモールド、デジタルモールドプレスについてご紹介したが、改めて、デジタルモールドの特長や、その革新性、デジタルモールドを使用することでものづくりがどのように変わり、どんなメリットが得られるのかをご紹介したいと思う。

デジタルモールド®が2016年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 日経産業新聞賞 を受賞 ※画像提供:ストラタシス

デジタルモールド®とは

それではまず初めに、デジタルモールドの概要についてわかりやすくご紹介しよう。

デジタルモールドとは、3Dプリンターで作られた樹脂製の金型のことである。これにより、熱可塑性樹脂であるABS樹脂ポリスチレン(スチロール樹脂、PS)ポリアセタール(POM)ポリプロピレン(PP)などの射出成型で利用することができる。より厳密にいうと、ストラタシスが開発しているインクジェット3DプリンターObjet Connex 3シリーズStratasys J750)と、独自に開発された紫外線硬化性樹脂、デジタルマテリアルを使用して作られる樹脂製の型のことである(技術的な背景はのちに後述する)。

デジタルモールドは有限会社スワニーとストラタシスが共同で手掛けたものであり、有限会社スワニーの登録商標でもある。この3Dプリンターの樹脂製の金型、最大の特長が、これまで金属の塊を削り出すことでしか作れなかった金型というツールを、デジタルデータと3Dプリンターでダイレクトに作りだすことで、ものづくりの可能性を大きく広げることを実現している点にある。

これまで金型を製造するためには、莫大なコストと製作期間がかかっていたが、デジタルモールドを使用すれば、より迅速に、より低コストに金型を作ることが可能になる。

また、誤解してはならない点だが、デジタルモールドは、それそのものが現在の金型にとって代わるものではない。むしろ既存の金型製造のプロセスに組み込むことでも、現在の金型製造の工程を短縮させ、より柔軟な使い方ができるという新たな価値を提供してくれる。それではデジタルモールドの特長とメリットについてご紹介しよう。

射出成型用の金型として使用できる。ABS樹脂や、ポリプロピレン、ポリ汗タール、ポリスチレンといった熱可塑性樹脂を成型できる。 ※画像提供:ストラタシス
PolyJet 3Dプリンターの新型、ストラタシスJ750。これ以外にConnex 3シリーズでデジタルモールドは生成できる。

デジタルモールド®の革新性① 金型とプロトタイプ作製のプロセスを大幅効率化

第一に、デジタルモールドがもたらす新たな価値として、既存の金型の製造プロセスを大幅に効率化することができる。ちなみに金型とは、プラスチック製品や金属製品などを量産するために必要な型のことだが、基本的に金属の塊を削り出して作られるのが一般的である。

例えば、プラスチック量産で代表的な加工方法である射出成型は、金型内に、加熱して溶かしたプラスチックを流し込み、冷却して固形化する製法であるが、金型製造には多額のコストと時間がかかる。

金型そのものの試作を大幅に効率化できる。

金型修正のコストと時間を大幅に削減

多額のコストと時間がかかる理由は、第一に、最終品と寸分たがわぬ形状を量産するまでの微修正が重なるためである。金型はプラスチックの熱収縮や最終品の形状ごとの微妙な調整など、量産段階に至るまでには何度も金型を削り出し、微修正を行う必要がある。

この工程は、製品のプロトタイプが決定した後も、繰り返し行われる工程で、その都度、修正と確認という工程が発生する。修正回数が増えれば増えるほど、コストと時間は増えることになる。

しかし、デジタルモールドでは、デジタルデータを修正すればわずか1日で、修正版の型をアウトプットすることができる。

また、ストラタシス社のPolyJet 3Dプリンターでは、PolyJet方式というインクジェット技術に基づく独自の製法により、一度に何パターンもの修正版を作り出すことができる。PolyJet 3Dプリンターとデジタルモールドであれば、金型を最終版まで仕上げるためのトライ&エラーを圧倒的に短縮することができるのである。

金型修正と合わせてプロトタイプ作製も同時並行できる

デジタルモールドは、上記で述べたように金型修正のトライ&エラーを迅速にしてくれるが、より一歩進んだ使い方を行った場合、プロトタイプ製造と、金型修正を同時に行うことができる。

従来の製品開発のプロセスでは、まず初めに作りたい製品のプロトタイプを作製し、検証と修正を重ねる。その後、形状が確定したら金型の設計と製造に取り掛かるという流れだ。

しかし、デジタルモールドを使用すれば、このプロトタイプの作製と、金型の設計と製造という二つのプロセスを同時並行で行うことができるのだ。プロトタイプの修正と同時に金型の設計データを修正すれば、同時にアウトプットできるし、更にはデジタルモールドを使って最終品と同じ材料で試作することができる。

例えば射出成型であれば、デジタルモールドを使い、最終品で使用する熱可塑性樹脂を使って、修正した型からプロトタイプを作製することができる。

デジタルモールド®の革新性② 小ロット量産とカスタマイズ量産が可能

デジタルモールドの革新性として、大きな注目が集まるのが小ロット量産やカスタマイズ量産の可能性である。

上記のプロトタイプの同時作製で述べたように、デジタルモールドは最終品で扱う材料と同じものを使用することができるため、そのまま最終品として提供できるものを作りだすことができる。また、PolyJet 3Dプリンターは一度に複数のデジタルモールドを作り出すことが可能なため、さまざまなタイプのデジタルモールドから、カスタマイズ品も量産することができる。

ただし、あくまでも樹脂製の型であることから、金属製の金型ほどの耐久性はなく、数十から数百程度の小ロット生産に最適な性能を発揮する。これによりユーザーのニーズに応じて、柔軟な販売数量を生産することが可能で、大量生産の金型との使い分けも可能となる。

更に、デジタルモールドの強みは、こうした小ロット生産以外に、量産品とは別に在庫品として管理しなければならないサービスパーツの生産にも利用が可能だ。サービスパーツは、保守部品として常に一定数量を在庫として確保しなければならないが、デジタルモールドであれば、在庫として管理せずとも、オンデマンドで生産ができる。

あらゆるパターンをカスタマイズし、小ロットでの量産が実現できる。

テストマーケティングに最適。製品開発のハードルがより下がる

この小ロット量産とカスタマイズ量産という二つの使い方は、デジタルモールドのものづくりにおける革新性を示す最大の特長であり、テストマーケティングやサンプリング、ノベルティなどの生産に、最適な効果を発揮する。基本的に従来の金型は、最低1000個以上など、一定数の販売量が見込まれる場合にしか採算が合わず、新たな製品開発に乗り出すことができなかった。

しかし、デジタルモールドを使用すれば、新製品開発にかかるコスト面からのハードルが大きく低下することになり、気軽に新製品開発に取り組むことができる。例えば、テストマーケティングとして小規模からビジネスを開始し、販売量が見込まれる段階で、金属の金型で量産に乗り出すという柔軟な対応が可能になる。

デジタルモールド®を可能にするPolyJetテクノロジーとデジタルABS

それではここで、デジタルモールドを作り出すストラタシスのPolyJet 3DプリンターとデジタルABSについてご紹介しよう。デジタルモールドは、先にも述べた通り、インクジェット方式の3DプリンターであるPolyJet 3Dプリンターによって作り出される。

このPolyJet方式とは、インクジェット技術を活用した光造形法の一種で、液体の紫外線硬化性樹脂をインクジェットヘッドから噴出し、そこに紫外線を照射して固めていく方式であり、造形と同時に異なる物性を持つ紫外線硬化樹脂を任意の配合率で混合することができるため、複数の任意の物性をもつ素材を同時に再現することと超微細で精巧な造形ができる点が特徴的である。

ストラタシスのPolyJet 3Dプリンターについてはこちらもどうぞ

ABS樹脂なみの耐久性・耐熱性を実現したデジタルABS

また、ストラタシスが開発したデジタルマテリアルを使用すれば、硬軟さまざまな質感や、カラー表現、耐久性などに優れる機能性樹脂を再現することが可能だ。このデジタルマテリアルのベースとなっている紫外線硬化性樹脂とは、液体状の樹脂素材でアクリル樹脂エポキシ樹脂がベースになっており、紫外線によって硬化する特性を持つ。

また一度硬化してしまうと、紫外線硬化性樹脂は、加熱しても溶けることはない。 デジタルモールドが射出成型などの型として使用できる理由も、この紫外線硬化性樹脂の特性によるもので、加熱すると柔らかくなり液体状になる熱可塑性樹脂とは相反する性質を持つため、デジタルモールドに溶けた熱可塑性樹脂が注入されても、決して樹脂同士くっつくことはない。

更に、金型として使用する場合には、一定の耐久性や耐熱性が必要になるが、そこにもストラタシスが開発した独自素材であるデジタルマテリアルの性質が活かされている。デジタルモールドに使用されるデジタルマテリアルとは、単一の紫外線硬化性樹脂ではなく、2種類の紫外線硬化性樹脂を組み合わせることで作り出されるデジタルABSという独自素材で、耐久性や耐熱性が高いABS樹脂の特性を再現されたものである。

これにより、樹脂型というこれまでの3Dプリンターでは実現不可能であった、新たな価値が提供できるのである。

デジタルモールド®の更なる応用

デジタルモールドは、これまでご紹介してきたように、金属の金型の試作や、小ロット、カスタマイズ量産といった、ものづくりの新たな可能性を実現し始めているが、更なる進化、応用を遂げつつある。

ここでは、デジタルモールドの応用編ともいえる「ハイブリッドモールド」と「デジタルモールドプレス」についてご紹介しよう。この二つの応用技術については、「デザインから量産までわずか6日。ハイブリッドモールドの驚異的な力」、金属プレス加工が進化。デジタルモールド・プレスの力」という二つの記事でも詳しくご紹介しているので、そちらもご参照いただければと思う。

ハイブリッドモールド、耐久性を向上させ量産性をアップ

デジタルモールドは、PolyJet 3DプリンターとABS樹脂の耐久性・耐熱性を再現したデジタルABSによって作られる樹脂金型だが、ハイブリッドモールドは、このデジタルABSにアルミの削り出しで作られたアルミ型を組み合わせたものである。

デジタルABSそのものは金型の高圧力にも耐えうる耐久性を持っているが、アルミ型と連動させることで更なる耐久性向上が期待できるというものである。これにより、小ロットの生産量もデジタルモールドのときに比べて大幅に上昇している。

例えば、1000個程度のロット生産であれば、アルミ型との連動で迅速に生産することが可能となる。また、アルミ型の内部に中子のような形でデジタルモールドを加える使い方なども可能で、表面加工の様々なパターンなども、デジタルABSで作られた中子部分を差し替えるだけで対応可能であり、マスカスタマイズといった対応も実現することができる。

アルミ型との組み合わせで量産性を強化したハイブリッドモールド。
デジタルモールドで中子を造りカスタマイズ量産にも対応できる。

ハイブリッドモールドについてはこちらもどうぞ

デジタルモールドプレス、金属パーツの量産分野にも進出

これまで、一般的にデジタルモールドが活躍してきた分野は、射出成型つまり、プラスチックの量産での分野であったが、プレス加工、すなわち金属パーツの量産分野での利用も開始している。

プレス加工は、金属製品の量産加工で最も一般的な加工方法で、板状の金属を金型ではさみこみ、プレスし圧力を加えることで成型化する製法だ。このプレス加工での利用では、有限会社スワニーと中辻金型工業株式会社が取り組んでいる。

デジタルモールドは、このプレス加工の金型としても利用が開始されており、こちらでもさまざまな効果を発揮し始めている。プレス加工では鉄、アルミ、ステンレス、チタン、など様々な金属材料が使用されるが、基本的にプレス加工用の金型は、金属の種類によって使い分けるのが一般的である。

鉄ならば鉄専用の金型、チタンならばチタン専用の金型と、金属の素材ごとに金型を用意しなければならない。これは、金属には塑性といって、力を加えると変形する特性があるが、金属の種類によってこの塑性が異なるためである。そのため金属の種類が変われば、当然金型もその金属の塑性に対応したものに変更されなければならない。

しかし、デジタルモールドであれば、ABS樹脂の性能に近い強靭な樹脂素材であるため、金属ぞれぞれの塑性に合わせて金型の方が調整し対応してくれるという特性を持つ。そのため、一種類の金型で、複数の異なる種類の金属素材を成型することが可能となる。

また、このデジタルABSによる柔軟な対応は、金属加工の工程も変えることになる。金属の表面加工、特にメッキや研磨といった処理は、プレス加工で成型後、作業されることになるが、デジタルモールドプレスでは、表面加工を行ったのちにもプレス加工で形状をつけることができる。

これは金属加工の作業工程上、画期的なもので、表面処理を加工後に行うよりもはるかに楽で短い期間で処理が済むのである。このように3Dプリンター樹脂金型ならではの柔軟性により作業工程も短縮しつつ、さまざまな金属素材のプロトタイプにも最適であり、小ロット生産にも対応するというわけである。

プレス成型にも対応。金属量産を実現している。
微細な表面加工にもデジタルモールドプレスであれば、対応できる。

まとめ ものづくりの挑戦を容易にし、新たな可能性を広げる力

デジタルモールドは、これまで述べてきたように、従来の金型製造の分野に大きな影響を与えつつある。

これまで金型製造には、多額のコストと、長い製作期間を要していたが、デジタルモールドを取り入れることで、より手軽に、より柔軟に、製品開発に挑戦することができる。

3Dプリンターで一つ一つの製品を生産することは、コストもかかり、対応している3Dプリンターも限定されている。一方、金型を作って生産するためには、その製品が金型の製造コストを改修できるだけの販売量が見込めなければならない。こうした現在あるギャップ、隙間を埋め、よりものづくりに柔軟性を与えてくれる存在がデジタルモールドなのである。

製品企画からデザインまでできれば、次の工程のプロトタイプとテスト生産まで、デジタルモールドを使って一貫して行うことができる。また従来の金型のように生産量を気にしなくても、小ロットから生産できるのも、新しく製品開発に取り組む環境を整えてくれる。

このように、デジタルモールドは、ものづくりの挑戦を容易にし、新たな価値ある製品が生み出される可能性を大きく広げてくれるソリューションなのである。このあらたなカタチの製品開発ソリューションは、これまでにない3Dプリンターの使い方として、今後大きな力を発揮していくことになるだろう。

※デジタルモールド®は、有限会社スワニーの登録商標です。

インクジェット3Dプリンターの原理と仕組み

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