導電性を備えたグラフェン3Dプリントフィラメントとその未来

3Dプリンター開発の行き着く先とは

3Dプリンターの開発の行き着く先は、どのようなものなのだろうか。現在の3Dプリンターの多くは、さまざまな素材に対応している。多種多様なプラスチック素材、金属、セラミック、ゴム、さらには食品まで登場している状況だ。こうした素材とそれに対応した3Dプリンターで作れるものは、試作品やパーツ類を始め、筐体や、アート作品、など従来表現することが不可能であった機能やデザインを可能にする。

しかしその一方で、こうした従来の3Dプリンターの概念を超える開発が進められている。それは電子デバイスそれ自体を3Dプリントしてしまおうというとりくみだ。

通常、パソコンやテレビ、冷蔵庫、洗濯機といった電気で動くあらゆるものは、内部に電子回路が書き込まれた基板が配置されてある。たとえばパソコンを例にとってみると、外側のカバーはプラスチックで作られており、内部のパソコン自体を動かす核となる部分は、多層化した複雑なプリント基板と無数の電子部品で構成されているというわけだ。

当然、プラスチックの筐体と、内部の電子回路は別々のところ、別の会社が製造し、最終的にメーカーがアッセンブルし最終品に仕上げる製造工程をとっている。しかし、最近登場した3Dプリンターの開発は、この従来のアッセンブルするという概念を根本から変えてしまう可能性を秘めている。

以前もご紹介したVoxel8は、二つの押出ノズルを使用し、プラスチックの筐体内部に直に電子回路を組み込む3Dプリンターだが、その機能は電子機器をダイレクトに製造することを目指していると言えるだろう。本日ご紹介する導電性フィラメントもそうしたことを想定した新型材料だといえる。グラフェン3Dラボは、以前から開発する導電性を帯びたフィラメントを正式にリリースした。本日は電子デバイスを3Dプリントするための導電性フィラメントをご紹介。

電子回路を3Dプリントできる導電性フィラメント

グラフェン3Dラボは、以前から度々ご紹介している、グラフェン素材の3Dプリント材料を開発する企業だ。グラフェンとグラフェン3Dラボについては下記のリンクをご参照いただければと思うが、グラフェンは高い導電性を帯びた未来の素材と言える。今回正式にリリースされた導電性フィラメントBLACKMAGIC3Dは、PLA樹脂をベースに導電性の高い独自のナノカーボン血小板を組み込まれたもの。

これにより、立方センチメートルあたり、1オームの電気抵抗率が付与される。この材料で3Dプリントすることで作ることができるのが、電子機器に幅広く使用されているタッチセンサー部分。よりわかりやすく言うと、ゲームコントローラーやデジタルキーボード、トラックパッド、ドラムマシン、MIDIコントローラーといったプロダクトの試作がこの導電性フィラメントを使ってつくることが可能だ。

従来であれば、こうした電子デバイスを作るためには、電子回路が描かれたプリント基板を基板メーカーに発注するか、もしくはユニバーサル基板などにスズメッキ線などを配置して、一つ一つ「はんだ」づけしなければならない。しかし、こうした回路もダイレクトにこの導電性フィラメントで組み込めるというわけだ。

また、導電性だけではなく、センサーをプリントして作るともできる。これにより、電気通信、病院設備、医療機器、航空宇宙、自動車といったもののパーツ製造にも使用可能とのこと。もちろん従来の導電性を必要としないパーツや筐体にもABSPLAよりも高い強度を付与する。

導電性フィラメントBLACKMAGIC3D
それ自体でもパーツに使用できる

プリントパラーメータ

  • 推奨押出機温度:170〜175°C
  • 推奨プラットフォーム温度:50℃
  • 推奨される印刷速度:1500 50mm /分
  • 推奨後退距離:0〜0.5ミリメートル
  • ノズルサイズ:> 0.5ミリメートル
  • 押出乗数:1.1

リールサイズ

  • リールの直径20センチ(7.87)
  • リール幅5.5センチ(2.16)
  • ハブ径5.2センチ(2.04)

フィラメントスペック

  • フィラメント直径:1.75mm
  • 体積抵抗率:1オーム
  • 重量:200グラム
  • 価格:65ドル

複雑な多層基板の変わりは不可能、開発はこれから

この新しい導電性フィラメントは任意の一般的なFDMプリンターで使用することができるが、同社は、押出機ノズルの直径は0.5mm以上であることを示唆しているため注意が必要だ。また、電子回路や電気デバイスのパーツを試作する際には、当然のことながら、電気抵抗率や電子回路の知識が求められる。

また、現代の電子機器に必要な複雑な電子回路をこれで作ることは不可能であり、同等の優れた精度を出すことも不可能だ。現代の多くの電子機器が、複雑な機能性を発揮するために、電子部品を小型化し、回路も多層化し複雑に書き込めるようにしてある。そのため、簡単な電球が付くレベルであれば、このフィラメントで作ることが出来るかもしれないが、センサーやコントローラーなどは相当の知識と経験が求められるだろう。

しかし、そうとは言え、電子機器の機能を確認することができる試作品を作り出すことができるフィラメントは画期的だといえる。相応の知識と人材がいれば、わざわざプリント基板の試作を出す必要もないし、作業が難しいユニバーサル基板などを使用しなくてもよくなるかもしれない。もちろん精度は未知数、もっと開発が進めばの話だが。

まとめ 開発はまさにこれから

この導電性フィラメントを使った電子デバイスは、当然簡単な試作品をつくることを目的にしている。電子機器にとって命なのは、正確に回路通りに電気を通すことだが、現在の金属を使った基板の方がはるかに電気のとおりがいいためだ。また、ミクロレベルの回路図を形にするには現状のフィラメントでは難しい。

しかし、このフィラメントの登場や、こうした電子機器の3Dプリントが、今まさにここから始まったとしたら、その将来は未知数である。基本の仕組みが整えば、あとは、そこからどれだけ精度を向上させ、複雑化、多層化を実現するかによってくる。長い道のりかもしれないが、その未来は大きな可能性を秘めていると言えるだろう。

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