次なるアメリカの野望。完全なハードウェアの3Dプリンター「未来の工場」の開発

アメリカの次なる狙い。電子機器を製造する3Dプリンター開発

3Dプリンターの開発は、あらゆる分野に及ぶだろう。その行き着く先は完全なデジタルデータからの生産を可能にすることである。ダイレクトデジタルマニュファクチャリング、通称DDMと呼ばれるこの新たな概念は、3Dプリンターの発展とともに、あらゆるモノに浸透するだろう。

現在は樹脂、金属、セラミックなど単一の素材によるものだが、将来は複合材料を可能にし、さらには電子回路を組み込んだ完全なるハードウェアの生産に行き着く。その世界が何年後、何十年後なのかは不明だが、既に物体に電子回路をそのまま内蔵した電子機器を3Dプリントする開発が着々と行われ始めている。

以前もご紹介したCIAの投資機関In-Q-Telが投資するVoxel8もそうだし、本日ご紹介するUTEPテキサス州立大学エルパソ校が開発を進める3Dプリンターも、電子回路と電子部品を組み込んだデジタルデータからダイレクトにハードウェア製造を行うためのものだ。

そしてさらに、このUTEPテキサス州立大学エルパソ校の開発に、アメリカの3Dプリンター開発の中心的存在でもあるAmerica Makesが210万ドル、日本円にしておよそ2億5千万円もの補助金を投入していることがわかった。世界各国で3Dプリンターの開発は進められているが、アメリカはその中でも最も先進的な存在。そして先のVocel8への投資も含め、次なる狙いは完全なるハードウェアのDDMを目指していることが明らかだろう。

本日はUTEPテキサス州立大学エルパソ校が開発する新たな3Dプリンターの可能性についてご紹介しよう。

完全なハードウェアのデジタル製造を目指す「未来の工場」とは

この「未来の工場」という相性で呼ばれる3Dプリンターは、一般的な3Dプリンターではなく電子機器を生産するためのものだ。冒頭でも述べたとおり、3Dプリンターは一般的にプラスチックや金属など、単一の素材を使って物体を生成するものだが、このUTEPテキサス州立大学エルパソ校が開発中のものはプラスチック素材の内部に、ワイヤー、導電性インク、電子部品などを配置して完全に機能する電子機器を生産することを目的としている。

通常電子機器は、ハードウェアを動かすための回路基板と、外側の筐体部分とでは製造ラインも設計も別々に行われ、最終的にアッセンブリーされることで一つの完成した製品となる。しかし、Voxel8もそうだがこの「未来の工場」も完全にデジタルデータからの後処理、アッセンブリーなしのダイレクト製造を目指しているわけだ。

ちなみに将来的には携帯電話でも衛星でもどのような電子機器でも製造することを可能にさせるとのことで、「未来の工場」も中小企業や大学などをターゲットに手頃な価格での提供を目指す。

この開発のプロジェクトリーダーであるライアン・ウィッカー博士と、ディレクターのケック・センター氏は、「我々のこの技術は、中小企業や大学のために手頃な価格で提供されますが、また次世代部品の開発と生産を行う大企業にとっても非常に魅力的な技術になると考えています。」と述べている。

総額10億円以上の投資。官民一体の開発で一部実用化も

このUTEPの「未来の工場」3Dプリンターの開発は、既にエレクトロニクス製造の分野で実用実験も行われている。UTEPが行った3Dプリント無人偵察機の回路基板の部分にこの「未来の工場」によって作られた電子回路部分が埋め込まれ使用されたとのこと。

実はこの「未来の工場」の開発がアメリカ政府から資金提供を受けるのは今回が初ではなく、既に2011年の段階で900万ドル、日本円にして約10億円もの研究資金を受けており、電子部品と回路設計の埋込みの研究開発に注力してきた。この膨大な資金提供の背景には、官民一体となったアメリカの戦略的な経済政策が見て取れる。

今回210万ドルの資金を提供したAmerica Makesは言うまでもなくアメリカ政府、巨大メーカー、3Dプリント関連企業、学会、非営利団体など、AM製造技術によりアメリカの経済力を促進するための次世代プロジェクトを進める機関。インターネットが全世界をおおうグローバル時代において、国の製造競争力に革新を起こし競争力を圧倒的にたかめることを狙いとしている。

そのためこのUTEPテキサス州立大学エルパソ校の開発も単なる一大学の研究開発ではなく、背後にチャールズ・スターク・ドレイパー研究所、ストラタシス、ノースロップ・グラマン、ロッキード・マーチンといった顧問陣が協力している。ストラタシスは言うまでもなく全世界50パーセント以上もの市場シェアを持つ3Dプリンター業界のグローバルリーダーであり、ノースロップ・グラマンは、戦闘機・軍用輸送機・人工衛星・ミサイル・軍艦などを製造している世界4位の軍需メーカーだ。

また、チャールズ・スターク・ドレイパー研究所は国家安全保障、宇宙開発、医療、エネルギーに関する分野において、最新技術による設計・開発・展開を行う非営利組織。この「未来の工場」の開発が資金面からもそれを構成する陣容からもハードウェア製造の分野において世界を制するものだということがわかる。

既に一部実用化も。ドローンの回路設計に使用
実際に搭載されたドローン

まとめ 設計と製造の分離、産業空洞化の課題を解決する可能性

アメリカはまさに官民一体となって電子機器のダイレクト製造を目指していると言える。その狙いは、もう一つ巨大なものづくり革命を引き起こすことにあるのだ。この開発は単純なアッセンブリー工程をなくすということではなく、新たなサプライチェーンの変革だ。

むしろ言い換えれば電子機器のDDMによって、3Dプリンターの最大の影響とされる、サプライチェーンの変革を完遂するのである。それは現在日本のものづくりの現場で引き起こっている産業空洞化の問題を解消する可能性にもつながるだろう。例えば、このシステムが完成すれば、電子回路の設計と製造が分離するという産業空洞化の典型的な問題もなくなるのではないだろうか。

現在の日本のように、常にコスト優先、安価な人件費を求めて諸外国をさまよい歩いた結果、自国の製造ノウハウは次々と流出、設計と製造が分離し、製造現場を知らない設計が作るモノは品質が著しく低下するといった大いなる課題も、解決する可能性がある。いずれにせよこの開発を進めるアメリカはまた一つものづくりの分野で世界の一歩先を行く事になるだろう。

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